11.ツンデレと通過儀礼
リクはリンディータの挑発に戸惑いながらも頷いた。
彼女が連れていったのは実験室と呼ばれる大きな部屋だった。
そこには配線がむき出しの機械や、金属部品、工具が整然と並んでいた。
部屋の中央には大きな作業台があり、その上には様々な部品が散らばっている。
リンディータは部品をひとつ手に取ると、テーブルの上に置いた。
「これ、わかる?」
リクは手に取って観察した。小型のモーターだ。巻線が露出し、端子が二つ出ている。リクは慎重に答えた。
「直流モーター……かな? この端子に電圧をかければ回るはず。」
リンディータは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに意地の悪い笑みを浮かべた。
「まあ、それくらいはわかるかもね。じゃあ次!」
彼女が作業台に投げたのは、配線が切断された状態の小型の扇風機と、いくつかの電気部品だった。
「課題はこれ。この扇風機を修理して動かしなさい。使えるのはここにある部品と工具だけよ。」
リクは一瞬部品を見回してから、工具を手に取った。まずは扇風機の内部を確認するためにカバーを外す。中にはモーターと、基板がむき出しになっている。よく見ると、断線した配線が二箇所あることに気づいた。
「なるほど……ここが通電していないのが原因だ。」
リクはハンダゴテを手に取り、断線部分に新しい配線を繋ぎ直す。次に、基板上の抵抗が焦げているのを見つけた。
「これも交換しないと。」
彼は部品の中から適切な値の抵抗を選び、古いものと交換した。
配線のチェックを終えたリクは、バッテリーを取り付けてスイッチを入れた。
扇風機の羽根が滑らかに回り始めた。
「よし、動いた!」
リンディータは腕を組んでリクの作業を見ていたが、驚いた様子を見せないよう努めている。
「ふん、まあそれくらいできるかもね。でも、次はどうかしら。」
彼女が作業台に新しい課題を置いた。
それは小型のLEDランプと、調光スイッチだった。
「このランプの明るさを調整できるように配線してみて。」
リクは部品を確認しながら回路図を頭の中で思い描いた。
「調光スイッチだから、抵抗値を変えてLEDの電流量を調整すればいいはずだ……。」
彼はスイッチの端子をLEDの配線に繋ぎ、バッテリーを取り付ける。
スイッチを回すと、LEDが次第に明るくなったり暗くなったりする。
「これで合ってると思うけど……。」
リクが手を止めると、リンディータは黙ってスイッチを回す。明るさは滑らかに変化した。
「ま、まあまあじゃない。」
リンディータは目をそらしながら、ぶっきらぼうに言った。
しかし、その声にはわずかに焦りが混じっている。
「でも、これくらいで調子に乗らないでよね! まだまだ私の足元にも及ばないんだから!」
リクは苦笑しながら言った。
「でも、君もけっこうすごいよね。こんな部品をどうやって揃えたの?」
「ふん、それは企業秘密よ!」
そっぽを向きながらも、リンディータの耳の先は赤くなっている。
「まあ、少しは役に立ちそうね。せいぜい私の足を引っ張らないようにしなさい。」
どうなることかと思ったが、一応はここで働かせてもらえそうだ。
リクはリンディータの態度に少し戸惑いながらも、彼女がどんな人物なのかもっと知りたいと思うのだった。