現の夢、四
寝覚めれば、そこは洞穴だった。
義平は冷えた土の上に横たわっていた。身体に掛けられてあった女物の袿を払いのけると、上半身を起こし、すぐに目を走らせる。天井は低くはなく、周りは岩肌が露出し、苔も生えている。外は昼間のようで、日が穴口のそばまで明るく射し込んでいる。穴口の外には、幹も枝も短い若木が一本、肥えた土から生えているのが見える。
義平が横たわっていたのは、ちょうど洞穴の影になるあたりだった。誰かが穴口の前を通り過ぎようとも、気づかれはしないだろう。
上半身は裸だった。胸紐はゆるめられ、腰まで脱がされている。
義平は確かめるように首筋を触った。傷つけられた喉笛は、何事もない。次いで右肩を見る。肉を食い千切られ、骨も噛み砕かれ、右腕をなくしたありさまが、怒涛のように湧いた。けれど、まるでうたかたの幻であったかのように、肩も腕も異常はない。痛みもない。
五本の指を広げて、右肩を強く押さえると、苦しげに腕の中に顔を埋めた。昔日を思い出した。あの折りも、己は醜態をさらした。そして、此度も。
――おのれ、月夜霊。
全身が怒りにわななく。愚弄され嘲弄され、平静でいられる義平ではない。たとい、このような浅ましい姿になり果てようとも。
あの六条河原での夜叉との邂逅が、頭をかすめる。今から死ぬ身であった己に近づき、接吻を交わした女――妾の命をさずけよう、と美しい唇を動かして。
その後のことはよく覚えてはいない。わかっているのは、現世に還り、初めて接したのは己自身の怪異だった。出合ってから二十年もの間、一度も目覚めることなく、人外の者となっていた。
そして視たのは、父の命を喰らった化け物だった。
義平は腕の中で、苦悩に突き刺されたように呻く。かの昔、武を誇った源頼光が、大江山で退治したと言い伝えられる酒吞童子と何程の違いがあるのか。傍らにいた女は言った。其方は鬼になったのだと――
義平は腕から顔を上げ、首を動かしてかえりみる。洞穴によどむ空気が、立ち入り人を教えた。
たくましい背に寄り添うようにいたのは、義平に鬼と伝えた女だった。
「気がつかれたご様子」
夜叉はその場で膝を下ろし、白湯を手渡す。義平は一瞥して、無言で受け取ると、ひと息にあおった。白湯はぬるく、喉を流れ、渇きを癒す。
「兵を上げたそうじゃ」
前触れもなしに、夜叉は話し始めた。
「其方の弟御が、坂東で兵を上げたそうじゃ」
義平はどういうことかと眉をしかめたが、やや待って、その意味するところがわかった。
「頼朝か」
清盛に一命を助けられ、伊豆の地へ流刑されたと、風聞で知った。目覚めた後に。
「……そうか、あれがな」
義平の胸にある弟は、十三のまだまだ幼さが抜けきれない少年だった。落ち延びる最中、たびたび居眠りをし、起こせば母の夢を見ていたと洩らした、素直で大人しい若武者であった。