永久、五
その下で、少年と直衣姿の男が出合っている。少年は、男が異相であることを知ってなお、慕う気持ちを変えなかった。男もまた、自分を畏れない少年を、愛しく思い始めていた。だが、ほどなく、少年は病に伏した。遠からず、黄泉路へと向かう定めにあった。
男は少年を救うために、迷わず与えた。己を。
男は輪廻の外にいる。ゆえに、衆生の三世を視通す。少年が死ぬのは、名を交わした時より視えていた。
しかし、と男の自問する言葉が聞こえてくる。我らは同にあらず。人は、ただの浮世の花でしかない。数多の血で目醒めれば、眠りに入る前とは、明らかに様相の違う花が。一面に咲いていた。うちの一つ、色鮮やかなのを気まぐれに手折った。古え、共に同じ地で過ごせし者たち。いつの頃からが、姿形が違うと。我らを追い始めたのは。思い出すこともままならぬ、遥かな大昔。最後に、幼子の素朴な笑顔を見たのは、いつだったか。何百年も経て、この少年が思い出させてくれた。
失えば、もう逢えぬ。
ならば、定めを変えねばならぬ。
それには、人の生を捨てねばならない。
人の生を捨て、我らの生を。
そして、男と少年は、一体となった。
……それを以て、流れは途絶えた。
場が、戻る。朝日が支配する。燦々とそそぐ光は、穏やかに微笑する知盛と、表情硬く微動だにしない義平とを、はっきりと浮き彫りにする。
義平は、風の辿りをなぞるように、首を動かした。
夜叉は口元に紅梅色の扇をかざしていた。妖しの眼差しは、何を語りたいのか、一途に義平だけを見つめている。
義平は初めて、たかぶった感情なく、夜叉を見た。
しかし、束の間。義平は向き直る。
「俺は、敵を討つために参った」
知盛へ、毅然と言い放つ。
「それだけだ。死にたくなくば、この場に月夜霊を出せ」
「お断りいたす」
知盛は即答した。
「彼は、私の恩ある者。討つなど、もっての外」
「そうか、なれば、共に地獄へ下れ」
「悪源太殿……」
知盛は、ため息を吐く。
「そこもとは、源家を再興いたさぬのか。父上が情けをかけ、命を助けた挙げ句に、我らを都から追い立てた者共のように」
「俺には関係がない」
「それは、なぜに」
義平は応えず、お主は、と切り出す。
「俺に、平家を討ち滅ぼせと申しておるのか」
「そうではござらん。ただ……」
知盛はごく憂いを含んで、言いよどむ。
「くだらぬ戯れ言を交わすまでもない。いざ、俺と組め!」
義平は鞘から太刀を引き抜き、猛然と斬りかかる。
知盛も素早く抜刀し、寸前で受けとめる。
二つの刃が、激しく打ち当たる。