13.脱走と再会
夜の闇が街を包む中、リクは研究機関からそっと抜け出していた。
自作の小型ドローンが発信するシグナルが手元の受信機に表示されている。
リクは手に汗を握りながら、ドローンに託したメッセージが届いていることを祈った。
「これが本当に届いたなら、町外れの廃屋で待ってる。」
そう書いた紙切れがシビウの手元に届いたかどうかは、まだ分からない。
彼の中では、成功と失敗の確率が拮抗していた。
町外れのあばら家はかつて農民の住処だったのか、今は朽ち果て、風に軋む音が響くだけの寂しい場所だった。
リクは震える手でドアノブを押さえ、深呼吸する。
「大丈夫よ」
監視の目をかいくぐり、リクに同行したリンディータがその手をリクに重ねる。
意を決して扉を開けると、そこには懐かしい姿があった。シビウだ。
シンプルなローブを羽織り、手にはリクが設計したドローンを持っている。
一か八かだったが、ドローンは無事、彼の元に届いていた。
「よくやったな、リック。」
シビウの笑顔に、リクは少しほっとした。
廃屋の中は埃っぽく、古びた家具が影を落としている。
リクの顔に緊張が浮かんでいたが、目には決意が宿っていた。
そして、リクの隣に立つ少女──リンディータは腕を組み、眉をひそめながらシビウを見つめていた。
三人が無言のまま目を合わせた後、ようやくシビウが口を開いた。
「随分と懐かしい顔だね。」
彼の視線はリンディータに向けられていた。リンディータはわずかに眉を上げ、腕を組んだまま答えた。
「覚えていたのね。私はもう忘れたと思っていたけど。」
シビウは静かに微笑む。その顔には驚きも戸惑いもなかった。
シビウとリンディータが初めて顔を合わせたのは、シビウが研究機関に在籍していた時のことだった。
彼が内部の技術を調べるふりをして情報収集していた頃、隣の作業室で熱心に機械を調整していたリンディータの姿が目に入った。
彼女は誰にも干渉させない雰囲気を漂わせていたが、その熱量にシビウは興味を抱いた。
「こんな夜更けに、ずいぶんと勤勉だね。」
シビウが声をかけると、リンディータは一瞬だけ手を止めて顔を上げた。
「時間は貴族のためだけにあるわけじゃないもの。」
その言葉には、とげがあったが、シビウには同じ感情を持つ者特有の響きが感じ取れた。彼は小さく笑いながら返す。
「それには同意する。彼らが自分たちの手柄にするための技術ばかりを求めるのは……うんざりする。」
リンディータは彼の言葉に目を細めた。
「……あなた、少しは分かっているみたいね。でも気をつけなさい。余計なことを口にすると、明日には消えているかも。」
「忠告に感謝するよ。」
シビウは肩をすくめた。それ以上、具体的な話には踏み込まず、彼女の装置に視線を向けた。
「それは何のための機械だい?」
「見るだけならご自由に。私の作るものが誰に使われるかまでは、私も制御できないけど。」
そう言ってリンディータは微かに笑った。その笑みの裏には、シビウと同じく、この国の王侯貴族への反感が込められていた。
「あの時、君の言葉に妙な親近感を覚えたものだ。」
廃屋の中で、シビウはその時のことを懐かしそうに語った。
「まさかまた会えるとはね。それもこんな状況で。」
「別に嬉しくないわ。」
リンディータが返す言葉は冷たかったが、その目にはわずかな安堵の色が宿っていた。
「君があの時の少女だったとはね。随分と変わった。」
シビウの言葉に、リンディータは鼻で笑う。「変わったのはあなただけじゃないわ。」
「えっと……知り合いだったんですか?」
リクが不思議そうに尋ねると、リンディータは「知り合いと言うほどでもない」と言いたげに肩をすくめた。
「彼が研究機関にいたのは短い間だったけど、一目で分かる変わり者だったわね。」
彼女の言葉には皮肉が混じっていたが、どこか親しみも感じられた。
「君も変わり者に違いないさ。」
シビウは笑って返す。その穏やかな態度に、リンディータも少しだけ表情を緩めた。
リクが二人を見比べて口を挟む。「えっと……知り合いなんですか?」
シビウとリンディータが初めて顔を合わせたのは、シビウが研究機関に在籍していた時のことだった。
