19.懐疑と暴動
街は激変していた。
教会や貴族の威光は、群衆の抗議と混乱によって徐々に崩れつつあった。
人々は研究所から持ち出された技術を目の当たりにし、そこに隠されていた可能性を知った。
だが、それは同時に街を分断する火種にもなっていた。
広場では、リクたちが設置した簡易的な発電機の周りに人々が集まっていた。
発電機は小さなランプを点灯させ、いくつかの歯車仕掛けの装置を動かしていた。
それはまるで魔法のように人々を魅了したが、同時に恐怖を抱かせる者もいた。
「これが本当に俺たちの役に立つっていうのか?」
「貴族や教会が隠してた技術だぞ。罠なんじゃないか?」
一方で、技術の力を歓迎する声も大きくなっていた。
「これがあれば水を汲むのに毎日何時間もかける必要がなくなるんだろ?」
「村でも使えるなら、俺たちの暮らしも楽になるじゃないか!」
人々の間に技術を受け入れるべきか否かの議論が広がっていた。
それは単なる意見の衝突ではなく、生活や価値観の根本を揺るがす対立となりつつあった。
シビウは広場に忍び込み、端からその様子を見守っていた。
かつて、この街で彼が試みた改革は失敗に終わった。
技術の真実を伝えようとした彼の訴えは、無視され、教会の圧力によって追放された。
だが今、街の中心で人々が自らの意思で議論を交わし始めている光景を目の当たりにしている。
シビウは言葉にならない感慨を抱いていた。
「俺ひとりでやろうとしたときは、すべてが壁にぶつかって終わった。」シビウは静かに呟いた。
隣に立つリクが振り向く。「でも今は、俺たちがいる。」
シビウは小さく笑った。「ああ、そうだな。俺一人では何も変えられなかった。でもお前たちが加わったことで、この街に変化が生まれた。俺が夢見たものが、今、形になり始めている。」
フラーカが口を開く。「それでも、これからが本当の試練よ。技術を受け入れる人々が増えれば増えるほど、教会や貴族の反発も激しくなる。」
「わかってる。」シビウは力強く頷いた。
「だが俺は、今度こそ逃げない。この街で、人々が自分たちの未来を選べるようにする。それが、俺の役目だ。」
広場の議論は徐々に激しさを増していた。
「こんなものを使ったら、神の怒りを買う!」年配の男性が声を荒げた。
「それは教会が言ってただけだろう!」若い女性が言い返す。「本当にそうだって証拠はどこにあるの?」
「証拠だって? 教会が俺たちを守ってきた歴史が証拠だ!」
そのやり取りを見つめていたリクは、言葉を選びながら前に出た。
「確かに、技術は新しいものだ。俺たちの誰もが、これが未来にどんな影響を与えるのかを完全にはわかっていない。だが、こう考えてほしい。俺たちの生活を楽にするものがあるのに、それを恐れる理由は何だ?」
彼の言葉に、広場は一瞬静まり返った。
「この技術を使うか使わないかを決めるのは、俺たちだ。教会でも貴族でもない。俺たちが未来を選ぶんだ。」
その言葉がきっかけとなり、一部の人々は静かに頷き始めた。
しかし、完全に同意しない者たちもまだ多かった。
その夜、シビウの隠れ家には村からの援軍が到着していた。
ジジが荷車に積み込んだ物資やパンフレットを持ち込み、シモナやミハイも自ら手を動かして人々に技術の実演を行っていた。
「これがリックの言っていた歯車の仕掛けか。」ミハイは感心したように言った。「確かに便利そうだな。」
シモナは人々に発電機の説明をしながら、母親らしい温かさで技術への不安を和らげていた。「大丈夫よ。これは誰かを傷つけるためのものじゃない。私たちの暮らしを助けるためのものなの。」
ジジも陽気な口調で人々を励ました。「怖がることなんてねえよ!俺たちの手で、この街も村も変えられるんだ!」
翌日、リクたちは隠れるのをやめた。
広場で技術を使った公開デモンストレーションを行うのだ。
シビウが作り上げた装置を次々と動かし、発電機で点灯するランプや歯車が回転する様子を見せつけた。
「これが、俺たちの未来だ。」リクが宣言した。
「俺たちは教会や貴族の支配を乗り越え、自分たちの力で新しい時代を作る。」
その言葉に、集まった人々は静かに拍手を送り始めた。
それは小さな波紋のように広がり、次第に大きな歓声へと変わっていった。
シビウはその光景を見つめながら、静かに拳を握りしめた。「ありがとう、リック。お前たちがいなければ、俺はここまで来られなかった。」
リクは微笑んだ。「俺たちみんなで作った未来だよ、シビウ。」
こうして街と村が協力し、技術を解放する戦いは次の段階へと進み始めた。
しかし、教会や貴族の反撃がないはずもない。リクたちは、新たな時代への道を切り開くために、さらなる試練に立ち向かう覚悟を固めていた。
ジジや村人たちの協力によって、教会や貴族の悪行が隣接する街々にも広がっていた。最初は噂程度だったが、次第に具体的な証拠とともに伝播し、多くの民衆が立ち上がり始めた。
教会の威信は崩壊していた。発電機の存在が明るみに出たこと、貴族が技術を独占していたこと、さらには「魔物」として語られてきた存在が実際には機械であり、人間により操作されていた事実――これらが民衆の怒りを煽り、矛先は教会から貴族、そしてついには王室へと向かっていった。
街の広場では群衆が小雨に濡れながらも集結していた。
「技術を返せ!」、「真実を明らかにしろ!」という叫びが夜空に響き渡る。
リク、シビウ、リンディータ、フラーカの4人はその様子を見つめながら、街の一角にある建物で次の手を話し合っていた。
「このままではただの暴動になりかねない。」リンディータが険しい顔で言った。「民衆の怒りは正当だけど、収拾がつかなくなったら犠牲者が出る。」
「けど、今は引けない。」シビウが静かに返した。「これ以上、彼らを裏切るわけにはいかない。」
フラーカはリクの顔を見た。「リック、どうする? 私たちはここまで来たけど、もう後戻りできない。」
リクは拳を握り締めた。「王を引きずり出そう。自らの言葉で真実を語らせるんだ。それがこの国にとっての転換点になる。」
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