永久、六
義平は唸り声をあげながら、腕ずくで押す。知盛は歯を噛みしめ、一歩も引かない。
押しつ押され、抜き身を間に真っ向からぶつかる。
義平は渾身を込めて、太刀を強くぶつけた。衝動で、知盛は身体をふらつかせる。
勢いのまま、斬りつけようとした。知盛は即座に側にあった帳を引き剥がし、投げつける。
義平は腕で振り落とし、几帳の影に回り込む。
知盛が身を乗り出す。
太刀が激しく相討ち、義平は二度喰らわせる。
知盛は脇息に足元を取られ、仰向けに転がった。立ち上がろうとする上に義平は乗り、知盛の首筋へ刃を近づけ、身動きを封ずる。
知盛の、ひとつに結っていた烏髪が、ざんばらに散らばった。
「……悪源太殿」
知盛は息をついて、冷静に呼びかける。
「視られたか……我らの行く末を……」
苦しげに、紡ぐ。
「その……眼に……平家の定めが、どのように……」
義平は知盛の胸ぐらを鷲掴みにすると、太刀をあご下へ動かす。
知盛は咳き込んだ。が、両目をいっぱいに見開く。
「待て……」
と呟き、顔を背けた。
義平は顎を手に、強引に向かせる。
途端に、うっと、呻く。
「父上――」
組み敷く男の相貌は、知盛ではなく、死んだ義朝であった。生前と、顔かたち、眉、目、鼻、口は同じく、それらに強固な意思と激甚の本性を秘している。
馬鹿な、と思ったが、手の力が自然とゆるんだ。
「悪源太」
覚えのある眼差しが、自分を射すくめる。
「なにゆえに、父の首に太刀を添える」
「父上……」
義平は狼狽する。知盛を追いつめたはずが、どういう仕掛けでか。父は死んだのだ――義平は心に念ずる。家人に裏切られ、頸を梟首されたのだ。二十年も前に。
これは、果敢無き幻だ。
「悪源太、離れよ」
否とは言わせぬ口調に、義平は打たれたごとく、脇へ退ける。
義朝はゆっくりと身体を起こし、義平へ、くつろぐように目尻をさげる。
「先の戦では、よくぞ戦った。のう、悪源太。父はこの世に未練はなく、地獄の世を治めたい。そのためには、其方が必要なのだ。勇猛な息子よ、儂と共に、いざ、参ろうぞ」
至近で、まるで縛するように、義平を凝視する。
義平もまた、魅せられたように目を離さない。意識が次第にあやふやになり、身体が重い鉛を背負った感じで、指の先が震える。
「この父と、地獄へ下ろうぞ、悪源太」
「父上……」
視界が、うつろとして定まらない。
「あの戦で、坂東から駆けつけた時と同様に、父を助けてはくれぬのか」
野太い声が、ひそやかに重ねられる。
「……いえ」
すみやかに返答した。
義朝は、唇の端をねじ曲げて、
「その太刀で、頸を斬り落とすのだ。其方は、赤き血がいまだ流れておるゆえ、たやすい」
「……承知、いたしました……」
まるで己に課せられた使命のように、義平はゆるゆると頷いて、己の首へ太刀を押し当てる。




