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13枚目 オクジェイト村の攻防戦 鐘のなる頃に

大幅な加筆や修正をしました。

2014.10.31

2014.12.12

時は鐘が鳴り響く少し前に戻る。


エルとレイはオクジェイト村にある冒険者(ランカー)ギルドに立ち寄っていた。

二人は琴花の部屋を出た後、次の目的である獲物を物色しに来ていた。壁に貼られている危険な魔物について書かれている貼り紙を眺めている。


「おいおい、ほとんど狩り尽くされているじゃねぇかッ!」

手配モンスターの貼り紙には、討伐完了というスタンプが押されている。レイがそれを見て、舌打ちをする。それを見て苦笑するエル。


「まぁまぁそういうときもあるわよ。平和なのが一番じゃないかしら」

「これじゃーおまんま食いっぱぐれてしまうぜ」

エルやレイみたいに手配されている魔物を倒して生計を立てている冒険者(ランカー)にとっては痛手である。

冒険者(ランカー)といっても、魔物を倒して生計を立てる奴もいれば、素材の回収や、商人の護衛、村や街での困り事を解決して生計を立てている奴もいる。

エルやレイは前者メインで、たまに後者をやることがある。


食物連鎖の枠外で際限なく増殖する魔物達は脅威である。

だから報奨金を出して、魔物狩りを支援している。

それを担当するのがギルドで、冒険者はそれを請け負うというシステムとなっている。

だが、魔物狩りの報奨金だけでは、冒険者の懐は潤うことはない。

そこで冒険者(ランカー)は、魔物から毛皮や牙、内臓など、有用な部位を採取する。

特定の魔物には、とても高価な部位もあるから売ればそれなりに懐は潤う。

ちなみに有能な部位がなくても魔物の体内からは、魔物すべてに共通して採取できる物質がある。

魔物の心臓付近に生成される核。

通称魔石と呼ばれる核。

その(ませき)にはどの魔物だったのか記憶されている。だからこれを持っていけば討伐した証明となる。

その時に倒した冒険者(ランカー)も記録されるのでもちろんズルはできない。もちろん売ればそれなりのお金は得られる。

「変異種ジャンピンを見つけたんだから、それで我慢なさいなレイ」

「わーったよ」

レイは不満そうな顔で、壁の貼り紙を見ていく。ほかに何か依頼がないかの確認だ。

だが、めぼしい依頼がない。

補足説明しておくと、変異種ジャンピンの場合は持っていた人参(ぶき)(ませき)があれば討伐した証明となる。


「やぁお二人さん。調子はどうですか?」

黒いスーツと蝶ネクタイを装備した若者がエル達に声をかけてくる。

ギルドオクジェイト支部所属のオルガン=トレファスナーだ。

「おぅオルガっちか。もうちょいと良い依頼を揃えておけよ。職務怠慢じゃねぇかよ、これじゃあ売り上げが出ねぇだろう」

「はははは、それは無茶だよ。そりゃ仕事があるほうが有難いけどさ。やっぱり平和なのが一番だよ」

「ちぃッ! つまんねぇな。ギルドの店員になってから、すっかり腑抜けになっちまったか」

悪態をつくレイにオルガンは笑みを崩さない。

「ところでオルガン、そちらの子は?」

エルがオルガンの後ろに立っている少女に目を向けた。

「お? 見慣れねぇ(つら)だな」

レイもオルガンからその少女に視線を向けた。

「あー、紹介しておこうと思いましてね。つい先日冒険者になったばかりのサーシャ=クレストだ」

「ボクはサーシャ=クレスト、よろしくお願いします」

「ボク? オルガっちよ、こいつは女でいいのか?」

「それを言うなら君の相棒は、私と言っているでしょう」

「あぁそういやそうだな」

「とにかく、君達しばらく滞在するだろう? 良ければ面倒見てやってくれないか?」