月の明るい晩だった。
彼が内部の技術を調べるふりをして情報収集していた頃、隣の作業室で熱心に機械を調整していたリンディータの姿が目に入った。
彼女は誰にも干渉させない雰囲気を漂わせていたが、その熱量にシビウは興味を抱いた。
「こんな夜更けに、ずいぶんと勤勉だね。」
シビウが声をかけると、リンディータは一瞬だけ手を止めて顔を上げた。
「時間は貴族のためだけにあるわけじゃないもの。」
その言葉には、とげがあったが、シビウには同じ感情を持つ者特有の響きが感じ取れた。彼は小さく笑いながら返す。
「それには同意する。彼らが自分たちの手柄にするための技術ばかりを求めるのは……うんざりする。」
リンディータは彼の言葉に目を細めた。
「……あなた、少しは分かっているみたいね。でも気をつけなさい。余計なことを口にすると、明日には消えているかも。」
「忠告に感謝するよ。」
シビウは肩をすくめた。それ以上、具体的な話には踏み込まず、彼女の装置に視線を向けた。
「それは何のための『技術』だい?」
「見るだけならご自由に。私の作るものが誰に使われるかまでは、私も制御できないけど。」
そう言ってリンディータは微かに笑った。
その笑みの裏には、シビウと同じく、この国の王侯貴族への反感が込められていた。
「あの時、君の言葉に妙な親近感を覚えたものだ。」
廃屋の中で、シビウはその時のことを懐かしそうに語った。
「まさかまた会えるとはね。それもこんな状況で。」
「別に嬉しくないわ。」
リンディータが返す言葉は冷たかったが、その目にはわずかな安堵の色が宿っていた。
テーブルを囲んだ三人は、リクの作ったドローンを見つめながら議論を始めた。
リクはリンディータから聞いた貴族の技術独占の実態をシビウに伝えた。
「リンディータが言ってたんです。研究機関も貴族も、『技術』を独占しているだけだって。僕はそれが許せなくて、ドローンを作って、意見を聞くためにあなたをここに呼んだんです。」
「よくやった。小さな一歩だが、大きな意味を持つ。
リクの言葉に、シビウは頷いた。
「彼らは技術を自分たちの権威を維持するための道具としか見ていない。市井の人々を便利にするという発想はない。」
続いて、リンディータも口を開いた。「私の国から流れてきた技術が、人間の国の貴族によってどれだけ搾取されているか……その実態を知れば、もっと嫌気が差すはずよ。」
シビウはちょっと首を傾げた。「察してはいたが、お前が魔族の国の出身と明言するのは初めてだな。」
リンディータは息を吸い込み、これまでの経緯を語り始めた。
魔族の国を追われた理由、研究機関での待遇、技術を独占する貴族への嫌悪感──そのすべてを包み隠さず話す彼女の姿は、まるで自分の本質を剥き出しにするようだった。
「……そして、あんたらは知り合いってわけね。」
リンディータはリクに視線を向ける。リクは頷きながら口を開いた。
「僕はリンディータの言葉を信じます。魔族の国がどんな場所だったのか、もっと知りたい。」
シビウはひとつ指摘をした。
「魔族の国が人間の国を放置している理由は単純だ。人口が少なすぎるからだ。戦争を仕掛けても勝ち目はない。それに、君たちの国には内なる問題も多いだろう。」
リンディータはその言葉に驚いた表情を見せた。「よく分かるわね。その通りよ。逆に言えば、見逃されているとも言える。すぐには問題がないはずよ」
「問題は、研究機関だ。」
シビウの目が鋭く光る。
「町じゅうにドローンが飛んでいただろう。民を監視しているのは間違いなく研究機関だ。俺は間に合わなかったが、必ずどこかに監視部屋がある。それを突き止める必要がある。」
「どうやって?」
リクが問いかけると、シビウは静かに答えた。
「まずは調査だ。そこに隠された秘密を暴く。それが未来を切り拓く第一歩だ。」
その言葉に、リクとリンディータは互いに目を合わせ、深くうなずいた。
こうして、三人の連携が本格的に動き出すのだった。
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