あいつ
わたしは…
あいつに、ずたずたに引き裂かれた。
心を、
身体を、
人生を、
そして、わたしは抜け殻になった。
空っぽになった。
わたしは…
学校にいかなくなった。
家から出なくなった。
そして…
はじめは心配してくれてた
友だちからの連絡もなくなった。
そんなわたしを家族だけは
温かく見守ってくれた。
わたしをちゃんと理解してくれた。
唯一、安らぎの場。
家族っていいな…
改めて感じてた。
犯罪を犯したもの、
その味方は…
弁護士と、家族ときいたことがある。
たしかに、そうかもしれない。
少しだけ、自分が戻りそうだった。
だったけど…
ある晩、わたしは聞いてしまった。
両親の口論を。
もちろん、わたしのこと。
「お前の育て方が悪かったんだっ」
「あなたに、似てしまったのよ」
母親も父親も、罪のなすりつけあい。
結局、家も同じか…
安らぎ、のように見えただけ。
現実ってこんなもん。
それから、数日後…
父親が家から消えた。
母親は、明るい顔で
「三人で頑張っていこうね!」
そう言った。
でも、その顔は疲れきっていた。
久しぶりに、ちゃんとその顔を見た。
皺がこんなにあったんだ。
白髪もこんなに増えていたんだね。
最近、弟は学校から帰ってくると
よく怪我をしていた。
「どうしたの?」
「また、転んじゃってさ」
明るく話すだけ。
そんなわけない。
姉をネタにいじめられてるだけ。
わたしには、わかる…
だから、ちゃんと言って。
特別な目でみないで。
家族そろって食べる食事。
でも全然、味がしない。
母親も弟も、笑顔を作ろうとしてる。
そして、わたしを笑わせようとする。
そんな食事の時間が、つらい。
わたしが不幸に導いているんだよね。
二人にほんとの笑顔をしてもらいたい。
わたしさえ、消えたら…
またお父さん戻ってくる、かな。
楽しい食卓になるのかな。
わたしみたいな娘を産んだから
わたしみたいな姉を持ったから
こうなったんだ。
原因は、わたし…
わたしが、ひきこもったせいで
周りまで不幸にしてしまってる。
そして、
こんなわたしにした原因は、
あいつ。