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【完結】愛する君と日付の書かれた婚約破棄書 ~信じてほしい、君以外考えられない~  作者: 群青こちか@愛しい婚約者が悪女だなんて~発売中


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パーティから三日後 1

 カトラン家でのパーティから三日が過ぎた。


 あのダンスの後、リュシエンヌがあまりに疲れた顔をしていたので、早めに会場を出て自宅まで送り届けた。

 きっと、緊張の糸が切れたのだろう。馬車に乗ったリュシエンヌは、すぐに眠ってしまった。

 可愛い寝顔を見れた嬉しさよりも、今日までどれだけ張りつめた毎日を送っていたのだろうという思いで、胸がいっぱいになる。

 同時にセレーネのことを思い出し、途端に胸のなかに煙が立ち込めるような息苦しさを覚えた。


 翌日、セレーネのことが気がかりで、開館前に図書館へ立ち寄った。

 司書見習い達の中に、セレーネの姿はなかった。

 彼女が遅刻をするわけがない……そう考えていると、俺の姿を見つけたルルが書架の奥から駆けてきた。


 ルルの話によると『体調が悪いため当分休みます』と、グレイス館長宛てにセレーネから連絡があったそうだ。

 そこまで伝えた後、ルルは気まずそうな顔で質問してきた。


「何があったのかわからないけど、もしかしてセレーネとリュシになにかあった?」


 あの日裏庭で、俺とアレシア、そしてセレーネがいるところに、リュシエンヌと一緒に現れたルル。

 その時は場の雰囲気を咄嗟に読み、ひとりで会場に戻っていったので、どんな揉め事があったのか知らないはずだ。

 それなのに、なぜ、セレーネとリュシエン(ふたり)ヌの事だと思ったのだろう?


 どう答えるべきか迷っていると、ルルが周囲をきょろきょろと見回し、人の少ない場所へ手招きした。

 彼女はとても言いづらそうな表情で、ルドウィクだけの胸にとどめてほしいと、小さな声で話し始めた。

 

「わたし、セレーネから『リュシに意地悪されてる』って聞かされたことがあったの……ふたりは仲が良いでしょ、だから余程の大喧嘩でもしたのかなあって、その時は思ってた」


 ルルは、更に声のトーンを落とした。


「その一週間後くらいかなあ、作業をしていた時、セレーネの足に大きな青あざが出来てるのが見えたの……あまりに痛そうで、どうしたのかって聞いたら……」


 一瞬くちごもり、ルルは小さなため息をついた。


「セレーネは困ったように笑って『リュシに……』って」


 ルルの申し訳なさそうな表情と、予想もしなかった言葉に声をあげそうになる。

 慌てたルルが口に手を当て、しーっと抑えた。


「もちろんわたしだって、リュシがそんなことするわけないってわかってるよ。でも、あまりにセレーネが深刻な顔をするから、喧嘩じゃなかったの? って、わけが分からなくなっちゃって……でもね、その少し後にセレーネから、『あのことは忘れて』って言われたの。余程心配だったのか、何度も『誰にもいってないよね?』って確認されたわ」


 ルルは、とても複雑な表情をしていた。彼女もきっと、胸のどこかに引っかかるものがあったのだろう。

 想像でしかないが、セレーネはルルから誰かに言ってほしかったのかもしれない。

 人の噂というものは不思議なもので、数人の口を伝わると何倍も大きな話になっていることがある。

 

 セレーネは、アレシアにもリュシエンヌのことを悪く話していた。

 アレシアとルル。二人がそれを完全に信じていたら一体どうなっていたのか……。


 落ち込んでしまっているルルに、「二人の間の揉め事は解決した」とだけ伝え、その日は図書館をあとにした。


 ✧✧✧


 リュシエンヌにとって最悪の事態は起こらず、すべてが終わった。

 それなのに、胸の奥ではセレーネのことがまだ重く残っている。

 この目で見て、耳で聞いたはずなのに、まだ信じられない自分がいる。

 あのあと、セレーネを送っていったクリストフは、彼女と何を話したのだろう……。

 

 気づけば、大きな溜息をついていた。軽く伸びをして椅子から立ち上がる。

 もうすぐリュシエンヌが屋敷にやって来る。

 パーティの翌日、セレーネから手紙が届いたと連絡があったのだ。


 すでに部屋の中に甘い香りが漂っていた。

 リュシエンヌの到着に合わせて、ヨハンが何かを焼いているのだろう。

 窓から外を眺めると、、遠くに雨雲が広がり、今にも振り出しそうな空模様になっていた。


「……あっ!」


 薄く曇った灰色の空を見て思い出した。

 あの婚約破棄証明書……どうなっているんだろう。


 もちろん俺の気持ちは何ひとつ変わらない。

 彼女も同じだと思っていたが、パーティの後、何か気が変わったりしてはいないだろうか……?

 急に不安になり、背中がむずむずと落ち着かない。

 部屋の中をうろうろしていると、扉をノックする音が聞こえ、続いてヨハンの声がした。


「坊ちゃま、パーヴァリ家の馬車が到着いたしました。客間へお越しください」

「ありがとう、すぐ行くよ」

「では。私は支度がありますので、これで」


 扉を開けると、ヨハンはにっこりと微笑んで頭を下げ、廊下へと消えていった。

 ヨハンは昨晩から、リュシエンヌが来るというのではりきっている。確かに、いつも美味しそうに食べてくれるあの顔を見ると、嬉しくなってしまうだろう。


 婚約破棄証明書のことを考えながら、重い足取りで部屋の外にでる。

 パーティで見たリュシエンヌの笑顔を思い浮かべ、客間へと足を進めた。


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