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6月28日 カトラン子爵邸 裏庭1

✦✦✦


「どうしてなんだセレーネ? 本当に君だったなんて」

「えっ……? どうしたの二人とも?」


 セレーネは、俺とアレシアを交互に見ている。

 倉庫の黄色い灯りの中、三人の間に重苦しい空気が流れた。 


「その右手に持っ……」

「あっ!」


 扇子のことを問いただそうとした瞬間、セレーネが目を見開き、わざとらしく声をあげた。

 アレシアは驚いて一歩下がり、肩がかすかに俺に触れる。

 その反応を見たセレーネは、口の端をわずかに上げ、声をさらに大きくした。


「ねえ今はパーティ中でしょ? アレシアは主役なんだから、こんなところ……え? やだ、二人ってもしかして、そういう関係なの?」

「セレーネ、そんなことはどうでもいい」

「どうでもよくないわよ! えっ、付き合ってるの? 二人ってそうなの?」


 芝居がかった早口で、こちらを茶化すようにまくし立てる。

 友人に対してこのように話すなんて、不自然極まりない。

 必死に取り繕おうとする焦りが、声の震えから伝わってくる。

 

「ねえ、いつからなの?」

「なにを言っているんだセレーネ。それより、君が右手に持っているものを見せてくれ!」

「えっこれ? ここで見つけたのよ。ルドウィクったら怖いわ、どうしたの?」


 自分のペースがつかめて来たのか、さっきとは違い、セレーネは開き直ったような態度を見せ始めた。


「それは俺達には通用しないよ」

「わたくしも……あなたがホールで扇子を持っているところ見たの……」


 加勢するようにアレシアが小さな声で呟くと、セレーネは唇をぎゅっと結び、眉を顰める。


「気のせいじゃない?」


 セレーネは、アレシアの手に扇子を押し付けるようにして渡し、倉庫を出ようとした。

 だが、扉の横に俺が立っているため、足が止まる。

 その状況にクスッと笑った後、わざとらしいほど大きなため息をつき、こちらを見上げた。


「どうしたのルドウィク」

「話は終わっていないよセレーネ」

「私は話すことは特にないわ? ねえ会場に戻らないの? それとも二人でここに残るの?」


 セレーネは、すっかりいつもの口調に戻っていた。

 さっきまでの焦った様子も見られない。

 アレシアに扇子を渡したことで、このまま逃げ切れると考えているのだろう。


 ここで彼女を行かせてしまうとすべてが台無しになってしまう。

 アレシアにリュシエンヌの悪口を吹き込んでいた理由……その真意がわからないことには、絶対にこの場所から出すわけにはいかない。


「セレーネ」

「どうしたのルドウィク? ああ! わかったわリュシね。大丈夫よ、ここでアレシアと会っていたこと内緒にしておいてあげる。安心して!」

「誰もそんなこと言っていないよ。それより、君の口からリュシの名前が出たからちょうどいい、聞きたいことがある」

「……なあに?」


 一瞬だけ不満そうな表情をしたセレーネが、ちらりとアレシアを見た。

 アレシアは、セレーネから全く目を逸らさず、姿勢も崩さない。

 その態度を見て後ろめたくなったのか、セレーネは視線をはずし、また俺の顔を見た。

 いつもと変わらない褐色の大きな瞳、長い睫毛が震えている。


「なんなのルドウィク?」

「君と、俺と、リュシの関係についてだ」

「何を急に? 私達幼馴染でしょ、それ以外に何かあるの?」

「そうか……アレシアに話していたこととは、だいぶ違うようだが?」


 俺の問いかけに、セレーネの褐色の瞳がさらに大きく見開いた。

 それでも視線を逸らさない瞳の奥には、僅かに苛立ちの色が見える。


「……知らないわ、もういいでしょ、そこ通してよルドウィク」

「それは出来ない。君がどうしてアレシアにリュシエンヌを悪く言っていたのか、理由を聞くまでは」

「……」


 一瞬、セレーネの顔がゆがんだ。

 ぎゅっと唇を結び、視線を逸らす。

 少し目を伏せ、怒りなのか悲しみなのかわからない表情をしている。


「セレーネ」

「もう! リュシのことなんて知らないってば!」


 セレーネは大きな声をあげ、思い切り腕を伸ばして俺を押しのけようとした。

 しかし、触れる寸前でその動きが止まり、次の瞬間だらりと落ちる。


 「?」


 突然、呼吸が止まったかのように動かなくなったセレーネの視線は、俺を通り越し、倉庫の前の道を見ていた。

 セレーネの顔色が、みるみるうちに白くなっていく。


「私がどうかしたの? セレーネ」


 背後から聞きなれた声がした。

 振り返ると、そこには困った顔をしたルルと、まっすぐセレーネを見つめるリュシエンヌが立っていた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局記憶があるのはリュシエンヌだけだった?! [一言] 図書館の椅子に細工が出来るのだからそこの関係者だろうとは思っていましたが、この感じだとセレーネはずっとルドが好きだったのかな。 …
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