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永久の賦ー悪源太義平異聞ー  作者: 鍋鞍しづる
20/25

永久、六

 義平は唸り声をあげながら、腕ずくで押す。知盛は歯を噛みしめ、一歩も引かない。


 押しつ押され、抜き身を間に真っ向からぶつかる。


 義平は渾身を込めて、太刀を強くぶつけた。衝動で、知盛は身体をふらつかせる。


 勢いのまま、斬りつけようとした。知盛は即座に側にあった帳を引き剥がし、投げつける。


 義平は腕で振り落とし、几帳の影に回り込む。


 知盛が身を乗り出す。


 太刀が激しく相討ち、義平は二度(ふたたび)喰らわせる。


 知盛は脇息(きゅうそく)に足元を取られ、仰向けに転がった。立ち上がろうとする上に義平は乗り、知盛の首筋へ刃を近づけ、身動きを封ずる。


 知盛の、ひとつに結っていた烏髪(うはつ)が、ざんばらに散らばった。


「……悪源太殿」


 知盛は息をついて、冷静に呼びかける。


「視られたか……我らの行く末を……」


 苦しげに、紡ぐ。


「その……眼に……平家の定めが、どのように……」


 義平は知盛の胸ぐらを鷲掴みにすると、太刀をあご下へ動かす。


 知盛は咳き込んだ。が、両目をいっぱいに見開く。


「待て……」


 と呟き、顔を背けた。


 義平は顎を手に、強引に向かせる。


 途端に、うっと、呻く。


「父上――」


 組み敷く男の相貌は、知盛ではなく、死んだ義朝であった。生前と、顔かたち、眉、目、鼻、口は同じく、それらに強固な意思と激甚(げきじん)の本性を()している。


 馬鹿な、と思ったが、手の力が自然とゆるんだ。


「悪源太」


 覚えのある眼差しが、自分を射すくめる。


「なにゆえに、父の首に太刀を添える」

「父上……」


 義平は狼狽する。知盛を追いつめたはずが、どういう仕掛けでか。父は死んだのだ――義平は心に念ずる。家人に裏切られ、頸を梟首(きょうしゅ)されたのだ。二十年も前に。


 これは、()()()き幻だ。


「悪源太、離れよ」


 否とは言わせぬ口調に、義平は打たれたごとく、脇へ退ける。


 義朝はゆっくりと身体を起こし、義平へ、くつろぐように目尻をさげる。


「先の戦では、よくぞ戦った。のう、悪源太。父はこの世に未練はなく、地獄の世を治めたい。そのためには、其方が必要なのだ。勇猛な息子よ、儂と共に、いざ、参ろうぞ」


 至近で、まるで(ばく)するように、義平を凝視する。


 義平もまた、魅せられたように目を離さない。意識が次第にあやふやになり、身体が重い鉛を背負った感じで、指の先が震える。


「この父と、地獄へ下ろうぞ、悪源太」

「父上……」


 視界が、うつろとして定まらない。


「あの戦で、坂東から駆けつけた時と同様に、父を助けてはくれぬのか」


 野太い声が、ひそやかに重ねられる。


「……いえ」


 すみやかに返答した。


 義朝は、唇の端をねじ曲げて、


「その太刀で、頸を斬り落とすのだ。其方は、赤き血がいまだ流れておるゆえ、たやすい」

「……承知、いたしました……」


 まるで己に課せられた使命のように、義平はゆるゆると頷いて、己の首へ太刀を押し当てる。

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