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14枚目 オクジェイト村の攻防戦 星屑の涙亭

巻き越え➡︎巻き添え

訂正いたしました。2014.10.15


大幅な加筆や修正をしました。

2014.10.31

2014.12.19

不法侵入は犯罪だから良い子は真似したら駄目だよ。あ、でも魔物に不法侵入ってどう説明するんだろうか。


何者かが侵入してきたらしい。

だが、その侵入者は歓迎すべき相手ではなかった。

呼んでもないのに奴はやって来た。

「じゃ……ジャンピン」

ジャンピンお一人様のご登場だ。

いや、人ではないから一匹が正しいか。

何はともあれエンカウント。

琴花の顔が引きつった。


茶色の毛並みをしたジャンピン。

ただ、パープルヘイズという太い人参ではなく、細い棒切れのようなものを持っていることから変異種ではなく、通常のジャンピンであることは間違いない。

「く……」

琴花はウリエルのナイフを鞘から抜き放つ。

対ジャンピン戦のリベンジマッチが、星屑の涙亭2階で開催されようとしている。

残念ながら観客は誰もいないので、勝っても負けても儲けはない。

命が消えるか消えないか、ただそれだけ。


ジャンピンがピギャァァァと雄叫びをあげた。戦闘開始の合図だ。

ジャンピンが地を蹴って距離を詰めてくる。

琴花は近くにあった丸いテーブルを押して倒す。だが、ジャンピンは巧みにそれを回避する。


飛びかかってくるジャンピンに、琴花はナイフを振るう。

だが、それはジャンピンの持つ棒切れで防がれてしまう。小型のくせに生意気なと舌打ちしたくなる。

ジャンピンは小型の特性を生かし、素早く動き回っている。

琴花はそこではたと気づく。

勝機が見えた。

「こいつの武器はは人参じゃないから、あの一閃とかいうやつが使えないんだっけ」

さっきウリエルに説明してもらった通りなら、このジャンピンは種族スキルの一閃が使えない。

だが、平和な日本で生活していた琴花にとっては強敵であることに変わりはない。

兎と争う生活を日本でできるわけがない。

動物愛護管理法に違反してしまう。

動物を狩らなくてもスーパーに行けば食べる物は簡単に手に入る。コンビニでも200円あれば手軽にホットスナックが食べられる。

だが、ここは異世界。

やらなければ、こちらがやられる弱肉強食の世界。

「こんなところで負けるわけにはいかない」

琴花はナイフを構え直した。

ウリエルの加護が宿りしナイフがあるのだ。

負けるわけがない。

ジャンピンは壁や天井やら色んな所を飛び回り、琴花を翻弄する。

近づいてくるタイミングを見計らってナイフを振るうも全く当たらない。

逆にジャンピンが振るう棒切れが琴花の身体や足をポコポコと叩いていく。

地味に痛い。

刃物じゃなくて良かったと思うが、痛いものは痛い。

「こ、このぉー」

ジャンピンに舐められている。

遊ばれている感が半端ない。

「遊びでやってるんじゃないわよッ!」

そう、こちらは真剣なのだ。

生きるか死ぬかの瀬戸際。

琴花がナイフを振るう。

避けられる、そして棒切れで叩かれる。

再度ナイフを振るう。

避けられて、後脚で蹴っ飛ばされる。


琴花は木製の床に滑るように倒れる。

全く勝てる気がしない。

小型の魔物にここまで苦戦するものなのか。

平和な日本で生活してきた琴花では勝てないのか。

「なら、あたしにはこれがあるッ!」

琴花は左手でポケットに入っている女神のコインを握る。使える回数は1回のみ。

残念ながら、今の琴花ではジャンピンの速さに追いつけない。

当たらなければどうということはないと赤い人が言っていたが、まさにその通りだ。

このままではジリ貧である。

迷っている場合ではないと、女神のコインを握る手に力が入る。

ジャンピンが再びピギャァァァと雄叫びをあげた。

「ウリエルッ! あたしに魔物を倒す力をッ!」

