表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永久の賦ー悪源太義平異聞ー  作者: 鍋鞍しづる
19/25

永久、五

 その下で、少年と直衣姿の男が出合っている。少年は、男が異相であることを知ってなお、慕う気持ちを変えなかった。男もまた、自分を畏れない少年を、愛しく思い始めていた。だが、ほどなく、少年は病に伏した。遠からず、黄泉路へと向かう定めにあった。


 男は少年を救うために、迷わず与えた。己を。


 男は輪廻の外にいる。ゆえに、衆生(しゅじょう)三世(さんぜ)を視通す。少年が死ぬのは、名を交わした時より視えていた。


 しかし、と男の自問する言葉が聞こえてくる。我らは(どう)にあらず。人は、ただの浮世の花でしかない。数多の血で目醒めれば、眠りに入る前とは、明らかに様相の違う花が。一面に咲いていた。うちの一つ、色鮮やかなのを気まぐれに手折った。(いにし)え、共に同じ地で過ごせし者たち。いつの頃からが、姿形が違うと。我らを追い始めたのは。思い出すこともままならぬ、遥かな大昔。最後に、幼子の素朴な笑顔を見たのは、いつだったか。何百年も経て、この少年が思い出させてくれた。


 失えば、もう逢えぬ。


 ならば、定めを変えねばならぬ。


 それには、人の生を捨てねばならない。


 人の生を捨て、我らの生を。


 そして、男と少年は、一体となった。


 ……それを(もっ)て、流れは途絶えた。


 場が、戻る。朝日が支配する。燦々(さんさん)とそそぐ光は、穏やかに微笑する知盛と、表情硬く微動だにしない義平とを、はっきりと浮き彫りにする。


 義平は、風の辿(たど)りをなぞるように、首を動かした。


 夜叉は口元に紅梅色の扇をかざしていた。妖しの眼差しは、何を語りたいのか、一途に義平だけを見つめている。


 義平は初めて、たかぶった感情なく、夜叉を見た。


 しかし、束の間。義平は向き直る。


「俺は、(かたき)を討つために参った」


 知盛へ、毅然(きぜん)と言い放つ。


「それだけだ。死にたくなくば、この場に月夜霊を出せ」

「お断りいたす」


 知盛は即答した。


「彼は、私の恩ある者。討つなど、もっての外」

「そうか、なれば、共に地獄へ下れ」

「悪源太殿……」


 知盛は、ため息を吐く。


「そこもとは、源家を再興いたさぬのか。父上が情けをかけ、命を助けた挙げ句に、我らを都から追い立てた者共のように」

「俺には関係がない」

「それは、なぜに」


 義平は応えず、お主は、と切り出す。


「俺に、平家を討ち滅ぼせと申しておるのか」

「そうではござらん。ただ……」


 知盛はごく憂いを含んで、言いよどむ。


「くだらぬ戯れ言を交わすまでもない。いざ、俺と組め!」


 義平は鞘から太刀を引き抜き、猛然と斬りかかる。


 知盛も素早く抜刀し、寸前で受けとめる。


 二つの刃が、激しく打ち当たる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