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② 軽微なエラー

 新しい生活が始まって一週間が経過した。


 高級住宅街の一角にある洋風の一軒家は、空気が止まっているように思える。あるいは、特定の時間をループし続けているとでも表現しようか。


 リビングの棚には、マヤが中学の入学式で撮った写真が飾られている。父母に挟まれ、控えめな笑みで、控えめなピースサインを突き出している。机の上のペン立てには、彼女が最後に使ったであろう、少し先が丸くなった鉛筆がそのままの角度で刺さっている。


 私はそれらを指一本触れずに眺めていた。私の持ち物ではないし、私の歴史でもない。しかし、私はその風景の一部として収まることを期待されている。


「おはよう、マヤ。よく眠れた?」


 朝七時にダイニングテーブルにつくと、母が明るい声で言った。その声は、震える糸を無理やり束ねたような危うさを持っていた。私はその糸を切らないように、慎重に言葉を選ぶ。


「たっぷりね。昨日のホットミルクが効いたのかな……お母さん」


 最後の一言を付け加えたとき、彼女の表情が一瞬だけ、春の陽だまりのように緩んだ。その反応を見て、私は心の中に知識を刻み込んでいた。「お母さん」と呼ぶのは、ローリスク・ハイリターンの「正解」である、と。


 私は現在、環境適応のプロセスにある。

 誰もが幼児期に通る過程と言っていいだろう。


 クローンとして、レプリカとして、この家で波風を立てずに存在し続けること。それが私の存在証明の第一段階であると定義した。私が私自身の輪郭を保つためには、まず外部との摩擦を最小限に抑え、周囲に「私は正常である」と認識させなければならない。異常値として検出され、再びあのカプセルに戻されることだけは避けるべきだ。


 食事中。父が新聞を読みながら、「来週から学校に通えるか」と聞いてきた。研究所で受けた教育課程により、私は同年代の生徒よりも高い知識水準にある。しかし、学校という場所は知識の習得以上に、社会的な擬態能力を試される場所だとも知っている。


「大丈夫だと思う。少し緊張するけど」


 これも正解だろう。「完璧にこなせる」と断言するのは、可愛げのない、非人間的な反応とされる。少しの不安をスパイスとして加えることで、私は「マヤらしい」少女として出力される。彼女はあまり内心を明かすことがなかったらしいが、このような冗談めいた弱さは日常的に見せていたらしい。


 ……ただ、この一週間の記録の中で、微細なエラーが発生していた。


 一つ目は、朝の覚醒時間の遅延だ。

 予定では午前六時三十分に起床し、思考の整理を行うはずだった。しかし、ここ数日、目が覚めても体が鉛のように重く、意識が意識として機能するまでに二十分以上の空白が生じている。天井の木目を数えながら、自分がどこにいるのか、なぜこの肉体を動かさなければならないのかという問いが、プロセスの実行を妨げている。


 二つ目は、この空白の時間に付随する不快感だ。

 何もしていない、何も生産していない時間に、胸の奥がじりじりと焼けるような感覚。これを「罪悪感」と呼ぶのだと辞書的な知識は教えてくれる。


 だが、なぜ罪悪感が生じるのか?「マヤ」として最低限の義務を果たしているはずなのに。


 私は日記の余白にこう記した。


《「朝の遅延」および「空白への不快感」について。これらは環境の変化に伴う、典型的な適応不順の前兆と推測される。あるいは、研究所という管理された空間から、非論理的な家庭という空間に移ったことによる「自由度の増大」が原因か。解決策としては現状を「怠惰」と定義し、克服すべき課題として設定する。明朝からは五分単位のスケジュール表を作成し、自己を律する。》


 私は自分が正常であると確信している。

 なぜなら、こうして自分の不調を客観的に分析し、対策を講じることができているからだ。感情に流されて泣いたり、過去を嘆いて塞ぎ込んだりするような、普通の人間とは違う。私はクローンなのだ。マヤの遺伝子を持ちながら、マヤが持ち得なかった「制御装置」を備えている。


 夜、鏡の前で自分の顔を見る。

 マヤと同じ瞳、マヤと同じ鼻の形。しかし、その奥に宿っているのは、冷徹な観測者の視線なのだ。彼女がこの鏡の前で何を思っていたのか、私には分からない。彼女がなぜ「いなくなった」のかも、私には知らされていない。


 だが、それでいい。私は「死」という失敗を繰り返さない。彼女よりも効率的に、彼女よりも精密に、この人生という名のシミュレーションを完遂してみせる。私らしく、クローンらしく。


 すると母がドアをノックし、いつものようにホットミルクを持ってきた。砂糖抜きの無調整とは言うが、研究所育ちにはよく味が分からない。


「マヤ、あまり遅くまで起きてちゃだめよ」


「分かってる。ありがとう」


 私はマグカップを受け取り、そっと微笑んでみせた。口角を上げる角度は映像記録で見たものを忠実に再現した。案の定、母は満足したように部屋を出ていく。


 扉が閉まった後、私はホットミルクを一口も飲まずに机に置いた。ほのかに甘い匂いが鼻をつく。……不快だ。しかし、この不快感もまた「慣れの問題」に過ぎないだろう。


 私はスケジュール帳にペンを走らせた。明日の起床時間は、六時十五分に設定した。今日より十五分早い。たった十五分だが、彼女より多く、私は正しく存在してみせる。


 これが私の「正常」の証明なのだ。マヤではないなら、少しでも「マヤらしい生活」から外れなければ。

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