1枚目 東海林 琴花のステータス
初めまして、カルテペンギンです。
ペンネームに皇帝ってついてるじゃん。
喧嘩売ってんのと思われる方、そんなわけないじゃないですか。
はい、始めまーす。
鹿と会話するシーンを追加しました。
2014年9月3日
一部修正と加筆をしました。
2014.10.6
大幅に読めるように加筆と修正しました。
2014.10.28
風が頬を優しく撫でる。
木と葉の隙間から溢れてくる光が、キラキラと輝いている。
東海林琴花は、目を覚ました。
まるで一日中眠っていたかのように、体には妙な気だるさが残っていた。
髪型はセミロング。
前髪は少し斜めに分けられていて、黒縁の眼鏡をかけている。
小柄な体型のせいか、少女に見えてしまうが、れっきとした成人女性だ。
何か悪さをしでかしたら少女Aではなく、実名が公開される。
ただ熟女Bと呼ばれるには、それなりの年月を必要とする。
眼鏡を少し上に上げて瞼をグシグシとこする。
そしてファーと大きな欠伸を一つしてから
背筋をグーっと伸ばす。
軽い朝のストレッチは琴花の習慣となっている。
心地良い暖かさと身体のだるさ加減で、このまま二度寝に突入しそうになる。
もう少し眠っていたかったのだが、どうやら寝てる場合ではないことに気付く。
琴花は体をガバッと起こして、辺りを見回した。
「え……えーと、どこ?」
それが開口一番に出たセリフであった。
☆
まずは目の前にある湖の水で、琴花は喉を潤した。
水はとても澄んでいて冷たかった。
異臭も感じられなかったし、鹿のような動物達が水を飲んでいることから、少なくともこの水は大丈夫だろうと考えられた。
飲み水は確保できた。
すべての生命体にとって、水は不可欠である。活動するにも何をするにも水は必要だ。
なんたって人間の6〜7割は水でできていると言われている。脱水症状に陥ると思考も低下してしまう。
「さてと」
喉を潤したところで、琴花は改めて周囲に目を向けた。
まず目の前には湖、その後ろには森が果てしなく続いている。
「はぁ〜明らかに酔い潰れて、近所の公園で寝ちゃいましたっていう線はなさそう……かな。少なくとも昨日は呑んでないし」
琴花は頬をポリポリとかく。
空を見上げれば、種類は分からないが鳥らしき動物が飛んでいくのが見えた。
「なんで、あたしはここにいるんだろう?」
誘拐でもされたのだろうかと一瞬そういう考えが頭に過るも、それはないなと否定する。
縄で拘束されてるわけでもないし、誘拐犯らしき人物もいない。
さらに付け加えると琴花の家庭は、貧乏ではないが裕福でもない。
テレビに出るような有名人が親戚や兄弟にいるわけでもない。
ただ、両親がキリストさんの関係で、幼少期から賛美歌を覚えて、子守唄にシューベルトを聴いていたくらいだ。
それを除けば、東海林 琴花は一般家庭の御息女という扱いになる。
「あたし、何か悪いことしたっけ? こんな所に放置されるほどの罪は犯してないと思うんだけどなぁ〜」
ポリポリと頬をかく。
そして愚痴りながら、衣類やバックの中身を確認していく。
化粧品セットや、財布や携帯も無事だった。悪戯はされていないようで琴花は安堵した。
スマホのボタンを押して、メイン画面を起動する。待ち受け画面は、最近お気に入りのアイドル。スライドして暗証番号を入力、そして電話ボタンを押そうとした時に、はたと気づく。
「あれ……アンテナマークが圏外? なんで」
琴花はスマホを頭上に向けたり、振ってみたりするも残念ながら圏外と表記されたまま。
「もう……なんだよ。最近は山の中でも繋がるって宣伝してたじゃん。白いワンちゃんと半沢さん」
一度電源を落として、再起動するも圏外のまま。
「勘弁してよ、ここ樹海なの? マジであたし自殺願望ないんだけど……」
琴花はペタンと座り込んだ。
☆
「あ」
さっき見上げたときには気づかなかったが、よくよく見ると空には太陽が二つ浮かんでいる。
微妙に重なり合っていて、よく見ないと分からなかった。
「あぁ……ということはアレかな。ここはあたしが住んでた所じゃないってこと。最近流行りの……異世界?」
これが琴花が好んで読むライトノベル的な展開ならば、目の前に誰かがいて、目的などを話してくれる。
だが、残念ながら人の気配は全く感じられない。
もしかしたら、あの湖の水を飲んでいる鹿っぽい動物が、実は案内人やメッセンジャーボーイみたいな役割を果たしているのだろうか。
琴花は恐る恐る近くにいる鹿っぽい動物に声をかけてみる。
「ちょっと、すいません」
「……………」
返事はない、ただの鹿のようだ。
鹿は喉を潤すと、そのまま森の奥へと歩いていく。 キーパーソンではないらしい。
悩んでいても仕方ないので、次の行動に移る。
「ステータス」
空に向かって叫んでみた。
これは、もしかしたらリアルで体験できるオンラインゲームなのではないかと琴花は考える。
最近読んだライトノベルが、ちょうどオンラインゲームを舞台にした話であったという関連性もあるのだが……。
ステータス画面が出てこれば、何かしらの打開策が浮かぶかもしれない。
スキルとかがあれば、そこから何かしらの打開策を見出すことができる。
しかし、反応はない。
「声が小さくて反応しないのかな。ならもう一度、ステータス」
もう一度叫んでみる。
先程より気持ち大きめに……。
だが、琴花が叫んでもステータス画面は目の前に現れる気配はない。
代わりに鳥の鳴き声が返ってくるくらいだ。
「もうッ! ノーヒントなんて無理ゲーじゃんかぁぁぁぁぁッ!」
琴花の叫びは虚しく、森に響いた。
東海林 琴花。
21才女性。
見知らぬ森にてノーヒント。
読んでいただき、ありがとうございます。