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永久の賦ー悪源太義平異聞ー  作者: 鍋鞍しづる
23/25

永久、九

 月夜霊は両腕で義平を跳ね除けて起き上がり、狂乱にうめいて(もだ)え苦しむ。


「……なん、と……」


 穴があいた左胸を手で押さえ、信じられぬように唸る。


「……何、という……もはや、私は……」


 畳に座り込む義平を、憎悪を宿した眼差しで突き刺す。それは、もう一人の同胞へもそそがれた。


「おのれ……夜叉」


 だがやにわに、月夜霊の朱い眼は、何かを捜すように、右へ左へと揺れた。


「助けねば……私の愛し子よ……」


 室内が、(きざ)しもなく、闇夜となる。


 月夜霊の身体から、白金(しろかね)の光が生じて、主を囲った。頼りなげな月光は、夜に生きる蛍のように可憐で、月夜霊の背後に、一つの影をあらわす。


「月夜霊!」


 知盛は消えた時と同様の出で立ちで、月夜霊に駆け寄ろうとする。しかし月光が防ぎ、知盛の手を足を、行かせまいとするかのように掴まえる、


「もう逢えぬ……愛し子よ……」

「月夜霊!! しっかり致せ!!」

「私の……全てを与え……ならば……生きられ……」

「何を申している!!」

「我らは、輪廻(りんね)に無縁……其方とは、二度と……」

「月夜霊!!」


 知盛は叫ぶ。


 月夜霊は、力なく知盛へ笑んだ。親のような慈愛を漂わせた、優しい微笑みだった。


「……生きよ、たとえ……運命がそうであろうとも……愛し子……」

「月夜霊!! なぜに側へ近寄らせてはくれぬ!!」


 知盛は触れあえる近さにいながら、動かぬ身に苛立つ。


「月夜霊、なぜに……」

「――ゆけ……其方があるべき場へ」


 月夜霊は月光に命ずる。


 月光は渦を巻いた。


 知盛はその中心へ、ひと息に呑み込まれた。爪の先が消え失せるまで、月夜霊、と口にし続けて。


 渦は、闇へ吸い込まれる。


 それを見届けて、月夜霊は安堵したかのように、両手を地へついて、うなだれる。


 そうして、風となった。

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