18.協力と変革の火種
夜が明けると、村の静寂を破る車輪の音が響いた。
リクが目を覚ますと、村の広場には行商人のジジが荷車を引いて立っていた。
「おやおや、これは驚いた!」ジジは目を丸くし、荷車の上から笑い声をあげた。
「リックじゃないか!ずいぶん立派になったみたいだな。いったい何があった?」
リクは少し照れながらもジジの手を握りしめた。懐かしさが胸に込み上げる。
ジジの荷車には日用品や食料品が積まれているが、それ以上に、彼の陽気な存在が村人たちに希望をもたらしているのがわかった。
「ジジ、助けが必要なんだ。」リクは真剣な顔つきで言った。
「俺たちは教会や貴族が隠している技術の真実を暴こうとしてる。でも、そのためには村のみんなの協力が必要なんだ。」
幸い、この村では教会の影響はさほど強くなかった。
貧しい暮らしをしている村人たちにとって、教会の教えは厳格すぎて実生活とそぐわないことが多かったからだ。
広場に集まった村人たちはリクの話に耳を傾けた。
彼が持参したパンフレットには、教会や貴族が隠している技術がいかに人々の生活を向上させる可能性を秘めているかが簡潔に説明されていた。
「こんな便利なものがあるなら、どうして今まで隠してたんだ?」年配の男性が声を荒げた。
「俺たちはずっと、この手で水を汲み、この足で畑を耕してきたってのに!」
「もしこれが本当なら、教会の言うことなんか信じる必要ないわ。」シモナの隣に立つ女性が呟く。
リクは心を込めて語った。「俺たちの生活を便利にする技術は、俺たちのものだ。教会や貴族に独占されるべきじゃない。それを広めるために、みんなの力を貸してほしい。」
ジジも賛同した。「おいおい、こんな面白い話を聞いて黙ってられるかよ!俺の荷車とツテ、使えるものは何でも使ってくれ!」
一方、街ではすでに混乱が始まっていた。
リクのパンフレットを読んだ人々が、教会に押しかけて真偽を問いただしていたのだ。
「『ハツデンキ』が隠されているって本当なのか!」
「俺たちがこんなに苦労しているのに、教会や貴族だけが豊かさを独占してるなんて許せない!」
群衆の怒りは次第に膨れ上がり、教会の門前は押し寄せる人々で埋め尽くされた。
教会の聖職者たちは対応に追われていたが、彼らの曖昧な説明はかえって疑念を煽るだけだった。
リクたちはこの混乱を利用するべく、新たなパンフレットを街にばらまいた。
ドローンに取り付けた簡易スピーカーがパンフレットを撒きながら、リクの録音した声を響かせた。
「魔法研究所には生活を便利にする道具があふれている。それらはすべて貴族のために使われてきたが、本来は誰もが使えるべきものだ!」
街中に響き渡るその声は、多くの人々を再び煽動した。
次に向かうべき場所として、人々の意識は研究所に向けられた。
群衆が研究所に押しかけると、そこにはリクたちが事前に準備していた技術のデモンストレーションが待っていた。
歯車が連動して動く簡単な装置や、魔石(電池)によって点灯するランプ、そして水を汲み上げる小さなポンプ。
「なんだこれ! 本当にこんなものがあるなんて!」
「これがあれば、あの重労働は必要ないんじゃないか?」
目の前で動く装置を見て、群衆は次々に驚きと怒りの声を上げた。
教会や貴族が技術を独占し、隠していたことが明らかになるにつれて、彼らへの信頼は崩壊していった。
村ではリクの家に集まった人々がパンフレットの配布を手伝い、ジジは荷車を利用して近隣の村々にもリクのメッセージを広める準備を進めていた。
街では教会と貴族への抗議が次第に激化し、技術を取り戻そうとする動きが広がっていた。
群衆は研究所を占拠し、隠されていた道具や資料を次々に持ち出した。
リクは村の高台から街の混乱を見つめながら、小さく息を吐いた。「ここからが本当の勝負だな。」
フラーカがそっと寄り添い、シビウが隣で静かにうなずく。
「今は勢いがあるが、やつらが反撃に出てくるのも時間の問題だ。」
「その時のために準備を進めましょう。」リンディータが言った。「これを一時的な動きで終わらせないために。」
4人の視線は遠くに広がる街の煙を捉えていた。
そこに確かに灯った人々の希望を、絶やさないために。
こうして、村と街の両方で技術の真実が知られ、人々の間に変革の火種が広がり始めた。
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