オルガンはサーシャの背中をバシンと叩き、前へ押し出す。

サーシャはよろけながらも、前に一歩踏み出す。

「まぁ構わないぜ、よろしくなサーシャっち」

「よろしくね、サーシャちゃん」

レイとエルがサーシャに挨拶をしていく。

サーシャはエルをじーっと見つめる。

「え、えっとどうしたの?」

「なんか、喋り方がカマっぽいですね」

サーシャの台詞にレイが吹き出して、大笑いする。オルガンも隣で苦笑する。

「初めてエルと会った奴は、だいたいそんな反応すっけどよ。昔からの癖みたいなもんらしいんだよ、まぁ見逃してやってくれよ。これでも腕はたしかなんだからよ」

「彼らは変異種のジャンピンを倒した冒険者(ランカー)だよ。Rankは二人ともCだったな」

経験のない新米冒険者にとって、魔物は強敵である。

間違えて強敵(ともと読んではならない。

「そうなんですか、すごいですね。ところで見たところエルさんは前衛職なんですか?」

「そうなの。魔法は苦手なの」

「エルフなのに珍しいですね」

素直な感想を呟くサーシャ。

「エルフにも落ちこぼれはいるのよ」

エルはクスっと笑みをこぼした。

宿屋で休んでいる琴花と同じような反応をしたからだ。小柄な体型同士、もしかしたら仲良くなれるのではないかとエルは思っている。

「まぁ口は悪いが、先輩としてみっちり仕込んでやってくれ」

「わーったぜ、オルガっち」

んじゃ、改めてよろしくなとレイはサーシャと握手を交わした。エルとも握手を交わしていく。





その時、けたたましく鐘が鳴り響いた。村の入口にいる見張りが鳴らしたのだろう。

「おっと、さっそく仕事のようだな」

オルガンは、ざっと店内を確認する。


残っているのは、わずか10名程度の冒険者とギルドの店員だけである。

オルガンの先輩にあたる女性店員が、残っている冒険者達に緊急事態であることを伝えている。


それを聞いた冒険者達は各々装備を整えてギルドから出て行く。

「レイ、エル。すまないが、さっそく出迎えてくれ。特別ボーナスを出してもらうようにギルドマスターに伝えておく」

「ありがとうございます。オルガン」

「うっひょ〜オルガっち。気前が良いじゃねぇかよッ!」

オルガンの提案に二人は喜ぶ。

ただ一人サーシャだけは顔を青くしている。

「もしかして、魔物の襲撃……ですか?」

「そうだ、研修で学んだだろう? 鐘にも何種類か音があるが……」

「こいつぁ、かなり数が多いパターンだな。腕が鳴るぜぃ」

「そ、そんな……」

顔を真っ青にするサーシャに、エルは優しく肩を叩く。

「あなたはまだ経験がないのだから、まずは生き残ることだけを考えなさい。決して深追いしてはダメよ。やばくなったら逃げること。命は一つしかないのだから」

「い、言われなくても……分かってるよ」

精一杯強がるサーシャに笑顔を見せるエル。

「ってことは、くそッまずいな。エル、念のためにコイロっちがいる宿に向かってくれ」

宿屋には、まだ怪我から回復していない琴花がいる。

「言われなくてもそうさせていただくわ」

エルはそう頷くと、地を蹴って走りだした。

エルが走っていくのを確認すると、レイ達も外に飛び出した。


場所が変わり、星屑の涙亭2階。

「鐘の音?」

何やら外が騒がしい。

琴花は窓の外を眺めた。

バタバタと村人や、冒険者らしき人物が忙しなく走っていくのが見えた。

「ウリエル、何か外が騒がしいんだけど」

【うむ、どうやら魔物が攻めてきたようじゃの。しかもたくさん】

「は……?」

魔物が攻めてきた?

どこに?

この村に……。


「えぇぇぇぇぇぇえぇぇ」

【叫びたい気持ちも分かるが、大丈夫じゃ。今のお主には武器がある。戦うのじゃ】

ビシィっと琴花に指を突きつける女神様。

「無理無理無理無理無理無理」


戦う?

誰と?

