17枚目 オクジェイト村の攻防戦 そして私のターン
もう9月が終わりますね〜。
大幅な修正や加筆をしました。
2014.11.01
2014.12.19
★
見知らぬ少年に恨まれる覚えはないです。
☆
「おっしゃ、とりあえずこの辺りは片付いたな」
最後のジャンピンを大剣でなぎ倒したレイが周囲を確認する。
ギルド前広場で動いているジャンピンやその他の魔物は、もういない。
討伐完了といったところだ。
「まだ隠れている奴がいるかもしれませんから、油断は禁物ですよレイ」
「はッ! 言われなくてもわかってらぁな」
「ところでレイ、相方のエルと合流はしなくてよろしいのですか?」
「んぁ? あぁ大丈夫だろう。あれでも冒険者rankC だしな。腕はピカイチだから……たぶん大丈夫だろう」
「ならよろしいのですが。さて、あとは作物が無事かどうか確認すれば終了です。行きますよレイ、サーシャ」
「あいよ」
「は、はい」
オルガンの合図と共に、レイとサーシャは走り出した。
☆
「本当に大丈夫なのコイロちゃん?」
星屑の涙亭入口に琴花とエルはいた。
「はい、今なら戦えます」
琴花は頷いた。
まだ女神のコインの力が継続している。
内側から力が溢れてくるのを感じている。
今なら足手まといにはならないような気がしていた。
お待たせしました、お茶の間の皆様。
琴花のターンです。
「でも、まだ本調子では……。わかったわコイロちゃん。でも私が無理と判断したら戦闘から離脱してもらうからね」
これ以上言っても琴花は聞かないだろうと思い、エルは渋々同行を許可した。
勝手に行動して危ない目に合うくらいなら、一緒にいたほうが安全だと判断したからだ。
「で、どこへ行くんですか?」
「とりあえずギルド前広場にレイがいると思うからそこに行こうかし……あら?」
ピタリと会話が止まる。
どうしたのだろうかと、エルが視線を向けている方向に琴花も視線を向けた。
そこには一人の少年が立っていた。
「……探したぞ。お前だな? この村にいると思っていたんだ」
少年はスラリと背中から剣を抜いた。
なぜか剣を抜き、琴花達を睨む。
少年冒険者は、ボロボロのマントにロングソード。少し使い古された皮の鎧を着ていた。
今回のオクジェイト村の攻防戦に参加している冒険者の一人なんだろうと推測できる。
だが不審な点がある。
なぜ探されていたのか?
なぜ睨まれているのか?
なぜ剣を向けられているのか?
そして、なぜ琴花を睨んでいるのか?
身に覚えがなさ過ぎて、琴花には検討もつかない。
どこかでお会いしましたっけレベルである。
「ん〜コイロちゃんのほうを見ているわね。知っている人かしら?」
いつの間に抜いたのか、ナイフを持ちながら器用に頬に手を添える。
「え……と初対面ですけど」
異世界に来たばかりの琴花の交友関係は、エルとレイくらいしかいない。
「そう?あんなにジーっと見つめちゃっているわよ」
「え……と残念だけど、私には睨んでいるようにしか見えないんですけど?」
その少年の視線からは、明らかに友好的とは程遠い感情しかない。
殺気とか恨みとかそっち方面。
いわば負の感情だ。
「うふふふ、お姉ちゃんビックリ。人と人が恋に落ちる瞬間を目の当たりにするなんて。若いって良いことよコイロちゃん。今日はお赤飯ね」
いきなり、のほほんと話し始めるエル。
「いやいや……なんかもうこれでもかっていうくらい敵意バリバリな感じがするんですけど」
どこをどう見たら、恋に落ちる瞬間に見えるのだろうか……。
お赤飯どころの話ではない。
命の危険性を感じる。
もしかしたらエルフと人間とでは感覚が違うのかもしれない。
その前に自分でお姉ちゃんと言っちゃダメじゃないか。さっき女性であるのは内緒って言っていたじゃんかと内心でツッコミを入れる琴花。