琴花が叫ぶ。


するとコインを持つ左手が輝き始めた。


「コイロちゃん」

エルは宿屋に向かっていた。

道中襲いかかってくる魔物(主にジャンピンばかり)を得意のナイフで捌いていく。

「もう邪魔をしないでッ!」

屋根からエルに急降下してくる茶色のジャンピンに、エルは投げナイフで仕留める。

同時に襲いかかってくる白いジャンピンをナイフで切り裂く。

さらに後方にいるジャンピンに、茶色のジャンピンを仕留めたナイフを抜き、すぐさま投げつける。

無駄な動きをすることなく、エルは襲いかかってくるジャンピン達を捌いていく。

冒険者(ランカー)だけあり、無駄な動きはない。

様々な色や、多種多様の武器を装備したジャンピン達を蹴散らせながら、エルはようやく星屑の涙亭に到着した。

「あ……」

宿屋の2階の窓が割れているのを発見した。

そこは怪我して動けない琴花が休んでいる部屋である。

「コイロちゃんッ!」

宿屋の入口に入ろうとした時に、壁にドスンと何かが突き刺さった。

羽根である。

エルは忌々しいとばかりに、舌打ちをして振り返る。

そこには鶏が一羽いた。

いや、正確には鶏の姿をしているが魔物である。

「あぁーもうッ! フライドフェザーまでいるなんて」

フライドフェザー。

名前の通り、羽根を飛ばす遠距離型の魔物である。

クェェェェェェェェェっとフライドフェザーが雄叫びをあげて、羽根を数本飛ばしてくる。


エルはそれをスッと回避する。

だが、残りの羽根のいくつかが、まるでエルの行動する場所が分かってるかのように的確に飛んでくる。

がむしゃらに羽根飛ばすわけではなく、巧みに飛ばすタイミングや角度をズラしたりする知能派な魔物である。


対処法としては、羽根を盾で防御したり、回避するのが常である。

ベテランの冒険者(ランカー)ならば苦戦する魔物ではない。

エルの足元めがけて数本の羽根が、ガガガと突き刺さる。ちょこまかと避けられないようにするためだ。

「無駄な時間をかけてる暇はないのよッ!」

エルが地を蹴り、加速する。

近づくエルに、フライドフェザーが羽根を飛ばしていく。エルは巧みに回避。

そのままフライドフェザーにめがけてナイフを振るう。

フライドフェザーの首が飛んだ。

エルの勝ちである。





というわけにはいかなかった。

エルは、すぐさまフライドフェザーから距離を取った。

首が飛んだはずのフライドフェザーがさっきまでエルがいた場所めがけて蹴りを放つ。

鋭い爪を持つ脚で蹴られて無事に済むはずもない。

倒したと思っても安心してはいけない。

フライドフェザーの生命力は非常に高い。

そのため首を飛ばしても、しばらく活動する。

首から血を吹き出しながら迫ってくるので、初めて遭遇した冒険者は軽く恐怖を覚えるという。


頭がないので、さっきみたいに羽根を飛ばすことはなく、がむしゃらにメチャクチャに脚で攻撃してくるのが特徴だ。

これで無差別に羽根を飛ばしてこないのが、せめての救いといえば救いか……。


エルは忍ばせておいた数本のナイフをフライドフェザーに向けて投げる。何本かは足や手羽により弾かれたが、残りは胴体に突き刺さる。


持ち前の生命力の高さ。

この程度でくたばってくれるわけがない。

最後の足掻きと言わんばかりに、突進してくる。

その対角線上にいた何匹かのジャンピンが巻き添えをくらっていく。

ゲームならば間違いなくレベルが上がっていくが、これは現実なのでそういう仕様にはならない。


「そろそろケリをつけさせてもらうわよ」

エルはナイフを構える。

身体を前のほうに傾ける。

そして……深呼吸。

タイミングを測る。


フライドフェザーがこちらに向かってくる。



1.2の……。

3でナイフを振るい、フライドフェザーが横をすり抜けると同時に斬りつけた。

フライドフェザーの胴体から血が吹き出す。

フライドフェザーはそのまま、数歩ほど進んでから音を立てて倒れた。


