表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】愛する君と日付の書かれた婚約破棄書 ~信じてほしい、君以外考えられない~  作者: 群青こちか@愛しい婚約者が悪女だなんて~発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/41

6月28日 パーティ当日3

 招待客の多さに圧倒されていたが、まだほとんど知った顔に会えていない。

 さっき会ったセレーネとルルも、それきり姿が見えない。

 それほどまでに来場者数が多いのだ。


 リュシエンヌにフルーツを取り分けていると、後ろから楽しそうな笑い声が近づいてくる。

 声はどんどん近づき、2メートルほど離れた道を、若い貴族たちが通り過ぎていく。


 その先頭にいたのは、アレシアだった。

 姿勢を崩さずに歩く彼女の隣には、きゃあきゃあと歓声をあげるラマット伯爵姉妹がいた。

 姉妹がアレシアから何かを受け取り、二人はまた喜びの声をあげる。


 姉妹の手に渡ったものは、あの()()だった。

 アレシアは、ラマット伯爵姉妹に小さく手を振りながらホールに入っていく。

 その先には、カトラン子爵が立っていた。


 すぐ近くでは、ラマット伯爵姉妹がうっとりとした表情でアレシアの扇子を拡げた。

 少し小ぶりな扇子には、あまり見た事がない真っ白な中骨が使われていた。

 あのしっとりとした質感は、白蝶貝でつくられているのだろうか。

 金や宝石の象嵌の細工が見て取れる。

 扇面には透けるほど薄い布が張られており、とても細かい刺繍が施されている。

 要の部分には大きな宝石がはめ込まれているのか、こちらからでもキラキラと光を放っているのがわかった。


 「……すごいな、あれは、芸術品の類のものだ」


 自然とため息が漏れる。女性達からしたらたまらない物だろう。


「本当に、ここからでも素晴らしい物だというのが良くわかるわ。あの扇子折られてしまってたの、信じられないことよ……」

「折られて! そんな、とんでもないことだ!」

「ええ……今回はちゃんと彼女の手元に戻ればいいけど……」


 心配そうな声で呟き、リュシエンヌは扇子を見つている。

 既にラマット姉妹の周りには、数人の女性が集まっていた。

 あれでは、誰が扇子を持っているかなんてすぐにわからなくなってしまう……。

 移動するラマット姉妹と、美しい扇子に導かれるかのように、リュシエンヌと二人で中庭からホールへ入った。


 前回、あの扇子は折られ、リュシエンヌが責められた……。

 それを行った人物は、現在いま、まだ何かしようと考えているのだろうか?

 図書館の椅子を汚したことが、俺にばれたと気づいているのではないか?


 もし、その人物があの扇子を手に入れたとしても、今回は周りの状況が違う。

 リュシエンヌは孤立していないし、俺がそばにいる。

 どうすることもできないのは、きっと相手もわかっているはずだ。

 

 どこかでこの光景を見て、諦めているかもしれない。いや、もしかしたらもうずっと前に……。

 しかし、それが分からないことには、パーティが終わるまで気を抜けない。

 あの扇子が、無事にアレシアの手元へ戻るところをこの目で見届けたい……。

 リュシエンヌも色々なことを思い出しているのか、額に力を入れて不安そうな表情をしていた。


「リュシ、もうすぐダンスが始まるよ」

「ええ……でも……」


 俺の言葉に笑顔を見せたあと、リュシエンヌは視線を泳がせた。

 

「でも? リュシも、やっぱりあの扇子が気になる?」

「ええ……ねえルド、アレシアさんの手元に戻るまで、ダンスはやめない?」

「実は、俺も同じことを考えてたよ」

「よかった」


 ホッとした表情で、リュシエンヌは両手を胸にあてた。

 何が起こるかわからない。

 あの扇子はまだアレシアの手元に戻っていないんだ。

 気にするなというほうが無理だ。


 突然、会場内の演奏が止まった。


 気付くと、会場の中央にカトラン子爵が立っていた。

 注目が集まっていることを確認し、来場者に向かって恭しく頭を下げた。


「ご来場の皆さま。本日は、わたくしの姪、アレシア・カトランの為に大勢の方にお集まりいただき誠に感謝いたします。アレシアは勉学の為この国に来ております。一年程度となりますが、皆さまどうぞ彼女の力となり、そして、仲良くしていただけますようお願いいたします」


 大きな声で満足そうに言い終えると、子爵はまた深々と頭を下げた。

 その隣でアレシアも頭を下げ、美しいカーテシーを披露すると、会場の溜息を誘った。


 二人が顏をあげると同時に、バイオリンの演奏が鳴り響き、ピアノが旋律を奏で始める。

 カトラン子爵がアレシアの手を取り、中央でダンスが始まった。

 周りからは一斉に拍手が起きる。数組のカップルが続けて踊り始めた。


 その時、後ろから誰かに肩を叩かれる。

 振り返ると、いつも以上に洒落た装いのクリストフが立っていた。


「やあクリストフ! いつ来たんだい?」

「少し前だよ。しかし、アレシアのファーストダンスが子爵でよかったな、いい選択だ」


 俺の肩に手をかけたまま、クリストフは中央で踊る二人を見ている。

 自分に言われたわけではないが、リュシエンヌから聞いた前回のことを思い出し、少し居心地が悪く感じた。


 クリストフの言うように、子爵にしたのは正解だ。

 まわりの若い貴族達も、どことなくホッとした表情に見える。

 しかし、こんな空気の中、ファーストダンスを踊ることができた自分に、経験していないこととは言え、厚顔さを感じて恥ずかしくなってしまう。

 そんな俺に気づいたのか、リュシエンヌは目配せをしてくすっと笑った。


「ところでふたりとも、セレーネを見なかったかい?」

「俺達が来た時にはルルと一緒にあのあたりにいたけど、もう結構前になるかな」


 俺が指した方向へ視線を向け、クリストフは会場をぐるりと見渡した。

 長身の彼なら、きっとよく見えているはずだ。


「そうか……もう少し探してみるかな、ありがとう」


 こちらに向き直ったクリストフは、満面の笑顔を見せ、「お似合いのおふたりさん、踊っておいで」と、踊っている人々の流れへ、俺とリュシエンヌを押し出した。


「まあ、どうしましょう」


 周りで踊っている人が身体をかすめていく。

 抱き寄せるようにリュシエンヌの手を引き寄せ、そのまま音楽に合わせてステップを踏んだ。

 クリストフは手を振りながら、人混みの中へあっという間に消えていった。


「ごめんリュシ。ちゃんと申し込んで踊りたかったよ」

「ううん、かまわないわ。でも扇子が……」


 腕の中で揺られながら、リュシエンヌは落ち着かない様子で周囲をうかがっている。


「リュシ、せっかくだから一曲だけ踊ろう。俺だって君と踊りたくてたまらないんだから」


 そう耳元で囁くと、リュシエンヌは俺の顔を見上げて嬉しそうに微笑んだ。


今日の更新はここまでです。

続きは明日の9時更新!


先が読みたい!と思った方は

ブックマークをいれていただけると嬉しいです♡



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