1.落雷と異世界
初投稿です。よろしくお願いします。
アスファルトを叩く豪雨。リクは自転車のハンドルを握りながら、自分の運のなさを呪っていた。
「アイスが食べたいくらいで、こんな目に遭うかよ…」
アイスが食べたいと思って自転車で買い物に来たのが運の尽き。
ゲリラ豪雨に襲われたが、コンビニへも家へも10分ほどかかる。
この辺りは廃ゴルフ場をメガソーラーにするとかで、樹木も伐採されているから雨宿りできる場所もない。ゴロゴロと雷の音も聞こえてきた。
「弱ったなあ…すぐ止むだろうし、行くしかないか!」
ペダルに力を込めた瞬間、衝撃が体を貫いた。
「が、あ…あああああ!!!!!」
あまりの痛みに、まるで踏みつけられて肺の中の空気を全部吐き出させられているようで、息ができない。そして、焼けつくような熱さ。そして…
ドカーーン!!バリバリバリ!!!!
耳をつんざくような轟音が聞こえる。
(もしかして、雷に打たれた…?)
体は動かない。
(なんだってこんなこと…)
視界に入った腕は、雨に打たれながら黒く焼け焦げていた。
(夏休みの宿題、やらなくてもよかったな…)
そのうち何もかもが真っ白になり、意識を失った。
青空の下、リクは草原に倒れていた。目の前に小さな村が見える。
「ここは…どこだ?」
立ち上がろうとすると、自分の体が子供のように小さくなっていることに気づいた。
手足も細く、視界が低い。
混乱する中、村の住人が駆け寄ってくる。
「リック!大丈夫か!」
見知らぬ男女が、自分を「リック」と呼び、泣きそうな顔で抱きしめてくる。
服はボロボロで匂いもひどいが、なぜか懐かしさを覚える。
すると、彼の中に「リック」という少年の記憶が湧き上がった。
日本だとリクって名前だったのに、リックになっているのは転生したからなのかな。
たぶん9歳。
目の前の2人はやっぱり母さんと父さんで合ってるみたいだ。
母さんの名前はシモナ、父さんの名前はミハイ。
2人とも馴れ馴れしいとか思って申し訳ない…。
あと、イリウという兄さんがいるはずだ。
「心配したんだよ。イリウがねえ、リックが頭を打って起きないって言うからねえ」
イリウっていうのは僕の兄さんみたいだ。
がっしりしていて大人っぽいが、ばつが悪そうに見える。
そうだ、兄さんと喧嘩して頭を打ったんだ。
「悪かったよ、チビのお前に本気で突っかかったりして」
「いや、もうちっとも痛くないよ。帰ろう、兄さん」
帰ろう、ボロ小屋に…。
リクの新しい生活は厳しかった。食事は黒パンと薄いスープ。
家畜の世話や卵取りも日課だ。
日の出とともに起きて、日没と同時に眠る。
ロウソクだって高いからとあまり使わせてもらえないし、本の一冊もない。
歯も磨かず風呂にも入らない生活に慣れるのは、現代日本から来たリクにとって地獄だった。
「携帯が欲しいなあ…テレビもエアコンも冷蔵庫もないし…俺、本当にここで生きていけるのか?」
しかし、リクの中には現代知識を活かし、異世界を攻略したいという野心が芽生えていた。
そんなある日、村に行商人のジジがやってきた。
この村は小さいのでわざわざ目的地にはなっていない。
もっと離れた街と街の間を行商するついでみたいなものだ。
ジジは貴重な外部情報の持ち主だ!
「ジジさん、魔法って本当にあるんですか?」
「あるさ。ただし、俺は見たことがねえ。王都には魔法を研究する専門家がいるって話だがな」
リクの心が躍る。「魔法」の存在が、この退屈で厳しい生活を変える鍵になる気がした。
「魔物は?」
「おお、坊主もそういうのが気になる年頃か。このへんは普通の獣しかいねえがな、もっと離れると魔物が出ることがある。冒険者が倒しているぞ」
キターーーーー!!!!
「どうやったら冒険者になれるんですか?」
「街のギルドに登録するんだよ。だがな、坊主。冒険者なんて命がけだぞ」
なりたい…冒険者になりたい……!
「ジジさん!!僕を街に連れてってください!!」
「アホぬかせ、家の手伝いはどうすんだ」
けんもほろろだった。父さんに相談するしかないか。トホホ…
リクは冒険者になる決意を固めた。
村での単調な生活に限界を感じていた彼にとって、街へ出ることは希望そのものだった。
「父さん、僕を街へ行かせてくれ!」
父さんは僕が街に行くのに反対らしく話し合いは難航した。そりゃあ農家にとっちゃ子どもだって労働力なんだから手放したくないよな。
そんな話し合いは母さんの一言で終了した。
「あらミハイ…あんたも昔、冒険者になりたいって言ってたじゃない」
暴露された父さんは気まずそうだったけど、その一言で折れ、許してもらえた。
数日分の食料と小銭しか用意してやれないと言われたけど、僕のワガママなんだから仕方ない。
イリウ兄さんが微妙な顔をしていたけど、男手があるんだから大丈夫だよな。兄さんありがとう!
家族に別れを告げ、リクは村を出た。
食料と小銭を持って歩き出す少年の背中は、どこか誇らしげだった。
↓☆評価を入れていただけるとモチベーションになります!ぜひよろしくお願いいたします。