「待ち伏せにしてはロマンの欠片もないわね。プレゼントのひとつやふたつあるほうが女の子は喜ぶのに……」
「あ、あの何か……冒険者の方がプルプルと震えてるんですけど……」
「もうお花やメッセージの一つくらい用意しなきゃダメよ。メッ!」
「何がメッ! だぁ〜。馬鹿にするなぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあ」
エルのメッ! に少年がキレた。
よく今まで待っていてくれたものだ。
意外と律儀なのかもしれない。
特撮ヒーローで、変身するまで待つ敵さんな感じだ。
「勝手に話を進めてんじゃねぇぇぇぇ」
少年はウガーと叫び、頭をガシガシとかきはじめた。
「なんなんだよッ! そのエルフはッ! 見た目はイケメンのくせに、なんで女口調なんだよッ! 畜生、お前は何だよッ!」
エルに指を突きつける少年。
「心にいつも乙女を宿している森のエルフよ」
クスっと笑みを浮かべるエル。
見た目は美少年だが、エルは女性なのだ。
だが、そのイケメンスマイルで乙女の心……。
その受け答えでは、エルが女性であることを知らなければ、別の意味として聞こえてしまう。
「あぁッ! くそ、オカマかッ! オカマのエルフかよッ! で、次そこの眼鏡っ娘ッ!!」
案の上エルを誤解したまま、今度は琴花に指を突きつける少年。もはや八つ当たり的なものを感じてしまう。
「は、はぃぃ」
指名料が欲しいところだ。
「てめぇからビンビンと気配を感じる。ウリエルが取り憑いてやがるよなぁ〜?」
確認のように聞こえるが、どことなく確信じみた声。少年はギロリと琴花を睨んだ。
明らかに恨んでいる対象は琴花ではなくウリエルに違いない。琴花にウリエルが取り憑いているから、それに巻き込まれたに過ぎない。
「一体何をしたんだよ、ウリエル」
「ウリエル……って四女神様のウリエル様かしら?」
「そのウリエルだ」
可愛らしく首を傾げたエルの疑問に少年は律儀に答えた。
なぜ、ウリエルの名前がここで出てくるのか? 下手な答えは出せないと琴花は直感する。
「で、そのウリエルってのと、あたしとどういう関係が?」
とりあえず琴花は誤魔化すことにした。
ウリエルの事はよく知っている。
今は眼鏡をかけていて、姿や声は認識できないが彼女はつねに琴花の側にいる。
「はッ誤魔化しても無駄だぞ。俺には見えてるんだからな」
ニヤリと笑う少年。
「み……見えてる?」
「あらあら本当かしら?」
本当だろうか、もしくは嘘を言っている可能性もある。その答えを知っているのはウリエルだけだ。
琴花は意を決して眼鏡を外した。
適当に言っている可能性もある。
その時は人違いですと言ってその場を去ろうと思っていた。
だが……。
【うむ、嘘ではないようじゃの。しっかりと見えておるようじゃぞ、あやつ】
琴花の目の前に現れた女神ウリエルが頷きながらそう答えた。
ウリエルがふらーっと移動すると、少年がそれを目で追っていく。いつ攻撃されるのか警戒しているようにも見えた。
「…………へぇ〜見えてるんだ本当に」
【ふむ、見えないものを見ることができる固有スキルを持っておるのじゃろうな。例えば神の目とか、妖精の目とか……その種類を限定して見ることができる第二の目みたいなものを】
「そんなスキルもあるんだ」
色々な固有スキルがあって面白いなと琴花は思った。機会があればどんなものがあるのか調べてみたい。
【しかし、あんなに眉間にしわ寄せて……それにあの髪の毛。将来あやつはハゲ確定じゃの〜あっはっはっは」
初対面の人に悪口を言う女神様。口が悪いのは分かっていたが髪の毛や頭皮のことを笑うのはいささか失礼ではなかろうか。
「おいッ! 今、ウリエルは何て言ったんだ。ボケっとしてねぇで眼鏡っ娘、答えろッ!」
