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ラスボスは終焉を選ぶ  作者: matelight
魔王城と最終決戦編 (一話完結)
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魔王と魔女と小さき者・前編

 まさかの前・後編。

 それは雨の多い季節の出来事だった。



 魔王ソルレオンの元へ『宝箱』が送り届けられた。


「ふむ。セラフィムよ、これは人間たちの新しい策略かなにかであろうか?」

「はて? どうでございましょう?」


 謁見の間には魔王を始め、魔女のセラフィム、デュラハン、門番ズや大勢の幹部が集まっていた。

 彼らの中心には黒壇材の宝箱が置かれている。大人四人がかりでようやく運べる大きさだ。

 それを謁見の間まで運んできたのは門番ズだった。


「これを持ってきたのは、たしかに人間でした。なんか気味が悪いヤツらでした」

「め、めちゃくちゃ、あ、怪しかったんだな」


 先ほど門番ズの前に現れたのは、いわゆる『邪教徒』である。【邪神】を崇める彼らと魔王は縁があるようで実はまったくない。だが親交を深めたい邪教徒たちはたまに魔王に供物を捧げてくる。

 今回もおそらくそういったものだろう。いきなり爆発はしないとは思うが……。


「魔王サマ、ココハコノデュラハンメガ――――」

「――――ふんっ」

「アッー!」


 魔王は力尽くで鍵を破壊した。

 そのまま蓋を開ける。

 周囲の警戒をよそに、特になにも起きなかった。


「こ、これは――――!?」


 魔王の驚きを引き金に、そこにいる全員が宝箱の中を覗き込む。

 そこには、



『女の子』が一人、目を瞑って眠っていた。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 女の子は夢を見ていた。

 ぬくもりに包まれた両親の記憶だ。


『――』

『――』


 両親が女の子の名を呼ぶ。やさしい声だった。

 女の子が二人に抱きつくと、心までじんわりとあったかくなっていく。そのぬくもりで冷たく凍った氷が解けていくのを感じた。


『もう起きる時間だよ、かわいいわが子』

『目を開けなさい、いとしいわが子』


 女の子はいやいやをした。顔を母の胸に押し付けて、父の袖を強く掴んで離さない。

 両親を困らせているのはわかっていた。

 でもいやなのだ。目を、開きたくない。


 夢の中ならば、両親にだって逢える。




 ――――――――暗転。




 暗くて狭い『ハコ』の中。


 誰もいなくて、なんにもなくて、苦しくて、冷たい。


「……ぅ、さん。……かぁ、さ……」



 せまい、出して、ここから、痛い、さむい、だれか、ごめんなさい、おねがい、苦しい、だして、お腹へった、もうやだ、冷たい、しんじゃう、だして、さむい、だれか、誰か、


 しにたく――――ない、




「……………………ぁ、す……け…………て」




「――――――――――――よかろう。助けてやろう」




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 女の子が目を醒ましたのは、見知らぬ部屋のベッドの上だった。



「おや~? 起きた気配がしたと思ったんだけど、ひょっとしてその目は開けられないのかい?」


 その声の主は魔女だ。黒一色のローブを身に着け、奇妙にねじくれた杖を手に持っている。ただその容姿は女の子の母親と同年代くらいだろう、想像上の魔女よりもずっと若い。


 女の子は逃げようとした。

 魔女は悪い存在だ。物語に聞いたとおりならば、女の子は今日の夕食にされてしまう。

 だが必死にもがこうとするも、女の子は縛り付けられているように動けなかった。


「無理はするんじゃないよ、おチビちゃん。あれだけ衰弱していたんだから、当分は寝たきりだよ」


 魔女は苦笑しただけだ。魔法など使っている気配はない。



 そんな場面に新たな者が入場した。


「セラフィムよ、その『小さき者』はまだ目覚めぬのか――――っと、その顔はなんなのだ!?」


 魔王ソルレオンである。彼は入って早々に大声を上げた。


「ああ魔王さまかい、これは『変化の秘薬』を作ったから試しているところさ」

「……わざわざ言葉づかいまで変えているのだな」

「見た目に合わせて、ね。どうだい? 似合っているだろう?」


 セラフィムは豪快に笑い出した。イメージとしては『肝っ玉カーチャン』だろうか。言葉だけではく性格まで『変化』しているようだが、たしかに似合っていた。


「それはそうと『小さき者』は……あれはもう目覚めているのであるか?」

「ああ、ありゃあ薄目でこっそりと覗いているはずさね。そうだろう、おチビちゃん?」


 女の子はゆっくりと体を起こした。

 すっかり癖になってしまっている薄目の奥で、二人をにらむように見据えて警戒している。先ほどの会話から目の前の魔族の正体に気付き、なんとなく『この場所』がどこであるかを察してしまったからだ。