今度こそエルの勝利である。

その時、琴花の部屋から光が放たれた。

「コイロちゃん待っててね。すぐに行くから」

エルはふたたび走り出した。

琴花が休んでいるであろう部屋まで。


「こ、これは……」

眩い光が部屋中に放ち終えると、不思議なことに琴花の内側から力が溢れてくるのを感じた。

ジャンピンが琴花に目掛けて、突進してくる。さっきまでは動きが速いと感じたのに、今では遅く感じた。

「これなら……勝てるかも」

根拠のない自信などではない。

本当にそう思えた。

それだけ女神の力とは凄いものなんだと、琴花は身体で実感する。

ジャンピンが距離を詰めてくる。

さっきまでは速くて追いつけないと思っていたのが、今では全くそう感じない。

琴花は心の中でタイミングを測る。

チャーシュー……。



メェェェンでウリエルのナイフを突き出した。


ジャンピンの頭にナイフが突き刺さる。

「いやぁぁぁぁぁぁぁあッ」

力を入れて、刺さったナイフをグルリと抉る。

ジャンピンは絶命した。

ジャンピンとのリベンジバトルに琴花は勝利した。

琴花、異世界に来て初勝利の瞬間だ。

「……勝ったよウリエル」

眼鏡を外してウリエルの顔が見たいが、予想以上に精神的に疲労している。

今はウリエルと会話するほどの気力もない。

ナイフをゴトっと床に落とし、座り込んだ。

「あたしはだってやればできるんだよ」

琴花はバタリと床に倒れた。

手を天井に向けて伸ばす。

この手で魔物の命を狩りとった感触が残っているような気がした。

「でもやらなければやられてた。生き物を殺しちゃダメなのは分かってるけど」

しばらくすると、階段を駆け上ってくる音が聞こえてくる。

「今度は誰? もう疲れたよ」

「コイロちゃんッ!」

と同時にドアが開き、エルが部屋の中に飛び込んできた。

「……あ」

一瞬、誰が飛び込んできたのか分からなかったが、身体を揺すられてエルだと認識する。

「エル……」

「コイロちゃん、怪我してない? 大丈夫? ごめんね怖かったね」

心配そうな顔をしたエルフの美少年の顔を見てホッとしたのか、琴花の目から涙が溢れてくる。

「エル……怖かった、怖かったよぉぉぉぉ」

琴花はエルの胸に顔を押し付けた。

羞恥心とかそんなのは今はない。

見知った顔がいるだけでこんなに安心できるとは思っていなかった。

「ごめんねコイロちゃん。よく頑張ったね」

エルはよしよしと琴花の頭を撫でた。

感動的なシーンである。



が……。

「え……え?」

琴花はエルの胸に押し当てた顔をあげた。

「どうしたの? コイロちゃん」

「エル……」

失礼を承知で、琴花はそっとエルの胸に手を伸ばす。

そしてニギニギ。

「ちょ……コイロちゃん」

「え……」

エルは困ったような笑みを浮かべて、内緒よと自分の唇に指を当てた。

「え……えぇぇぇぇッ! なんでッ!」

琴花は叫んだ。そして混乱した。

美少年の顔立ちをしているエルの胸には、僅かながら柔らかさがあった。

同性である琴花には、それがどういう意味か分かった。

胸にある柔らかい感触。





それはエルが女性であること。

「女の人だったんだ……」

「ふふ、そうなるわね」

クスッと笑みをこぼすエル。

なぜ隠しているかは分からない。

でも同性なら遠慮はいらない。

琴花はもう一度、エルの胸におでこを置いた。

エルはそれを優しく微笑み、ギュッと琴花を抱きしめてくれた。

戦闘を終えて強張っていた琴花の身体を優しく包むように……。

いつもご愛読ありがとうございます。

感謝です。


エルさんは女性のようです。


フライドフェザーの固有(種族)スキル

【精密射撃】

羽根の命中率を向上させる。



ユニークな魔物の名前やスキルとか読者様より募集中ですよΣ(゜д゜lll)ェェ

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