11枚目 ナイフ1本ありました
大幅な加筆と修正をしました。
2014.10.31
「よいっしょっと」
エルは自分の腰ベルトに装着していたナイフを琴花の手にポンと乗せた。
小型ではあるが、ズシリと重さを感じた。
「私が使っているナイフを琴花ちゃんにあげる。そしてレイ、新しいのを一本くれないかしら」
「え……あの」
まさかもらえると思っていなかったので琴花は焦った。
「ちょうど新しいのを一本調達しようと思っていたの。私のお古だけど、ちゃんとお手入れはしているから、新品並によく斬れると思うわ」
「おいおい、いいのか? 使い慣れたナイフなんだろう?」
レイは机の上に置いてあったナイフを一本手に取り、エルに手渡す。
「大丈夫よ、それ同じ型のナイフでしょ? そのうち手に馴染んでくるわよ」
エルはナイフを受け取るのと同時に、レイにお金を握らせた。
「まぁ俺っちは構わねぇけどよ。おっしゃ、今日は良い酒が呑めるぜ」
レイは二カッと笑い、袋にお金を入れた。
良い酒が果たしてどれくらいのお金で買えるかは不明だが、レイの喜び的にかなり高いお酒なのかもしれない。
【ほぉー、持ち主の愛情がよくこもっておる。琴花よ、これはいいナイフじゃ】
ウリエルは琴花の持つナイフを見て、感心する。
女神だからだろうか、その辺りのオーラみたいなのを感じることができるのかもしれない。琴花は眼鏡をかけ直す。
そして立ち上がって、エル、レイの順番に握手をして「ありがとう」と笑顔で言った。
エルは優しく微笑み、レイは照れ隠しするかのように「お、おうよ」と顔を背けた。
琴花は[エルのナイフ]を手に入れた。
ただステータスが表示されないのでどれくらい攻撃力があるかは不明だが。
☆
【琴花よ、良きアイテムと良き仲間に出会えたな】
エルとレイが退室した後、眼鏡を外すとふたたび女神ウリエルが姿を現した。
「うん」
素直に琴花は頷く。
異世界に来て、人の優しさに触れた瞬間だった。
琴花はナイフを鞘から抜いて眺める。
刃こぼれをしていないし、刀身がキラリと光る。刀身に映る自分の顔を見て、にへらと笑ってみた。
はたから見たら、ただの危ない人だ。
【そのにへらな笑みは辞めぃ。不気味じゃぞ。ところで琴花よ、せっかくじゃ。このナイフに加護を付けてみる気はないか?】
「加護?」
【うむ、付与とも言うかの。このナイフかなり気に入ったものでな。持ち主の愛情を見事に受けておる逸品だしの】
ウリエルが何やら目を輝せてナイフを見つめている。子供が新しいオモチャを与えられたときのように目をキラキラと輝かせているように見えた。
「なら、お願いします」
女神ウリエルが乗り気である。
ここはお願いするしかない。
女神の加護がついたナイフを手に入れることができる。チートな能力や戦闘能力がない琴花にとっては、まさに願ったり叶ったりな話だ。
【うむ、琴花よ。ではコインを出すが良い】
ババーンと効果音が流れた。
「えぇ〜そこは女神様が何とかできないんですか?」
そこはコインなしでやるべきだろうと、琴花は不満そうに口を尖らせた。
【前にも説明したと思うがの、コインを媒介にして私の力を使うのじゃ、コインがなければ何もできぬ】
なんて役に立たない女神様だろうか。
これではただの口うるさい小姑ではなかろうか。
しかも眼鏡を外したときにしか会話ができない。
「あ、じゃあノーセンキューです。却下で」
たった1回しか女神の力が使えないのだ。使うならここぞという時に使いたい。
ただ、ここぞという時がどのような状況を指すのか琴花は知らない。
【おい琴花よ。そこは女神の加護に縋るところだろうが】
「1枚しかないから何に使おうか慎重になります」
女神の力、どう足掻いても1回しか使えない。頑な態度の琴花にウリエルはため息をついた。
【琴花よ、目をかっぽじってよく聞くのじゃ】
「ちょ、失明しますけどッ!」
眼球を抉れとは、また怖いことを言う女神様である。
矢に刺さった眼球を親からもらった大事な物じゃと言って食べた武将がいたことを、なぜか琴花は思い出した。
三国志に登場した夏侯 惇のことだ。
【安心せぇい。コインは翌朝になると、追加される。いわばログインボーナスというやつじゃ】
「これソシャゲーだったんですかッ!」
突っ込みを入れてから、あぁ連続ログインボーナスが途切れたなぁーと琴花は思う。
白いにゃんこ達と島で暮らすゲームが特にお気に入りだった。
【とにかく、探すのじゃ。翌朝になるとコインがお主の身の回りに出現する】
「そこは、女神様がポンと出してくれるんじゃないんですね」
ため息をついてから、初日のことを思い出す。
鞄やらポケットやら、挙句の果てにはスマホケースの中にコインがあった。
この女神、実は性格が悪いのではなかろうか。
【探せ、地の底に置いてきたのじゃ】
「地の底まで探したくはありません」
【共にコインを探すことにより、君と響き合うRP……】
「それは辞めてください」
琴花はため息をついて、鞄の中を覗く。
「あー……」
そこにはコインがあった。
ただし、汚れたコインが……。
「やっぱり汚い」
【どうだ、琴花よ。これで力を使える回数は増えた。さぁさぁコインを使うのじゃ。ほれほれ】
「じゃあ、はい」
琴花は汚れたコインをウリエルに差し出した。
【このシャイニングカム着火インフェルノォォォォオウのバカチンがぁぁぁぁぁッ!!】
ウリエルの叫び声に、空気がビリビリと震えた。
「ふ、ふぇぇぇぇ」
【人の話を聞いておらんだのかぁッ!! そんな薄汚いコインでは、力を使いたくても使えんわぁッ!】
空気が震える。
このままいくと、宿屋の壁が壊れてしまうのではなかろうか。
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃ」
怪我してるのに、琴花は素早く土下座した。日本では最大級の謝罪の一つである。
やはり女神様だ。本気で怒ると怖い。
【わ、分かれば良いのじゃ】
肩で息をしながら、土下座している琴花を見下ろすウリエル。
【では改めて、綺麗な方の女神のコインを握るのじゃ】
磨いたコインを握りしめる。
【願うのじゃ、ナイフに加護が宿るようにと】
女神の言われるまま祈る。
すると、エルのナイフが光を放ち始める。
眩しくて目が開けられない。
しばらくすると光は収束し、ナイフへと消えていく。
【うむ、これでこのナイフには女神の加護が宿ったぞ】
満足そうに頷くウリエル。
ナイフを手に取る琴花。
「あまり変わってない……ような気が」
見た目に変化はない。
ナイフをジロジロと見ても、変化はない。
エルからもらったナイフのままである。
「もっと神々しいデザインに変わるかと思ったのにガッカリだ」
【本当に罰当たりな小娘じゃの。親の顔が見たいわい。見た目は変わらんが、強さは桁違いじゃ。うむウリエルのナイフと命名しても良いぞ。特に固有スキルを所持していない琴花にはものすごくありが……】
「ちょっと待って」
ウリエルの会話の途中に琴花は割り込んだ。
【な、なんじゃ。人が話してる途中に】
聞き慣れない単語。
このまま放置しておくわけにもいかない。
分からないことはすぐ聞くのが鉄則だ。
小学校で習ったことだ。
「……固有スキルって何?」
いつもご愛読ありがとうございます。
ブックマークが12件。
これは頑張って書くしかねぇですね。