「…………あたしを、どうするんですか? あたしを、た、たべるんですか?」



 時が一瞬だけ止まった。



 それを聞いた魔女は大笑いを始め、魔王は腕を組んだまま少しだけ驚いた表情をした。


「ほう、なかなか利発な子供ではないか。おおよそ現状を把握して敬語まで使ってくるとはな」

「――――だけど発想がまだまだ子供だねぇ。作り話を真に受けて『食べる』だなんて!」


 腹を抱えて笑っている魔女。

 女の子はその姿を見ながらも声を荒げるのをぐっとこらえた。この魔族たちがその気になれば、女の子など指先ひとつで命を奪えるだろう。


 魔王はそんな女の子をさりげなく観察していた。

 見たところ女の子の年の頃は十歳前後。わずかな時で現状把握する能力があり、相手を見て敬語を使う機転と教養があり、さらに自分の『力』と相手とを比較して我慢できる忍耐もある。

 剣の素養や魔力に関しては不明だが十分に期待できる人間だと、魔王はそう判断を下した。



 魔王はゆっくりと口を開いた。


「【邪神】や【魔神】ならば生け贄を欲するのかも知れぬが、我は【魔人】であるからなぁ……あいにく生け贄など必要としていないのだ」


 魔王はわざとらしく悔しがる。


「くぅ~、まったく残念である。

『小さき者』よ、貴様のような弱者をいたぶっても我はぜんぜん楽しくないのである。ましてや貴様を『食べる』なんて、こちらからお断りなのだ」


 魔王は魔女の方をちらりと見た。

 セラフィムはあきれたような、もうすでにこうなることを分かっていたような表情で頷いた。



「フハハハハハ――――と、いうわけで貴様を無事に帰してやろうと思うのだ」




「――――ません」




「フハハハハハ! 悔しいか? 悔しいであろう?『生け贄失格』とか。

 帰ったらこの屈辱をバネにして、剣術とか魔術とかの修行を頑張ってもよいのだぞ――――て、なに?」



「……かえるところ、なんてっ…………ありませんっ」



 シーツを握り締めながら、女の子は悲鳴のような声を上げた。


「おとうさんも、おかあさんも…………もう、いない……。おじさんたちは、あたしのこと『いらない子』だって、ハコに入れたんだ……」



 溢れ出た涙が女の子のまぶたを持ち上げた。哀しくて、冷たい涙だ。



「……あ~あ魔王さま、おチビちゃんを泣かせちゃった」

「――っ」


 魔王の顔が歪んだ。今までで一番鋭い痛みがその胸を貫いた。


「……我はいったいどうすればいいのだ? セラフィム」

「それは当然、『御心のままに』ですわ」


 つまり『やりたいようにやれ』ということか。

 魔女セラフィムは時折こういう場面で魔王を『試す』ことがあった。きっと今回もそうなのだろう。


 魔王は意を決したように女の子に近付いた。

 女の子は顔を伏せ、悲しみのまますべての動きを止めていた。

 その存在に恐怖を抱いていたはずの魔王がベッドに腰掛けても、女の子は身動ぎもしなかった。もはやすべてを拒絶した絶望の渦中にある。


 小さい、本当に小さな女の子だ。

 この子にいったいなにをしてやれるだろうか。


「【魔王】か……しょせん我にできることなどたかが知れている」


 魔王は自嘲気味に薄く笑った。



 魔王は女の子に手を伸ばし――――その頭をそっと撫でた。



 なるべくやさしく、気を使ってゆっくりと撫でる。

 女の子に反応はない。

 今度はゆっくりと語りかける。



「フハハ、なかなかよい撫で心地ではないか――――うむ、気が変わったぞ。


『小さき者』よ、貴様を帰すわけにはいかなくなった。


 残念だが、貴様は『宝箱』を開けた時からすでに我のモノ(・・・・)なのだ!」



 女の子が少し反応した気がした。



「だから貴様はもう『いらない子』などではない! この魔王ソルレオンのモノなのだ!」



 女の子が少しずつ顔を上げる。


 その目と目が合った瞬間、魔王は息を飲むほど美しい瞳を見た。


 涙に濡れたその瞳は幻想的な輝きを孕んでいた。



「……帰るところがないのならば、しばらくこの魔王城にいるがよい。我が許す」


 魔王はその宝玉をたとえる色や言葉をまだ知らなかった。



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