永久、九
月夜霊は両腕で義平を跳ね除けて起き上がり、狂乱にうめいて悶え苦しむ。
「……なん、と……」
穴があいた左胸を手で押さえ、信じられぬように唸る。
「……何、という……もはや、私は……」
畳に座り込む義平を、憎悪を宿した眼差しで突き刺す。それは、もう一人の同胞へもそそがれた。
「おのれ……夜叉」
だがやにわに、月夜霊の朱い眼は、何かを捜すように、右へ左へと揺れた。
「助けねば……私の愛し子よ……」
室内が、兆しもなく、闇夜となる。
月夜霊の身体から、白金の光が生じて、主を囲った。頼りなげな月光は、夜に生きる蛍のように可憐で、月夜霊の背後に、一つの影をあらわす。
「月夜霊!」
知盛は消えた時と同様の出で立ちで、月夜霊に駆け寄ろうとする。しかし月光が防ぎ、知盛の手を足を、行かせまいとするかのように掴まえる、
「もう逢えぬ……愛し子よ……」
「月夜霊!! しっかり致せ!!」
「私の……全てを与え……ならば……生きられ……」
「何を申している!!」
「我らは、輪廻に無縁……其方とは、二度と……」
「月夜霊!!」
知盛は叫ぶ。
月夜霊は、力なく知盛へ笑んだ。親のような慈愛を漂わせた、優しい微笑みだった。
「……生きよ、たとえ……運命がそうであろうとも……愛し子……」
「月夜霊!! なぜに側へ近寄らせてはくれぬ!!」
知盛は触れあえる近さにいながら、動かぬ身に苛立つ。
「月夜霊、なぜに……」
「――ゆけ……其方があるべき場へ」
月夜霊は月光に命ずる。
月光は渦を巻いた。
知盛はその中心へ、ひと息に呑み込まれた。爪の先が消え失せるまで、月夜霊、と口にし続けて。
渦は、闇へ吸い込まれる。
それを見届けて、月夜霊は安堵したかのように、両手を地へついて、うなだれる。
そうして、風となった。




