表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

共鳴する三位一体(トリニティ)――変幻自在の円舞曲

バザルタの中央広場。絶望という名の闇に塗り潰されていたその場所に、今、三つの「意志」が火花を散らした。

「……バルガス、リィン。作戦は一つだ。僕の合図に合わせて、全力を叩き込め」

ルストの言葉に、二人が力強く頷く。

影の軍勢は、獲物が「覚醒」したことを本能的に察知し、数千の影を一箇所に集束させ始めた。それは山をも飲み込む巨大な黒い津波となり、三人を圧殺せんと押し寄せる。

「……来るわ。実体のない影の奔流……普通に斬っても無駄よ!」

リィンが鋭く叫び、魔導書を空中に固定する。

「ああ、分かっている。だからこそ――リィン、今だッ!」

ルストの号令。

リィンの指先が、複雑な幾何学模様を空に描く。

「《理の外側に干渉せよ――反転する極光》!」

その光に触れた瞬間、霧のように実体のなかった影の軍勢は、パキパキと音を立てて硬質化し、物理的な肉体へと変質した。

「今だ、仕留めるわよ!」

リィンが追撃の魔法を放とうとした、その時だった。

実体化した数千の影が、互いを喰らい合うように一点へと猛烈に集束を始めた。肉と肉が軋み、骨が鳴るようなおぞましい音が響く。次の瞬間、そこに現れたのは、広場を埋め尽くすほど巨大な、**単眼の異形――「影の巨神」**だった。

「なっ……個体数を減らしたんじゃない、一つにまとまったというの!?」

リィンの顔から血の気が引く。巨神が放つ凄まじい風圧だけで、三人は後方へと吹き飛ばされた。物理的な質量を得た絶望は、先ほどまでの比ではない。

「……クソっ、こんなデカブツ、どうやって……」

バルガスが膝をつき、大剣を握る手が震える。全滅の予感が場を支配した。

崩壊しかけた三人の士気を繋ぎ止めたのは、一歩前に踏み出した「背中」だった。

ルストは、焼けるような恐怖を腹の底に押し込み、兄ノアと全く同じ――否、それ以上に毅然とした態度で、巨神を見上げた。

「……バルガス、リィン。顔を上げろ」

その声は、震えてなどいなかった。ルストは、兄が残した予備の聖剣を悠然と構え、不敵な笑みさえ浮かべてみせる。

「この程度のデカブツ、兄さんなら欠伸あくびをしながら切り伏せる。……僕たちにそれができないと思うか?」

その凛とした佇まいに、二人の心に火が灯る。

(そうだ……この人は、絶望なんて最初から見ていないんだ!)

ルストが放つ「勇者のオーラ」――それは彼が血の滲むような努力で作り上げた最高の「演技」であり、今この瞬間、三人を繋ぎ止める唯一の希望となった。

「行くぞ! 奴の意識を散らせ! 一瞬でも止まれば死ぬと思え!」

ルストの鋭い号令が響く。巨神の振り下ろした巨大な拳が石畳を粉砕するより早く、ルストは横に飛び、リィンの結界を蹴って加速した。

「リィン、反射ミラーだ!」

「合わせるわ、死に損なわないでよ!」

リィンが掌をかざし、三つの光球を異なる軌道で撃ち出す。ルストは走りながら、予備の聖剣の腹を鏡のように斜めに構えた。

キィィィィィィィン!

一発目の光弾がルストの剣に当たり、鋭角に屈折して巨神の単眼を射抜く。眩惑に悶える巨神。そこへ、二発目、三発目がルストのステップに合わせて次々と剣の表面で跳ね返り、巨神の関節を、喉元を、急所を的確に穿っていく。ルスト自身が放つ斬撃ではない。リィンの魔法を「剣で操る」という、反射神経の限界を超えた不規則な長距離攻撃だ。

「次は直接ダイレクトよ、避けなさい!」

リィンが指を鳴らす。巨神の足元から無数の氷の棘が噴き出した。巨神がそれを回避しようと後退した先には、すでにルストが回り込んでいる。

「させない!」

ルストは予備の聖剣を逆手に持ち替え、氷の棘に反射したリィンの電撃を剣先で「受け流し(パリー)」、そのまま巨神の懐へねじ込んだ。

魔法が剣を伝い、剣が魔法を導く。

ルストの斬撃は、リィンの放つ火球や雷撃と複雑に混ざり合い、もはやどこまでが物理的な剣筋で、どこからが魔法の放射なのか判別できない。

「右よ!」「いや、上だ!」

二人の連携は、巨神の巨体を翻弄した。ルストが剣を振れば、そこからリィンの爆破魔法が誘発される。リィンが風を吹かせれば、ルストがその風に乗って重力無視の軌道で巨神の背後を取る。

「バルガス、スイッチだッ!!」

ルストの叫びと共に、最前線の二人が交差する。

ルストがリィンの霧魔法に紛れて後方へ下がり、入れ替わりでバルガスが巨神の懐へ飛び込んだ。

「おおおおお! 勇者様の背中は、一歩も通させねえ!!」

バルガスが大剣で巨神の巨腕を真っ向から受け止め、凄まじい火花を散らす。巨神がその「壁」を排除しようと意識を集中させたその瞬間、リィンは巨神の全周囲に数十の魔力回路を展開し、目眩ましと爆音の連鎖を仕掛けた。

巨神の全意識が、目の前のバルガスとリィンの猛攻に釘付けになる。

――それこそが、ルストが描いた「詰み」の盤面だった。

バルガスと入れ替わった瞬間に、ルストはリィンが作った風の足場ウィンド・ステップを蹴り、崩壊した時計台の屋上へと跳躍していた。

「リィン! 全力を僕に預けろ!!」

地上からリィンが放った最大出力の極光が、夜空を裂いてルストへと向かって垂直に伸びる。

ルストは空中で身を翻し、予備の聖剣を、自身の存在すべてを乗せて鏡のように構えた。

「これは……僕たちの、あがき抜いた答えだぁぁぁ!!」

聖剣に集束し、増幅された極光が、巨神の頭上からその「心臓」目掛けて一直線に突き刺さる。死角からの、回避不能の一撃。

予備の聖剣は、リィンの魔力とルストの執念を宿し、巨神の硬質な外殻を紙のように引き裂いて、その核を完全に粉砕した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