201
わたしは、記憶のまま家に向かう。
数回しか行ってなくても、
身体はちゃんと覚えていた。
あのマンション。
201号室…
電気はついてる。
わたしは、もうためらうことなく
家の前に、たつ。
チャイムを鳴らす。が、出ない。
次に、玄関をたたく。まだ出ない。
足を振り上げて、玄関を蹴る。
少しして、
ガチャ…
やつがキレ気味に顔をだした。
「なにしてるんだ!」
家の奥には彼女が見えた。
写メで、見たのとは別の女性。
「ひさしぶり」
わたしは、ロボットみたいにしゃべる。
あいつは、その口調に少し引き気味。
わたしはポケットに手をいれて、
ライターを取り出し手渡す…
「最後にこれに火をつけて」
わたしからの最後のプレゼント。
小さなクリスマスケーキ。
その上に、ロウソクがぽつりと1本。
「ふたりで、お祝いして」
やつは戸惑いながらも、
火をつけようとする。
「…なんか、くさくないか?」
わたしは答えない。
ロウソクに火がついた。
「ありがとう」
わたしはついた火を…
自分の身体に近づける。
すぐに、服に火が移る。
たっぷりとガソリンが染み込んだ服に…
わたしの身体が、みるみる火に包まれる。
あいつは、わけがわからないのか
声がでない様子。
部屋の奥で彼女が、キャーーッ!
叫び声をあげる。
さっきまで冷たかった身体が
…だんだん暖まってくる。
そして、熱く苦しくなってきた。
でも、一年間のあの苦しみに比べたらマシ。
わたしは、じっと耐える。
彼女みたいに叫んだりしないよ。
あいつがドアを閉めようとする。
わたしはミシミシと音をたてて炎のあがる
右腕をドアの間に突っ込んで、静止させた。
「最後まで、見てよ」
やつもさすがにパニック、か。
「どうして…」
泣くような声がした。
ざまあみろ。
わたしは、にっこり笑う。
笑いながら膝が崩れていく…
バタンっ
身体が倒れた。
「これって、警察に連絡だよな…?」
あいつが恐るおそる訊ねる。
だが、返事はない。
彼女が玄関に来て、倒れたままの
焼きこげた死体をそっと見つめる。
しばらくして…
口を開いた。
「放ってたら。焼けたらゴミなんだし」
「そ、そんな…」
あいつは明らかに戸惑っていた。
「早く、ドアをしめて」
吐き捨てるように言った。