2.初めての街とお約束
村を出てしばらく歩き、隣の村で乗合馬車に乗ってから二日目。
リクは目の前に広がる街を見て息をのんだ。
村と比べ、街はまるで別世界のようににぎやかだった。
簡単だが石の壁が設置されており、城壁都市のようだ。道中では遭遇しなかったが、やはり魔物を警戒しているのだろうか。
石畳の通りには行き交う馬車、軒を連ねる店、道端で声を張り上げる商人たち。
あまりの人混みに、リクは呆然と立ち尽くした。
「これが街…!すごいな…」
しかし感動している時間はない。リクには目標がある。
冒険者ギルドに行き、冒険者としての第一歩を踏み出すことだ。
リクは通りがかりの露店で串焼きを買って道を尋ね、ようやく冒険者ギルドにたどり着いた。木造の建物の扉を押し開けると、中はさらに賑やかだった。
武器を携えた男や女が酒を飲み、大声で笑っている。
受付の女性がリクを見るなりにっこり微笑んだ。
「冒険者登録ですか?」
「はい、お願いします!」
子どもだからか、心なしか対応が優しい。
リクは差し出された紙に名前や年齢を記入した。
しかしその間、彼をじっと見つめる視線があった。
リクが振り返ると、もじゃもじゃの頭髪と髭が一体化した、小汚い格好の男が近づいてきた。
「おい坊主、冒険者になりたいのか?ヒョロガキが無理するんじゃねえよ」
男はからかうようにリクを見下ろす。
その背後では、取り巻きの男たちがニヤニヤ笑っていた。
ダメだな…お約束だから楽勝だと思ってたけど、9歳の自分からするとデカすぎて手も足も出なさそうだ…。
「こいつスラスラ字を書いてやがったな。『お小遣い』たんまり持ってんじゃねえの?」
「……」
「おやおや、そんな小さな体じゃ、魔物に食われちまうのがオチだぜ?」
男がリクの肩を掴もうとしたその瞬間、鋭い声が響いた。
「やめなさい、ティグ。あんたが新人をいびるのはいつものことだけど、子供相手にやるなんて見っともないわね」
声の主は若い女性だった。
背の高いスラリとした体つきに、革製の冒険者装備が似合っている。弓と、大きな鞄を持っているけど、あれも装備だろうか?
亜麻色の髪をポニーテールにまとめた彼女は、堂々とした態度で男たちを睨みつけていた。
「ちっ…フラーカかよ。つまんねえやつだな。行くぞ、お前ら」
男たちは舌打ちをして立ち去った。リクはホッと息をつき、女性に頭を下げた。
「助けてくれてありがとうございます!」
「気にしないで。あんなの相手にしてたらキリがないわ。それより、あなた初心者ね?」
彼女はにっこり微笑むと、自己紹介をした。
村の人たちより身なりが断然整ってるし、なんならいい匂いまでしそうだ…。
「私はフラーカ、17歳よ。この街で冒険者をしてるの。とは言っても1年ちょっとだから、まだまだベテランじゃないけど、よろしくね」
「リックです!9歳になりました。ここから2日くらいの村から来たんですけど、右も左もわからないので助かりました。」
「あら、ずいぶんお行儀がいいのね。ああいう輩も多いから、気を抜かないようにね!」
フラーカは颯爽と去っていき、その後、受付嬢がギルドの基本的なことを教えてくれた。
ランクはFが初心者で、E、D、C、B、Aと進んでいき、Sが最高ランクだ。
次のランクに進むには昇格試験に合格する必要があるらしい。
とはいえ今はFランクなので、受注できるクエストも採集が中心だ。ほとんど獣と変わらないごく小さな魔物の討伐も受けることができる。
ちょうど夕方に初心者講習があり、基本的な薬草の種類や魔物の解体方法などを教えてもらえるようだ。