4.薬草採取と魔物との遭遇
宿を取ったリクは、翌朝になると採取のクエストを受注した。
お目当ての薬草は城壁の外に生えているらしい。
リクは草原に足を踏み入れた。柔らかな風が吹き抜け、遠くには緩やかな丘陵が続いている。
昨日のギルドで教わった薬草の場所を思い出しながら、リクは地面に目を凝らしていた。
「これが…ネムネム草か?」
手元には青い花を咲かせた草がある。それを丁寧に摘み取り、薬草採取用の袋にしまい込む。
採取クエストは予想以上に順調だったが、肝心の「魔物」と呼ばれる機械生物はまだ見当たらない。
「どこにいるんだろうな、魔物って…」
草原は意外と静かで、時折体を休められる木陰もある。
街の近くともあって、街道も太く立派だ。
リクの想像していたような「危険地帯」という雰囲気はなかった。
気づけば、街からかなり離れた場所にまで来てしまっていた。
ふと、頭上から不気味な音が聞こえた。ブンブンという低い唸り声が風に乗って耳に届く。
「何だ?」
リクが顔を上げると、空を舞う小さな影が目に入った。それは音を立てながらこちらへ向かってくる。
昨日聞いた「羽を持つ魔物」の話が頭をよぎった。
(あれが…ドローンか?)
よく見ると、それは四つの回転翼を持った小型ドローンだった。
鋭いプロペラの音が耳に痛いほど響き、ドローンは蛇のような動きでリクの周囲を飛び回っている。
「うわっ!」
突然、ドローンが急降下してきた。
まるでリクの顔面を狙うかのような動きだ。
リクはとっさに身をかがめたが、ドローンはさらに鋭く迫ってくる。
(まずい、これ、ぶつかる…!)
その瞬間、空気を裂くような音がした。
矢が飛び、ドローンの胴体に直撃する。
金属の響きとともにドローンは制御を失い、地面に激突した。
「大丈夫!?」
声がして振り向くと、そこにはフラーカが立っていた。
彼女はリクを心配そうに見つめながら、弓を手にしている。
「フラーカさん!助けてくれてありがとう!」
「こんなところで何してるの?街から随分離れてるじゃない」
リクは薬草採取をしていたことを説明したが、フラーカはため息をついた。
「危ないわね。街の外は油断できないのよ」
彼女は弓をしまい、墜落したドローンに近づいた。
リクも興味津々でその後に続く。
ドローンは地面に横たわっていた。
二人は草原に馴染まない光沢を持つ物体に目を凝らしながら、恐る恐る近づいた。
「これが…魔物?」
「ずいぶんと硬そうね…初めて見るタイプの魔物だわ」
フラーカは弓を背中に背負いながらドローンを見下ろした。
その表情には警戒心が浮かんでいる。
「フラーカさんは冒険者だけど魔物とはあまり戦わないの?」
「…そうね、私は護衛とか、何でも屋みたいなクエストを請け負うことのほうが多いわ。字が読めるといろいろ重宝されるし、『冒険』っぽくないクエストもたくさんあるのよ。」
フラーカは少し黙ってから再び口を開いた。
「あとね、私は隣町の神父の娘なのよ。訳あって家を飛び出して冒険者をしてるけど…家では魔物は穢れているから触るなとか、うるさく言われていたわ。実際には、役人に目をつけられるとか、そういったデメリットもあるらしいけど」
リクはしゃがみ込み、ドローンの胴体を注意深く観察する。
表面には金属のような冷たい質感があり、内部には歯車や小さな部品が見える。
(生き物というより…機械に見えるな)
リクの視線がドローンの前面にある小さなレンズ状の部分に止まった。
それはまるでカメラのように見えた。
割れたレンズを指でそっと触れながら、リクの心には不安が広がっていく。
(これは…ただの魔物じゃない。これで街やその周囲を見ていたんじゃないのか?)
「父さんが言ってた……魔物は堕落を広めるだけだって」
不安そうな顔をしてそうつぶやくフラーカに説明するには、どう言えばいいのか分からない。
この世界の人々にとって、「魔物」はあくまで異常な存在であり、機械的なものだという概念はおそらくない。
「リック、気をつけて。その魔物、まだ動くかもしれないわ」
フラーカは緊張した面持ちで言う。
リクは曖昧に頷きながら、ドローンの正体について考えを巡らせた。
「…あんまり触らないほうがいいわね。とりあえず、街に戻りましょう」
フラーカはそう言ってリクを促した。
リクは名残惜しそうにドローンを見つめながら立ち上がり、フラーカの後について歩き出す。
(このドローン、誰かが作ったものだ。それに、わざわざこんなところで飛ばしていた理由もあるはずだ…)
彼は胸の内に疑問を抱えながらも、街へ戻る道中、機械仕掛けの「魔物」の真相に迫る必要性を強く感じていた。