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朝靄の中、不破関の木柵が薄墨色の空に浮かび上がった。二丈の高さに積み上げられた横材は、楢の幹を四寸角に荒く削り出したもの。縦の支柱には青装束の兵士たちが雑魚寝の後の身支度を整えている姿が見える。


関の両端は険しい山の斜面に食い込むように造られ、中央部の木戸までは三十間の距離があった。板蓋の通路には、夜間の巡回で兵士の足音を増幅させるための細い竹が二寸間隔で敷き詰められている。


「昨夜の雨で竹が鳴りを上げおった。」


監視台で夜を明かした近江の国の下級武官、佐伯竹良は装束の裾を払いながら呟いた。彼の腰には長さ二尺八寸の直刀が下がっている。鞘は黒漆塗りの木製、把には新しい革が巻かれていた。


「大海人皇子の動きは?」


「未だ報せなし。多治見の斥候からも連絡はございませぬ。」


竹良の部下、馬子田が答える。彼は革の草摺を肩に掛けたままだった。夜警の装備を解く暇もなく、夜を明かしたのだろう。


不破関の守備は、近江朝廷から派遣された二百の兵、そして美濃国衙からの百二十の兵によって構成されていた。その大半は徴発された農民であり、戦いの経験など持ち合わせていない。しかし、装備は申し分なかった。


竹良は木柵の上を歩きながら、配下の装備を点検する。革の短甲には鉄の小札を綴じ込んであり、長さ六尺の矛には新しい鉄尖が装着されていた。弓も水牛の角を貼り合わせた本格的な物が支給されている。近江朝廷は、大海人皇子の東国動員を予期していたのだろう。


「竹良殿。」


馬子田が監視台から声を上げた。


「何じゃ?」


「多治見方面から、騎馬の者が一騎。急いでおります。」


竹良は素早く監視台に駆け上がった。確かに、東山道を一騎の馬が駆けてくる。朝靄の中に、白馬の胴が閃いて見えた。

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