16.作戦会議と反撃
再びやってきた、城壁の街の外にある一見普通の家。
シビウの隠れ家であるその場所は、外見こそ廃墟然としているが、中は驚くほど整理されている。
机の上には修理を重ねたコピー機、リモコン、扇風機など各種家電が所狭しと並び、壁にはいくつもの設計図や地図が貼られている。
その中央で、リク、リンディータ、フラーカそしてシビウが作戦会議を開いていた。
「シビウ、以前試みたという計画、詳しく教えてくれないか?」
リクの問いに、シビウは苦い顔で頷く。
「失敗したからこそ、こうして追放されているんだが…。簡単に言えば、真実を直接人々に伝えようとした。教会が発電機を隠し、貴族が技術を独占している事実を暴こうとね。でも、人々は恐怖と無知に縛られていた。信仰を疑うことは罪だと教えられ、技術を理解する知識もなかった。」
シビウの声は悔しさに満ちていた。
「それでも、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。」
リンディータが静かに口を開く。「シビウの失敗を教訓に、より効果的な方法を見つけましょう。」
フラーカは黙ってその話を聞いていたが、眉間にしわを寄せ、口を挟んだ。
「そのやり方は理解できる。でも、結局のところ、人々が教会に疑念を持つだけじゃ不十分よ。何か確かな証拠を見せなきゃ、結局『異端』として片付けられるんじゃないの?」
フラーカの指摘は核心を突いていた。彼女は冒険者として現実的な視点を持っており、感情や理想だけでは動かない慎重さがあった。
その反面、かつて教会で培った信仰への複雑な感情が、彼女を縛り付けてもいた。
彼らの目標は、まず教会が隠している真実を人々に伝えることだった。
リクは近くにあった紙に、発電機の仕組みや教会の偽りをイラスト付きで説明し、わかりやすい物語として書き起こした。
「これをパンフレットにしてバラ撒いたらどう?」
「はぁ…本当に驚きよね、私にはサッパリだけど、こんなふうに部品から人の手で作られていたなんて。『魔族』だって、恐ろしい姿形をしてるって思ってたのに…」
シビウはため息をついたフラーカの肩に手を置いて励ました。
「……まあ、それについては慣れてくれ。リックの書いたこの図面や教会と魔物の絵なら、文字が読めない人でも、絵を見るだけで何が言いたいか伝わるだろう。」
フラーカが腕を組んで言った。
「でも、この街には教会を心から信じてる人もいる。彼らはどんなに真実を突きつけられても、そんなもの見たくもないと思うかもしれない。」
「それでもやるしかない。」リクの声には迷いがなかった。「少しでも届く人がいれば、それでいいんだ。」
フラーカはため息をつきながらも、彼の決意にどこか圧倒されるように頷いた。
「でも、どこで配る?街じゅうに配ったら、すぐに教会の目につくでしょ?」
「ドローンはどう?これを空中から撒けば、誰にも見つからずに配布できる。文字通り、教会の頭上に真実を降らせるのよ。」
3人は協力してドローンに改造を施し、パンフレットを搭載できるようにした。正直、リク一人では厳しかっただろう。シビウもリンディータも、寝食を惜しんで協力してくれた。
「……で、こいつが大活躍ってわけだな」
シビウが半目になるのも無理はない。
現在、シビウの隠れ家にあったコピー機はフル稼働でパンフレットを刷っている。その様子は印刷所さながらだ。
「パンフレットが一枚モノだから綴じる手間がないのは助かるが……頼むから、俺たちがやり遂げるまで壊れてくれるなよ」
古びたコピー機をなぞるシビウの手つきはとても優しかった。
夜明け前、静まり返る街の上空を、数台のドローンが飛び回る。
その翼の下から次々とパンフレットが舞い散り、路地や広場、家の前に散らばっていく。
リクたちは城壁の中には入れなかったが、隠れ家近くからその様子を見守っていた。
「やったな。」シビウが静かに呟く。
「これで少しは人々の目が覚めるかもしれない。」リクも同意した。
フラーカが低い声で呟いた。
「……もし、これで本当に人々が立ち上がるなら、それはそれで怖いことだわ。教会や貴族が黙っているとは思えない。」
「だからこそ、次の準備を進めるの。」リンディータは冷静だった。「私たちがいる限り、この戦いを終わらせるわけにはいかない。」
翌日、リクたちは街頭での技術デモンストレーションを始める準備を進めた。
フラーカはリクの隣で、歯車の模型を手に取りながら、口を開いた。
「リク、あんたは私と違って、この国や教会に縛られてない。だから、こうして戦えるのね。でも、私は…」
彼女の声が少し震えていた。「ずっと教会で育てられて、魔物や技術は忌むべきものだと教えられてきた。でも、教会が嘘をついてるのも本当だった。正直言うと、まだ怖いのよ……。」
リクは模型をいじる手を止め、真剣な顔で彼女を見た。
「フラーカ、誰かに信じろって言われたものを信じる必要はない。自分で見たもの、自分で確かめたことだけを信じればいいんだ。」
その言葉に、フラーカは目を伏せながらも小さく頷いた。そして、まっすぐリクを見て言った。
「わかったわ。行く末は自分の目で確かめる。だから、私も協力する。」
ドローンの次なる任務はスピーカーを装備してのプロパガンダだった。
スピーカーを取り付けたドローンが街じゅうを飛び回り、教会の敷地に隠された発電機の存在を告発する。
「教会が『神の奇跡』と称している照明や暖房は、ただの機械で動いている!それを隠して貴族や信者を騙しているんだ!」
スピーカーの声が街のあちこちで響く。
初めは驚いて耳を傾けるだけだった人々も、パンフレットや技術のデモンストレーションを目にするうちに、次第に教会や貴族に疑念を抱き始める。
「教会の地下に向かえ!教会が『穢れ』と言っていた魔物を飼っているぞ!」
信じるかどうかは別だ。ただ、ちょっと確認に行くだけ――心の中でそんな言い訳をしながら、街の人々の足は次第に教会へと向かう。初めは数人、その群れは徐々に数十人、数百人と膨れ上がっていった。
リクたちの活動は瞬く間に街に広がり、教会や貴族側もその存在を察知した。
追っ手を察知したシビウは緊張した表情で言った。
「見ろ、制服の連中のお出ましだ。ここまで来たら、次の手を打つしかないな。」
リンディータは言葉を続ける。
「私たちが見つかるのも時間の問題。リク、次の場所に向かう準備を。」
リクは頷きながらも、心の中にある迷いを振り払うように決意を固めた。
「必ず、真実を解放してみせる。」
シビウの隠れ家を後にするリクたち。次なる行き先は、リクが目覚めた村だった。
「ジジや家族に助けを求めるしかない。」
リクのその言葉に、シビウとリンディータ、フラーカも同意する。果たして、彼らの新たな挑戦は成功するのか。次の戦いの舞台は、リクが最初に戻るべき場所だった。
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