ノック
今は遠く離れたこの場所だけど
あなたの住む街につながるあの空を眺める
そんな毎日。
同じ空、同じ月、それと…
同じ思い出。
二人だけの思い出を頼りにして。
今はまだ自由になれない。
でも、このかごの扉がいつか開いたら
わたしは自分の道を見つけて歩いていく。
ふたり決して交わることない…
いつまでも平行な道のりを、ね。
きっとそれがお互いにとっての幸せ。
思い出が記憶の中で…
色あせて、セピア色に変わったとき、
あなたとの思い出もひとつの塊となって
心の引き出しのなかにしまうことができる。
憎しみも愛情もない、記憶として。
だから…
それまでもう少し、頑張ってみるかな。
わたしは枕元に目をやる。
枕のすぐわきに置いてある、わら人形。
釘が何十本もささって、もうぐちゃぐちゃ。
愛するのもパワーがいるけど…
憎しみ続けるのも同じくらいパワーがいる。
そのとき…
コンコンっ。
病室をノックする音が響いた。
「だれ?」
ドアがゆっくりと開く。
わたしは声がでなかった。
やつれて頬がこけ、白髪混じりになった姿。
面影を見つけ出すのが難しいくらい変わっていた。
だけど、そこにいたのは…彼。
「遅くなってごめん。これ、お見舞いだよ」
弱々しく言いながら、ショートケーキを差し出す。
そこには…
1本のローソクが立っていた。
彼はうっすら笑みを浮かべている。
「ねえ、このローソクに火をつけてみて」
と言って、ライターをわたしに手渡した。
彼から…
あのときのわたしと同じ臭いがしていた。




