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永久の賦ー悪源太義平異聞ー  作者: 鍋鞍しづる
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旅人、二

 その昔、悪源太(あくげんた)義平(よしひら)という若武者がいた。


 生国(しょうごく)は鎌倉、東国にて武家の棟梁として勢力を誇っていた源氏の惣領(そうりょう)源義朝(みなもとのよしとも)嫡子(ちゃくし)だった。十五の時に叔父である源義賢(みなもとのよしかた)を討ち、それによって人々より畏怖(いふ)され、悪源太との異名がついた勇猛果敢(ゆうもうかかん)な若者だった。


 しかし、平治元年に都で起きた戦で死んだ。


 世に言う「平治の乱」は、もう一方の武門の家柄である平氏との実質的な勢力争いであったが、義朝以下、坂東(ばんどう)より兵を率いて戦った義平ら源氏方の敗走で終わった。義朝は東国へ落ち延びる最中、家人の裏切りで(くび)を討ち取られた。義平はその(かたき)を討とうとして、平氏方に見つかり、六条河原で頸を()ねられた。


 その処刑場で一部始終を見守っていた都人らは、およそ二十になったばかりの若武者の死を囁きあったが、同じその場で起こった異様な様相を噂する者はいなかった。


 それは、一人の女の姿だった。


 どこからともなく現れたその女は、鎧を着た平氏方の侍にまぎれて、そこにいた。


 貧しい都の人々が目にしたならば、必ずや口の端にのぼらせただろう。高貴な身分をあらわす壺装束を身にまとう女人が、なにゆえにこのような(けが)れた場にいて、罪人の前に立っているのだろうと。 


 そしてまた、その女人の行いに目を(みは)っただろう。


 今から頸を刎ねられる若武者と、接吻(くちづけ)を交わしたことを。


 太刀が振り落とされ、若武者の頸は宙を飛び地面に転がったが、女はそれに目もくれず、その場を立ち去ったことを。


 都人らは女の影すら見えていなかったかのように、若い身空で処刑された武士の亡骸(なきがら)だけを見守った。


 しかし、その戦から二十年もの月日を経てーー


 その妖艶な女と頸を刎ねられたはずの若武者は、共に旅をしていた……

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