16枚目 オクジェイト村の攻防戦 ギルド前広場と陰険
言わせさせてもらう ➡︎言わせてもらう
訂正しました。2014.10.16
大幅な修正と加筆をしました。
2014.11.01
2014.12.19
★
このまま温もりも感じていたい。もちろんそんなわけにはいかないけど。
☆
「コイロちゃん落ち着いたかしら?」
「うん……」
泣くだけ泣いて落ち着いた琴花が顔をあげると、優しく微笑むエルの顔がそこにあった。
☆
全身を包帯でコーティングしている魔物。
奴の名はサーボクライミ。
サーボクライミは迫ってくるオルガンに吼えた。
威嚇のつもりだが、そんなものは準B rankの冒険者のオルガンには通用しない。
今はしがないギルドの店員だが、かつては冒険者としてたくさんの魔物を倒してきた猛者である。
この程度、全く問題ない。
そう問題ではない。
大事なことなので二回言わせてもらう。
後ろの方で威嚇に怯えたサーシャと、その魔物とガチンコバトルできずに、ふて腐れるレイがいる。
「はぁッ!」
先制攻撃。
拳を数発ほど挨拶がわりに叩き込む。
サーボクライミはそれを巧みに回避や、受け流していく。
「なかなかやりますね。ならこれならどうです?」
ジャンプをし、炎をまとった脚でかかと落としを放つ。
だが、サーボクライミはオルガンの足をガシッと掴むとそのまま投げて地面に叩きつけた。
「おーい、オルガっちぃ〜手伝うぜぇ〜い」
観客と化しているレイが声をかけてくる。
今にも乱入してきそうなノリだ。
いや、乱入どころか乱闘上等な空気を出している。
「馬鹿を言うんじゃありませんよ。すぐに倒してしまっては、お茶の間の皆様が退屈なさるでしょう」
立ち上がったオルガンは、サーボクライミの顔に拳を素早く数発ほど叩き込むと胸ぐらを掴み、そのまま背負い投げをする。
さらに倒れたところ……サーボクライミの腹に目掛けて蹴りを放つ。
苦悶な表情と叫び声を上げながら立ち上がるサーボクライミにオルガンは回し蹴りを放つ。
回し蹴りをくらったサーボクライミが数メートル先に転がるように飛んでいく。
さらに追い打ちをかけて、倒れたサーボクライミを蹴る蹴る蹴る……。
蹴るッ!!
どれだけ蹴るのだろうか……。
さらに蹴りを入れていく。
「いよッ! さっすが陰険。蹴り技だけは素晴らしいぜぃ」
「陰険……とは聞き捨てになりませんね。しかも蹴り技と全く関係ない」
戦っている最中だというのに、声を聞き取るオルガン。
現在魔物をゲシゲシと踏みつけている最中。
「ガハハハ、いいかサーシャっち、あぁいう奴は千里離れていても悪口だけは聞き取れる。地獄耳って奴よ」
「新人に馬鹿なことを教えないでもらいたい。あぁせっかくの金の卵が馬鹿になります」
「すごいですね、魔物が手出しもできない」
「かつては大量の魔物を持ち前の体術で沈めてきたんだ。これくらい朝飯前だろうよ」
感心するサーシャに横で腕を組んで頷くレイ。
オルガンがしゃべっている間もサーボクライミへの攻撃は緩めていなかった。
サーボクライミが立ち上がっては、殴る蹴る飛ばす投げる等の技を使っていく。時たま関節技を入れてジワリジワリと追い込んでいく。
「ウガァァァァァァォァァァァァァァァッ!!!」
徐々にダメージが蓄積され、サーボクライミの動きが鈍くなる。
動きが鈍くなった状態での攻撃がオルガンに当たるはずもなく、
「はははッ! 遅い遅い。蚊が止まりますよっと」
逆に殴り飛ばされる。
手をヒラヒラさせるオルガン。
「さすがは種族スキルの【火事場の馬鹿守り】ですね。やれやれ全く面倒な」
火事場の馬鹿守り瀕死状態に追い込まれた際、守備力が大幅に上昇する種族スキルである。
「だが、もう残り少ないようですね、お前の生命……」
オルガンはニヤリと笑みを浮かべる。
どことなく邪悪なオーラを感じるのは、なぜだろうか。ドス黒いオーラーがオルガンの背後から滲み出ている。
「あ……あの」
「大人になると触れちゃならねぇ領域ってのがあるもんよ」
隣で若干引き気味なサーシャにレイが諭す。
「あぁ、また悪い癖が出てきやがった」
レイはため息をついた。
オルガンは悪い奴ではない。ただ戦闘になると性格が僅かに……いや、かなり変貌する。
大抵の人間は初めてその姿を見たときにドン引きする。レイの隣にいるサーシャがガタガタと震えている。
「ほれ、怯えちまったじゃねぇかよ」
サーシャに聞こえないようにボソッと呟くレイ。
だが、この変貌した姿のおかげでオルガンがいるギルドでは、他のギルドよりなぜか冒険者同士の争いが少ない。
言うまでもない。
怖いからだ。
変貌したオルガンは容赦ない。
新人の頃に暴れて、オルガンに叩きのめされた冒険者チームは強くなった今でも勝てる気がしないという言葉を残している。
サーボクライミはオルガンと対峙する。
雄叫びをあげる。
「そろそろおネムの時間ですよ……この化け物」
同時に二人が駆け出した。
オルガンの拳が炎に包まれる。
サーボクライミが拳を突き出す。
だが、それよりも早くオルガン特製炎の拳がサーボクライミの顔を捉える。
「はぁぁぁぁあッ!!」
サーボクライミの顔に拳が入る。
さらにそこから拳に全体重を乗せるような気持ちで魔物を殴り飛ばした。
殴り飛ばされたサーボクライミはそのまま空中で消し炭となった。
「浄化完了ッ! ふはははははははははははははははははははははははははははははははははッ!」
「はいはい、お疲れさん」
やる気なさげに拍手するレイにオルガンがギロリと睨んだ。
「あまり心がこもっていませんねレイ?」
「そりゃ〜お前さんよ、横にいるサーシャっちが捨てられた猫みたいにビクビクしてっからな」
「……あ」
オルガンは、レイに言われてサーシャのほうに視線を向けると、そこにはレイに隠れるようにガタガタ震えるサーシャがいた。
サーシャの中でオルガンの印象は、優しいギルド店員さんから恐怖へとクラスチェンジした。
合掌。
チーン。
いつもご愛読ありがとうございます。
感謝です。
魔物の名前迷いますね〜(・・;)