53 グッドバイ親知らず (センチメンタルうどん編)
金曜日。仕事帰りの足取りは重かった。右下の親知らずを抜くんである。
副都心線の車内であれこれ思った。この親知らずは二十歳ころ頭を出してから進行方向正面に向かって生え始め、一つ手前の歯を、ことあるごとに苛めた。
残業続きで睡眠不足だったり、借金王だったときには年中無休でグリグリ暴れだした。そういえば昔、オートバイでスピード違反し、白バイにサイレン全開で追いかけられ、青山1丁目の交差点から六本木を越えて、神谷町でつかまった時も、おまわりさんに蹴飛ばされたオシリより、親知らずのほうが痛かったっけ。ようするにストレスのバロメーターだったんである。
てなわけで、20年以上の腐れ縁も、今日でサヨナラ、なのだ。グッドバイ、親知らずちゃん。待合室はしんと静まり返っていて、ラフマニノフがBGMで流れていた。早速治療室へ。先生曰く、20分程度で抜歯し、縫合して30分くらいで全部終ってしまうとか。ささ、おサムライさん、ばっさりやっておくんなせえ!
「いやあ、久々にイヤな汗かいちゃいましたよぉ」
地元でも一番のスゴ腕だと誉高い先生も思わず苦笑い。僕の親知らずはなかなか抜けず、最後はコッパミジンに粉砕され、抜く、というより剥がす、という感じだった。一時間ちょっきりかかって手術は終ったのだった。何が30分だ。僕はとてもセンチメンタルな気持ちになっていた。
20年以上の付き合いだった親知らずを抜くことは、ベテランのソープ嬢に童貞をささげてしまうような喪失感である。わかる?わかんないだろうサ!!
翌日起きると、どらえもんのように右のほっぺたが腫れていた。腹は減っているのだが、やはり何でも喰えそうという感じではなかった。そうか、うどんにしよう。
何故かかつおだしのような魚介系のにおいをかぎたくなかったので、がらスープに塩コショウし、長ネギだけぶち込んで冷凍のうどん玉を投入。ちょっと長めに煮込んで柔らかくし、オイスターソースとごま油をともにこさじ1程度ちょろっと。火を止めてときたまごをまわしかける。
どんぶりによそったら、ゆずコショウをBB弾くらいをおとす。ぐっといいものになる。僕はふーふーいいながら一気にかきこんだ。美味い。オレ、腹減ってたんだなぁ。
この3連休は、酒はやめとこう。ジムも控えよう。折角だから11月のお料理実習の段取りでもしますか。健康的だし。童貞喪失直後だし(笑)




