28枚目 オクジェイト村の攻防戦 星空の宴
更新が遅れていて申し訳ありません。
すっかり冷えてきましたね。
「それでは、皆様かんぱーい」
その日の夜、ギルド前広場は賑わっていた。
魔物襲撃から村を守った祝賀会だ。
幹事は村長とギルドオクジェイト支部の皆様だ。
「本日は村のためにありがとうございます」
乾杯の音頭を取った村長が、改めて頭を下げる。
それに一同は拍手する。
何はともあれ、冒険者達のおかげでオクジェイト村は守られた。
その感謝を込めて、村長とギルドの店員が急遽用意したイベントである。
【こういう宴はテンション上がるのぅ〜】
「コイロちゃん、麦酒貰ってきたわよ。乾杯しましょう」
エルが麦酒が入ったグラスを持ってくる。
グラスがキンキンに冷えていて、思わず琴花はゴクリと喉を鳴らした。
一仕事終えた後の麦酒の美味さを知っているので喉が鳴ったのは条件反射だ。
「喉鳴らすのはいいが、お前まだ子供じゃねぇか。ジュースにしておけよ」
ノイッシュが横から冷えた麦酒グラスを奪っていく。それをすぐさま取り返す琴花。
「私、こう見えても大人ですッ! 21歳です」
「え……え? えぇぇぇ年上かよ」
ノイッシュも、エル達と初めて会ったときと同じ反応をした。
それに琴花はむぅ〜と頬を膨らませた。
童顔で身長もそんなに高くない琴花は、この世界ではどうもお子様として見られる。
【あっはっはっは、やはり同じ反応をしよるな。愉快愉快】
腹を抱えて笑うウリエル。
「はい、コイロちゃん乾杯」
「乾杯、エル」
グラスをカチャコンと合わせて、二人同時にグイッと煽った。
「はぁ〜冷たくて美味しい〜」
「美味しいわねコイロちゃん」
麦酒の泡を口につけたまま、琴花は笑みを浮かべた。
「よぉお二人さん、ご馳走持ってきたじぇい」
レイが大皿に大量に料理を盛って現れた。
無造作に積まれていて下品極まりない。
「ちょっとレイ、違うソースの料理を同じ皿に乗せちゃダメじゃないの」
「怒るなよエル。そうしないと料理確保できねぇんだからよ」
ほれ見てみろよとレイが来た方向に視線を向けると、食べ盛りの冒険者達が料理が置いてあるテーブルにたむろしているのが見えた。
弱肉強食。
バーゲンセールの世界であった。
「ありゃー急がないと、肉や魚とかなくなってしまうな」
「野菜も食わねぇとダメってのを分かっちゃいねぇな」
「そう言うレイが持ってるお皿には、お野菜の「や」すらなさそうだけど」
「何を言ってらぁ〜エルっち。正直者には全部野菜に見えてらぁ。ガハハハハ。ほれコイロっち、お前さんは食え食え。食って大きくなれなれ」
「むぅ〜もう成長は止まったよ。あとは横にデカくなるしかないよ」
頬を膨らませる琴花の頭をレイはガシガシと撫でた。
それをエルが「乱暴にしないで」と自分の方へ寄せる。
「おいおい、独り占めはダメだじぇい。本日のヒーローなんだからよぉ。ほれ村長さんがやって来たぜ」
「コイロ君は君かね?」
「あ、はい」
杖を持つ男性が琴花達の元にやって来た。杖をついているが、背筋はピシッとしている。
スーツとか着ていたらロマンスグレーになりそうだ。
「つかぬ事をお聞きするが、魔人の固有スキルを封印したというのは本当かの?」
「え……えと」
「ウリエル様が見えているというのも本当かの?」
「えと……その」
ここは素直に言うべきだろうか悩む琴花。
そこにエルが助け舟を出す。
「村長、この事はあまり……」
村での出来事は、そのうち噂で拡散する。
かといって琴花がウリエルの力を使うことができるというのをわざわざ拡げるつもりはない。
ここにいる冒険者全員が、良いやつばかりではない。依頼によっては味方にも敵にもなる。
「うむ、分かっておる。オルガンからそっと耳打ちをされたのでな。どんな人物か見に来ただけじゃ。ふむ、こんな少女とは思わなかったぞ」
柔和な笑みを浮かべる村長だが、またしても子供扱いされたことに傷つく琴花。
「何はともあれ、この事はトップシークレットとしてギルドで情報管理するから大丈夫じゃ。ただ村にお客を呼び寄せるためにウリエル様が舞い降りたと宣伝には使わせてもらうがの」
「へ、しっかりしてるぜ」
「まぁ、今宵は楽しんでおくれ」
村長はそう言うと、フォッフォと笑いながら去っていった。
