表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼が出世できない理由

 システム運行担当のS村さんは優秀だ。要件に応じた資料を手際よく作成してくれるし、ユーザーの要望をよく理解してそれを仕様に落とし込めるし、プログラミングは見やすい上に機能的にも優れていて、しかも素早く仕上げてくれる。24時間年中無休で稼働しているシステムのトラブル対応も実質的に彼一人で行っていて、しかも、対応内容はほぼ完ぺき。今まで一度だって対応ミスをしていない。仕事ぶりも真面目で責任感がある。

 だけど、何故か、S村さんは出世していないのだった。

 新人OLのU岡さんはそれが不思議で不思議でならなかった。何しろ、彼と同期のA田さんは今では主任にまでなっているのだが、A田さんはお世辞にも仕事ができるとは言えなかったからだ。彼女は、一度、A田さんと一緒に仕事をした事があるのだが、ざっくりと指示を出すだけでタスク管理すらもしてくれなかった。つまりは丸投げである。

 

 「……どうしてS村さんは、出世できないのですかねぇ?」

 

 そんな事を思っていたものだから、ある日の飲み会でU岡さんは思わずそう呟いてしまった。偶々近くにいた、S村さんよりも一期上の先輩は、それを聞いてこう言った。

 「あいつの場合、立ち回りがまずいんだよ」

 彼女は首を傾げる。

 「立ち回り? 真面目で責任感があるように思えますが」

 「そーいう事じゃないよ。例えば、あいつ、飲み会の二次会には絶対に参加しないだろう? そーいうのが上の連中には気に食わない訳さ」

 それを聞いて彼女は思う。アルコールは、愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンと非常によく似た作用を及ぼすのだそうである。酒宴の場を設ける事は、同盟関係を結ぶ手段としてよく用いられるが、それはだからなのかもしれない。 “盃を交わす”という言葉には、親交を深めたり、約束を取り交わしたりといった意味合いがある。

 “なんだかなー”

 と、それを聞いてU岡さんは思ってしまった。一応、S村さんはこの飲み会に参加してはいるが、今日も二次会に行かないつもりだろう。酔っていた所為もあったのかもしれない。どうにも納得のいかなかった彼女は、つい彼に近付くとこう話しかけてしまった。

 「どうしてS村さんは、二次会に行かないのですか?」

 すると、キョトンとした表情を見せた後で彼はこう返すのだった。

 「“どうして”って、トラブル対応できるのが僕だけなのに、二次会に行って泥酔でもしちゃったらまずいでしょう? 夜中はバッチが動く本番なんだから」

 それにU岡さんは目を丸くした。

 そして、こう悟ったのだった。

 

 “なんてこった! 真面目で責任感があるからこそ出世できないんだ、この人は……”

 

 この世の中は、やっぱり色々とおかしい気がする。

 

 ――ただ、

 「ところで知っているかい? 今日、あっちの席でA田のやつがへたばっているけど、 あいつ、今日で今週三回目の飲み会らしいんだよ。流石にきついだろうね。立場上、出席しない訳にいかないのだろうが、ああいうのを見ると、偉くなるのも考えもんだって思うよ」

 それからS村さんは辛そうにしているA田さんを指差すとそう同情をしたのだった。

 “そもそも、この人は出世には向かない性質なのかもしれない……”

 とも、それで彼女は思ったのだった。

因みに、三回目の飲み会の話は本当です。飲み会で、偶然、課長が近くにいて、辛そうにしているので訊いてみたらそう言っていた事があった……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