2枚目 汚れたコイン
読みやすいように大幅な加筆と修正しました。
2014.10.28
2014.12.04
★
拝啓お父様、お母様。
目覚めたら、あたしは見たことない森にいました。
これは夢ですか?
ためしに頬をつねってみたけど痛かったです。
☆
「もうノーヒントで何すればいいのよ」
ステータスの他にマップやセーブ、ヘルプと叫んでみたが何も反応しなかった。
東海林琴花はため息をついて、一旦腰を下ろした。
その時、ポケットの中に違和感。
さっき座り込んだときには気づかなかった感触があった。
ポケットからそれを取り出し、
「……コイン? うわぁ何これバッチィし」
琴花は躊躇せずにそのコインを草むらに捨てた。
もしこれがお金なら罰当たりな行為である。ちなみにこのコインは、琴花が最初から所有していたものではない。
知らないうちに、ポケットに入れられたもののようだ。
衣服に乱れはなかったし、バックの中も荒らされていなかった。
この汚れたコインは何の目的でポケットにしのばされたのか分からない。
しばらく考えてみるも、答えは全く出てこない。
琴花は汚れた指を湖で洗い流し、ハンカチで拭う。
念のため、ポケットの中が汚れていないか確認すると色褪せたメモ用紙みたいなものが出てくる。
「えーと、大事に使うのじゃ?それがお主の身の為じゃ……?」
メモに書かれている言葉を口に出す。
日本語ではないが、何と無く読める。
これが最近流行りの異世界クオリティというやつなのだろうか。
今のところ特殊能力の発現および検証はできてはいない。
少なくとも日本語ではない文字が読めることが分かっただけでも、琴花にとっては小さな一歩だが、同時に大きな飛躍と言える。
さてさて、話を戻して何を大事に使うのじゃというのだろうか。
メモと同じポケットに入っていたコインのことを指すのだろう。
「……こんなに汚しておいて大事に使えってどういう神経してるんだよ」
恐る恐るハンカチ越しにコインを掴んで眺めて見る。 やはり汚ないの一言に尽きる。 どんな扱い方をすれば、こうも汚くなるのか。
「ハンカチ越しでも触りたくないよ。うわぁ〜やだやだ」
変な細菌がいないことを琴花は切に願った。感染症は怖いのだ。
ましてや見知らぬ土地。変な感染症にかかってしまっては帰ることもできない。
「良いゴールを目指したければ良いスタートをしなさいって言われてるぐらい初期装備がどれだけ重要か……絶対分かってないわ」
琴花は、もはや何度目か分からないため息ををついた。
この汚れたコインがいかほどの価値があるのだろうか。
「日本円の1円と同じ扱いだったら嫌だなぁー。せめて米ドルや豪ドルあたりだと、まだ有難いかも。さすがにペリカはないと思うけどさ。何これ。すごく詰んでる感が半端ないような……」
ちなみにペリカとは、知らない人に説明すると日本円の10分の1に当たる通貨である。 いや、通貨ではなく紙幣か。
念のために財布の中身を確認すると、そこに入っているのは日本円だけ。
異世界に来たから、ついでにこの世界で使えるようにお金を変えておいたよというサービスはない。
「今のところ、ノーヒントだし。これを綺麗にすることから始めないとダメなんだろうか」
汚れたコインをマジマジと見て、琴花はため息をついた。
「水で綺麗になるだろうか……」
今はどれだけ細い糸であっても繋がっていることが大事なのである。
例え、こんな汚れたコインでも何かの役に立つのかもしれないのだ。
「水で駄目ならウェッティで拭けば大丈夫かな。たぶん」
実はものすごく高価な価値があるのかもしれない。
「あぁ、でもやっぱり触りたくないよ。もう嫌だなぁ」
今はそれを信じてコインを磨き始めるしか道がなかった。
読んでいただきありがとうございます。