それと入れ違いに料理の皿を二つ持ったノイッシュが戻ってくる。
「お、それ美味そうじゃねぇか」
「これはダメだ」
レイが手を伸ばすのをノイッシュは阻止する。
「なんだよ、ケチケチすんなってノイっちぃ。減るもんじゃあるめぇし」
「コイロ、これ」
ノイッシュが料理を載せた皿を琴花に差し出す。
「え……」
「あらあら」
「おいおい、そういうことかよ」
琴花は驚き、エルはにんまりと笑い、レイは口笛を吹く。
【琴花、お前に好意があるのかもしれんのぅ〜】
「えぇッ! 好意ぃぃッ! わ、私に?」
琴花の顔からボォっと火が出たように赤くなる。
「あらあら、やっぱり最初出会ったときの眼差しそうだったじゃないコイロちゃん」
「おほぉーやるじゃねぇか」
「ば、馬鹿。勘違いすんな。こ……こいつはウリエルのだ」
「え? ウリエルの? ノイッシュはウリエルの事が好きなの?」
【おぉ、そうだったのか。そういえば視線をビンビンと感じておったわ】
「女神様と人間の恋。いいわね〜」
「おほぉーやるじゃねぇか」
「馬鹿か、お前ら。てか一度その好意というのから頭を切り替えろよ」
好き勝手にしゃべるメンバーに、ノイッシュはガリガリと頭をかいた。
このままでは近いうちに本当にハゲてしまいそうだ。彼の家系は頭皮が薄いのだ。
「これはウリエルへのお供えだ。食べられはしないが、ウリエルも功労者だからな」
【お主、なかなかできた男じゃの。ありがとなノイッシュ】
「へ、何言ってるかわかんねぇけど、その顔は感謝されてるってことだな」
「うん、感謝してるよウリエルは」
【じゃが、私は食べられん。私への感謝の気持ちを思い浮かべて食べるが良い。それが私へのお供えになる】
琴花はウリエルが言ったことをそのまま皆に伝えた。
「そういうことなら喜んでいただきましょう」
「おっしゃ〜食うぜぃ」
各自、皿から料理を取っていく。
早くしないとレイやノイッシュに平らげられてしまいそうなので、琴花も自分が食べられそうな物だけを確保していく。
琴花は、ふと空を見上げた。
満天の星空だった。
琴花が住んでいた場所でも星はよく見えていたが、この空ほどではなかった。
「おーオルガっちぃぃ。お疲れお疲れ」
グラスワインのボトルを片手にオルガンがやって来た。どうやら冒険者の皆様のグラスにワインを満たしに来たようだ。
レイはそれがわかっていたようで、麦酒のグラスを空っぽにする。オルガンは黙ってそのグラスに赤ワインを並々に注いだ。
「全く今日は定時で帰ってゆっくりしようと思っていた計画がメチャクチャになりましたよ」
「どうせ帰っても1人酒だろう? いいじゃねぇかよ」
「一人の時間を大切にしないとストレスが溜まりますからね」
「でも今日はスッキリしたんじゃねぇのか」
レイがニヤリと笑みを見せると
「ふっ、久々に血が湧き踊り狂いましたよ」
オルガンはニタリと笑みを浮かべた。
周囲の空気が一瞬だけ凍った。
その笑みはギルド店員のものではなく、戦闘狂の時に浮かべるものだった。
「そいや、サーシャっちはどうしてるでぇい?」
「あぁ、あそこに座ってる。だが落ち込んでいるがな」
オルガンが示す方向を見ると、地面に視線を向けて座っているサーシャがいた。
「なぜ落ち込んでいるのかしら?」
「あぁ、なんでもあの時……魔人戦のとき自分だけが怖くて動けなかったことを悔いているんだ」
「別にそんなのどうでもいいじゃねぇか、なぁみんな」
レイの言葉に全員が同意する。
もちろん琴花やウリエルも同意している。
「それに私、生き残ることだけを考えなさいとか、やばくなったら逃げなさいと言ってしまったわ。私ちょっと行ってくるわね」
アドバイスをした責任を感じ、エルはサーシャの元へかけ足で向かって行く。
「さて、ところでコイロさんでしたっけ」
「あ、はい」
「ギルドオクジェイト支部所属のオルガンと申します」
オルガンの目が光ったように見えて、琴花は数歩だけ後ずさりをした。
「ガハハ、大丈夫だ。取って食いやしねぇって」
レイが琴花の背中をバシっと叩く。
あまりの力強さに、前のめりになりかけた。
「まずは単刀直入に聞こう。お前は何者だ?」
ご愛読ありがとうございます。
感想や罵倒、またはモンスターやユニークなスキル名など募集してます。




