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6月28日 カトラン子爵邸 裏庭1

◆ 


「どうしてなんだセレーネ? まさか本当に君だったなんて……」


セレーネはぎこちない笑顔をつくり、俺とアレシアを交互に見ている。

倉庫の黄色い灯りの中、三人の間に重苦しい空気が流れた。 


「右手に持っ……」

「なに? どうしたの二人とも?」


扇子のことを問いただそうとした瞬間、セレーネが目を見開いて、わざとらしいくらいの声をあげた。

その声に驚いたアレシアは、一歩後退り、俺の肩に体が少し触れる。

アレシアの様子を確認したセレーネは、口の端を少しだけあげると、一段と大きな声で話し始めた。


「ねえ今はパーティ中でしょ? アレシアは主役なんだからこんなところ……え? やだ、二人ってもしかして、そういう関係なの? やだ、どうしよう」

「セレーネ、そんなことはどうでもいい」

「どうでもよくないわよ! え? もしかして二人は付き合っているの?」


芝居がかったような早口で、こちらを茶化すように捲くし立ててくる。

友人に対してこのように話すなんて、不自然極まりない言動だ。

焦ってはいるが、心なしか嬉しそうな表情にも見える。


「ねえ、いつからなの?」

「なにを言っているんだセレーネ。それより、君が右手に持っているものを見せてくれ!」

「えっこれ? ここで見つけたのよ。ルドウィクったら怖いわ、どうしたの?」


自分のペースがつかめて来たのか、さっきとは違い、セレーネはやけに堂々とした態度を見せ始めた。


「それは俺達には通用しないよ」

「わたくしも……あなたがホールで扇子を持っているところ見たわ……」


加勢するようにアレシアが小さな声で呟くと、セレーネは唇をぎゅっと結び、眉を顰める。


「気のせいじゃない?」


セレーネは、アレシアの手に扇子を押し付けるようにして渡し、無表情で小屋を出て行こうとした。

しかし、扉の横に俺がいるため、立ち止まざるをえない。

その状況にクスッと笑った後、わざと聞こえるように大きなため息をつき、セレーネは俺の顔を見上げた。


「どうしたのルドウィク」

「話は終わっていないよセレーネ」

「私は話すことは特にないわ? ねえ会場に戻らないの?」


セレーネは、すっかりいつもの口調に戻っていた。

さっきまでの焦った様子も見られない。アレシアに扇子を渡したので、このまま逃げ切れると考えているのだろう。


ここで彼女を行かせてしまうとすべてが台無しになってしまう。

それに、これからまた何が起こるかわからない。

なぜアレシアにリュシエンヌを悪く言っていたのか、その真意がわからないことには、絶対にこの場所から行かせてはいけない。


「セレーネ」

「どうしたのルドウィク? ああ! わかったわリュシね。大丈夫よ、ここでアレシアと会っていたこと内緒にしておいてあげる。安心して!」

「誰もそんなこと言っていないよ。それより、君の口からリュシの名前が出たからちょうどいい、聞きたいことがある」

「なあに?」


一瞬だけ不満そうな表情をしたセレーネが、ちらりとアレシアを見た。

アレシアは、セレーネから全く目を逸らさず、姿勢も崩さない。

その態度を見て後ろめたくなったのか、セレーネは視線をはずし、また俺の顔を見た。

いつもと変わらない褐色の大きな瞳、長い睫毛が震えている。


「なんなのルドウィク?」

「君と俺とリュシの関係についてだ」

「何を急に? 私達幼馴染でしょ、それ以外に何かあるの?」

「そうか……アレシアに話していた事とだいぶ違うようだが?」


俺の問いかけに、セレーネの褐色の瞳はさらに大きく見開いた。

それでも視線を逸らさない瞳の奥には、僅かに苛立ちの色が見える。


「……知らないわ、もういいでしょ、そこ通してよルドウィク」

「それは出来ない。君がどうしてアレシアにリュシエンヌを悪く言っていたのか、理由を聞くまでは」

「……」


一瞬、セレーネの顔がゆがんだ。

そのままぎゅっと唇を結び視線を逸らす。

少し目を伏せたセレーネは、怒りなのか悲しみなのかわからない表情をしている。


「セレーネ」

「もう! リュシのことなんて知らないってば!」


セレーネは大きな声をあげ、思い切り腕を伸ばして俺を押しのけようとした。

しかし、まっすぐに伸ばした腕は、俺の体に触れる前にだらりと落ちてしまう。


「?」


突然、呼吸が止まったかのように動かなくなったセレーネの視線は、俺を通り越し、倉庫の前の道へと注がれていた。

セレーネの顔色が、みるみるうちに白くなっていくのがわかった。


「私がどうかしたの? セレーネ」


背後から、聞きなれた声が聞こえてきた。

その声に振り返ると、そこには困った顔をしたルルと、まっすぐにセレーネを見つめるリュシエンヌが立っていた。

今日の更新はここまで!

明日はいつもより文章長めの12時更新です。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局記憶があるのはリュシエンヌだけだった?! [一言] 図書館の椅子に細工が出来るのだからそこの関係者だろうとは思っていましたが、この感じだとセレーネはずっとルドが好きだったのかな。 …
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