たくさんの魔物……。

無理としか言いようがない。

勝てる保証ありゃしねぇー。


【女神の加護が宿りしナイフを信じるのじゃ。かならずや勝てるッ!】

ウリエルは拳をグッと握りしめて、力説する。

なぜか額に闘魂と書かれたハチマキをしているのは、あえて突っ込まないことにした。

「で、でも怖いんですけど……」

ジャンピンにやられた恐怖が、まだ微妙に残っている。いくら武器があったとしても戦えるかどうか分からない。


【大丈夫じゃ。お主には女神のコインがある。いざとなれば、こいつを使ってピンチを乗り切れば良い】

今、琴花の手の中にあるのは、磨かれたコインが2枚だけある。

本日のログインボーナスの1枚、合計2枚


「昨日は5枚だったのにさ。なんで今日は1枚だけ?」

琴花は頬を膨らませて女神に抗議する。

今日も5枚もらえると期待していただけにガッカリ感が半端ない。


【昨日は初日ボーナスとして5枚支給されただけじゃ。通常は1日1枚ずつじゃ】

「出し惜しみは困るんですけど」

魔物と戦うのだから、少しでもコインがあるに越したことはない。

【残念ながら、今の私ではこれが精一杯じゃ。許せ琴花よ】

女神の事情など琴花には知ったことではない。

勝手にこの世界に連れてこられ、この扱いはどうかと思う。もっと快適な異世界ライフを送らせて欲しい。

納得いかないけど、これが現実。


【とにかく、エルかレイのどちらかと合流できれば問題ないじゃろ】

「すぐに見つかればいいけど」


琴花はウリエルのナイフと女神のコインを持って、ドアに近づく。

そしてノブを回す。





【どうしたのじゃ琴花? 怖じ気ついたか?】





「そ、そんな……」

【早く合流せぬと大変じゃぞ】

ウリエルが急かしてくる。

早く合流しないとまずい。

そんなのは琴花だって分かっている。





「な、なんで……」

【お、おいどうしたのだ琴花】

「あ……開かない」

【ん?】

「ドアが……」

【はっ?】





「ドアが開かない……外側から鍵がかかってる。なんで……」

押しても引いてもビクともしない。

【な、なんじゃとぉぉぉぉぉぉぉ】

ウリエルが叫ぶ。

そして、物語は動き……





出さない。

詰んだようだ。

今までご愛読ありが……。



【そんな馬鹿な話があるかぁッ!】

女神ウリエル様は御立腹である。

闘魂というハチマキを床に叩きつけた。

残念ながら次元が違うので拾うことはできない。

もちろんそのハチマキは必要ない。


「やっぱりダメだ」

どんなにノブを回してもビクともしない。

残念ながら、これが現実なのよね。

【まさか、料金を踏み倒させないための防止策かッ! こんな田舎のボロ宿屋の料金を踏み倒した馬鹿はどこのどいつじゃ? 八つ裂きにしてくれるわッ!】

「あたし踏み倒す気はないんだけど」

【だが、無一文じゃろお主】

「う……」

ご存知な方もおられるかと思うが、琴花の財布の中には日本でしか使えない紙幣や通貨しか入っていない。

宿屋側の人間がどういう意図で、外側から鍵をかけたのかは琴花には分からない。


ちなみに外側から鍵がかかっている理由は、怪我をして身動きが取れない若い女性が、悪戯されないためである。


過去、怪我して身動き取れない女性に猥褻(わいせつ)目的で部屋に侵入した事件があったのだ。

だが、もちろん琴花はそんなことを知らない。

料金踏み倒しされないために軟禁されたと思い込んでいる。

ちなみにお手洗いや、簡易型の浴室があるので部屋の外に出なくてもある程度どうにかなる。


【こうなったら窓から飛ぶんじゃ琴花ッ!!】

窓をビシっと指を刺す女神様。

「ちょっ……ここ2階だよ2階ッ! あたし死んじゃうって」

【大丈夫じゃ死にはせん。せいぜい骨折じゃ。骨折程度なら女神のコインでお茶の子さいさいじゃ】

「何で自らピンチ作るんですかッ! 馬鹿ですか? 大馬鹿ですか?」

【おのれぇ琴花よ。黙って聞いておれば、この私に向かって大馬鹿じゃとぉ〜】

「2階から飛べって言う女神様は馬鹿です。大馬鹿です。馬鹿馬鹿ッ!」

【小娘めぇ〜言わせておけば、このシャイニン……】

琴花はスチャっと眼鏡をかけた。


小煩い女神様の姿は消えた。

すぐそこで怒鳴り散らしていると思うが、眼鏡をかけると女神の姿と声を認識できないようになる。

てか、この女神は事あるごとにシャイニングを使うけど、お気に入りのワードなんだろうか。

今度出てきたら聞いてみようと琴花は思った。


「さてと……」

琴花はドアを見つめた。

外側から鍵がかかっており、脱出不可能。

さらに窓から飛んで無傷で済む保証はない。

間違いなく怪我をする。

治りかけの身体ではアイキャンフライならぬアイキャントフライである。

「逆に考えてみると、ここにいるかぎり安全な気がする」

外は魔物襲撃という一大事な状況であるが、出られないものは仕方ない。


出られないイコール入れないと考えるならば、ここが一番安全な場所であ……。





その時、部屋の窓が割れる音がした。

コイン 1→2枚


いつもご愛読ありがとうございます( ^ω^ )

感謝です。


朝晩冷えてきました。

風邪に注意してくださいな。

言ってる本人が一番怪しいですけどね(・・;)

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