日本人は異星人に食欲を見出すか?
その日、地球人類は異星人と接触した。正確には向こうから接触してきたというべきか。
しかも異星人は二種類いた。地球人類は、片方のタコ型異星人をオリオン星人、もう片方のヒト型異星人をケフェウス人類と名付ける。
最初は友好的な関係を築くため、国連の象徴の一つである水色の旗と、国連加盟国の色とりどりな国旗を並べ、地球人類は歓迎した。
しかし、それが何かの逆鱗に触れたのか、二つの異星人たちは地球に対して攻撃を開始する。
ここに、地球人類と異星人による戦争が勃発した。
それから数ヶ月が経過する。地球人類は、異星人の攻撃に拮抗していた。
そしてそのような状態になれば、やることは一つ。異星人の解剖である。当初は動物愛護団体や人権保護団体から反対の声が上がっていたが、敵を知らなければ対処法が見つからないとアメリカ大統領が発言したことがきっかけで、先進国やインド、中国などで解剖が開始された。
そして、とある重要な情報が公表された。
『オリオン星人とケフェウス人類は、イカの味に似ている可能性がある』
簡易的な検査によれば、オリオン星人の体にはビタミン類が多く含まれており、成分だけ見ればイカの味がするだろうとのことである。
これに目をつけたのが、世界でも名高い悪食民族の日本人である。事ある事にSNSで話題になるほど、その偏食ぶりが分かるだろう。これは決して人種差別の類いではない。
さて、そんな日本国民は反応した。
「ならば、実際に食わせてくれ」
成分だけで見るのはおこがましいにも程がある。なので試食をして、その味を確かめると言うのだ。
だが、これは実に危険な行為でもある。相手は地球外生命体だ。未知の病原菌を保有しているかもしれない。
なのでまずは、モルモットやラットに与えることにした。これで何かしらの反応が出なければ、次はサルに与えることになる。
幸い、げっ歯類での経過観察は問題なかった。
続いてサルに与える。こちらも数ヶ月間摂取させたが、問題はないようだ。
こうして、有志によって集められた一般人に実食させる時が来る。色々考慮した結果、被験者は向こう一年間、身体の異常がないかを調べるために専用の閉鎖病棟にて生活することになった。もしここで未知の感染症が発生しても、世界中に撒き散らさないようにする処置である。
そして実食。影響が出ないとされる量を提供したため、本物のイカの刺身一切れ分のみだ。
結論から言えば、イカ風味の肉を食べているようだという。とある被験者からは、「合成肉をイカ風味にすれば、こんな感じだろう」という意見が出る。
これにより、情報は半分正しかったと結論付けられた。
それから約一ヶ月後。突如として、被験者たちは一斉に苦しみだしたのである。考えられる原因は一つしかないだろう。
その後、いくつかの検査を受けて、ある事実が判明した。人間の体では、異星人の肉を消化することは出来ないということだ。
どういうことだろうか。同時期に判明した事実として、オリオン星人とケフェウス人類のDNAは、地球生命体と異なって左巻きになっていたという。これが厄介な問題を引き起こしていたのだ。
地球人類を含めた食物連鎖は、極論を言えば共通の祖先を持っているからこそ成り立っている。肉体の組成が似ているからこそ、地球生命体の草食動物は植物を食べてエネルギーにでき、草食動物を食べる肉食動物もエネルギーに変換できる。
ではここで、起源が全く異なる生命体を体内に投入してみよう。すると、体内では防衛反応である免疫すら機能せず、異質なものを体内に閉じ込め続けることになる。もし頑張って消化しようにも、体が吸収できるようになるまでは時間がかかる。それが被験者の苦しみや痛みとして認知されたのである。
こうなるともはや、手の付けようがない。研究者たちは仕方なく、薬物中毒者に行われる胃洗浄を被験者に行うことにした。
こうして、物好きたちによる大層な試食会は、残念な結果となって終わったのだった。
だが、これで終わるわけではなかった。被験者たちの胃には、ある生物が残っていたのだ。
それは、体長三ミリメートルほどの寄生虫のような生物である。この生物は、強力な酸を出して物質を溶解させ、それを摂取することで生命活動を維持する生き物だ。酸として溶解するならば、たとえDNAの問題があったとしても関係ないほどまで溶かせば、栄養として取り込むことが出来る。
そして厄介なことに、この生物は単為生殖するという特徴を持つ。放置すれば、無制限に繁殖を繰り返し、やがて寄生した宿主丸ごと溶解してしまうだろう。
地球人類がこのことに気が付くのは約十六ヶ月後のことであり、それから半年後に地球全域にこの寄生虫が広まって、地球生命体は絶滅するのだった。