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白馬の武者が放った矢は、関の木柵に深く突き刺さった。これは通常の戦闘用の矢ではない。矢柄が太く、鏃の形状も特殊だった。


「文箭です。」馬子田が声を上げる。


竹良は頷いた。文箭は伝統的な軍事外交の手段だ。矢筒には巻物が収められており、先端の特殊な鏃は、木材に突き刺さった際に容易に抜き取れるよう設計されている。


「回収を。」


文箭は慎重に抜き取られた。鏃は青銅製で、四つの逆刺が付いている。これは貫通を抑え、矢が落下するのを防ぐ工夫だ。矢柄には朱漆が塗られ、三本の白鷹の羽が装着されていた。


巻物には、短い文面が記されていた。


「大海人皇子、天武の世を開かんとす。近江の虐政に苦しむ民を救わん。不破を守る者、速やかに兵を収められよ。」


竹良は巻物を巻き直した。


「返答の用意を。」


応答用の文箭が準備される。これは関の武具庫に常備されているもので、青漆の矢柄に雄鷲の羽を付けたものだ。矢筒には漆塗りが施され、防水性を確保している。


その時、大海人皇子軍の陣形に変化が起きた。騎馬隊が左右に分かれ、その間から歩兵部隊が姿を現した。彼らの装備には、新しい工夫が見られる。


通常の短甲の上に、薄い革の補強具を着けている。これは矢を受け止める際の衝撃を分散させる効果がある。盾は藤製の大型のもので、三人がかりで運ぶ移動式の防御壁として機能する。その背後には、例の長槍部隊が控えていた。


「投石機、準備。」竹良が命じる。


十基の投石機の準備が整う。各機には二人の操作手が配置され、一人が照準を、もう一人が発射を担当する。背後には補助の兵が石弾を運び込む態勢を取っていた。


「竹良殿。」馬子田が報告する。「彼らの長槍、先端に特殊な鉄具を確認。」


竹良は目を凝らした。確かに、長槍の穂先は通常の槍鉋とは異なっている。より幅広で、側面に返しが付いている。これは...


「木柵破りの装置か。」


近江の工匠たちの間でも、同様の装置の開発が進められていた。槍の穂先を木材に突き立て、返しを引っ掛けることで、木柵を破壊することができる。複数の槍で同時に引けば、相当の破壊力となる。


「第三陣形に移行。」竹良の声が響く。「準備が整い次第、返答の文箭を。」


関守兵たちの装備が、素早く切り替えられていく。木柵上部の防御体制から、地上戦闘を想定した配置への移行だ。彼らの短甲の下には、厚手の革甲が着けられている。これは、接近戦での打撃から身を守るための防具である。

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