姿は見えているが、声までは認識できないようだ。
見えるだけというのは不便であるが、悪口を聞かれなかっただけ良しとする。
「え……いや、その」
言えというのだろうか。そんなもの口が裂けても言えるわけがない。
「素直に吐け、さもなくばお前を斬るッ!」
少年は剣を琴花に向けた。
「うぅ……」
物凄く嫌な予感しかしない。
またしても物語が積みそうな予感。
言う言わないの二択。
どちらを選択しても、良い未来が琴花には想像できなかった。
一触即発な状況……。
「い……言わないとダメなの?」
「言え」
「ど…….どうしても?」
「早く言え」
「え……と怒らない?」
「早くしろ、さもなくば問答無用でお前を斬るッ!」
言うしかなさそうだ。
素直に……。
琴花は深呼吸をした。
「……将来ハゲるってウリエ」
「き、きぃぃぃさぁぁまぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぉぉぁぁぁぁぁぁぉぁぁッ!! 」
琴花が最後まで喋る前に、少年の目がキュピーンと光った。ビクンと反応する琴花。
「ま、待ってよ。タンマッ! それを言ったのはあたしじゃ……ないからッ! 言ったのはウリエルだからッ!」
「俺の触れたらいけねぇ禁断のワードに触れやがったなぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
少年からメラメラと闘志が燃え盛る。
火に油を注いでしまったようだ。
少年の剣を握る手に一層力が入ったように見える。こころなしか身体が前傾しており、いつでも斬り込みをかけられるようにスタンバイされている。
「何でだよ、素直に言ったじゃんかぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
【馬鹿正直に言うからじゃ。うむ、やはり琴花は愉快じゃ】
「眼鏡っ娘、許さんぞ」
少年の家系は髪の毛が薄い。
もっぱら少年の最近の悩みといってもよい。
彼の家系は若くしてハゲになった親類が多い。だから髪の毛関係で馬鹿にされるのだけは死んでも嫌なのだ。ましてや、それが初対面で見た目が小娘の琴花に馬鹿にされたわけだから……。
【おぉビンビンと伝わってくるのぅ〜少年の怒り……いや殺気じゃなこれは】
もちろん、ウリエルがそれを知って言ったわけではない。長くこの世界と人間を見てきたウリエルが何となく勘で言っただけ。
「だ、誰のせいだと思ってるんですかぁ〜」
泣きそうな顔でウリエルに文句を言う琴花。
やっぱり取り返しがつかない状況となった。
どっちみちこうなってしまうようだ。
「もう許さねぇぞ眼鏡っ娘ォォォォォッ! てめぇには聞きてぇことが山ほどあるんだ。意地でも連れて行く」
「待って、そんなことさせないわ。コイロちゃんをどこへ連れて行く気なの?」
「あぁ? お前に教えるかよ、オカマエルフが」
少年はほくそ笑んだ。
今連れていかれたら、確実に綺麗な身体では戻ってこれないと琴花は戦慄する。
あの年頃は妄想と身体の成長が追いついていない恐ろしい年代なのだ。
「そんなことさせないわ。コイロちゃんは私達の……いえ、私の大切な仲間なの。絶対に連れていかせないわ」
エルの言葉に琴花はジーンと感動した。
「だったら力ずくってやつか?いいねエルフ様は激しいのがお好きってか?」
含み笑いをして少年はエルに向けて剣を構えた。
「すごく嫌いよ。あなたがおとなしくお家に帰っていただけるとありがたいわ」
ため息をついてエルはナイフを構えた。
いつもご愛読ありがとうございます。
感謝です。
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