表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】愛する君と日付の書かれた婚約破棄書 ~信じてほしい、君以外考えられない~  作者: 群青こちか@愛しい婚約者が悪女だなんて~発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/41

6月28日 パーティ当日2

 

 給仕が忙しそうに、空のグラスを運びながら目の前を通り過ぎていく。


 満開のアーチの中、そこには、鮮やかなオレンジ色の髪を肩から垂らし、まるでティアラのように白い花飾りを付けたアレシアがいた。

 クリーム色のドレスには、髪飾りと同じ白い小花の刺繍と宝石がちりばめられている。


 誰かを探すように、アレシアが人波を見回している。

 一瞬、アレシアと目が合った。

 そのまま彼女の視線はリュシエンヌに移り、何事もなかったかのように別の方向を向いた。


 横にいるリュシエンヌは、今の彼女に気づいただろうか。

 一緒に歩いていた足が、少しだけ止まっている。


「リュシ? どうかした」

「彼女……アレシアが扇子を手に持ってる……」

「それって、あの……?」


 リュシエンヌは無言のまま、小さく頷いた。

 俯いたまましばらく考え込んでいるので、一旦アーチの傍から離れることにした。


 植え込みの近くのテーブルにリュシエンヌを座らせ、通りがかった給仕に温かい紅茶を頼む。

 運ばれてきた紅茶を一口飲んだ彼女は、小さなため息をついた。


「ごめんなさい、驚いちゃって」

「いや、大丈夫だ。前の時は、こんなに早くから扇子は持っていなかった?」

「確か……いえ、わからないかも……」

「わからない?」


 俺の問いかけに頷いて、リュシエンヌは少し眉を下げて笑った。

 もう一度紅茶に口をつけると、次から次へと人が集まるキングサリのアーチを見て、目を細めた。


「前回は私、挨拶していないの……あなたと彼女が一緒にいて楽しそうにしてたから、近づくことができなかった」

「……すまない」

「今のルドが謝ることじゃないわよ」

「それでも、謝りたい気分なんだ」

「ふふふ、ありがとう。だから、もしかしたら最初から持ってたのかもしれないわ。でも、私が見たのはこの後よ」

「この後?」

「そう。今から30分もすればダンスが始まるの」


 リュシエンヌは、中庭に向かって開かれたガラス扉へ目をやった。

 その奥はダンスホールになっており、ここからでもわかるくらい豪華な飾りつけがされている。


「ダンスか……」

「ええ。ダンスが始まってから、扇子が色々な人の手に渡り始めたの……」

「その間アレシアは?」

「ずっと踊ってたわ。だってお相手が途切れないの。ま、最初はあなただったけどね」


 少しだけ眉をあげ、笑いながらリュシエンヌは俺の顔を見た。


「あーもう! 俺って最悪だな」

「ええ、本当に!」


 リュシエンヌは力を込めて言うと、すぐに吹き出した。

 つられて一緒に笑ってしまうが、実際は笑い事どころではない。

 婚約者を放っておいて、この国に来たばかりのアレシアにべったりだなんて……俺が友人なら見ていられなかっただろう。

 そういえば、他の友人達は、どうして誰もリュシエンヌに声を掛けなかったのか。


「リュシ、俺……」

「あーまた謝ろうとしてる、もう本当にいいの。私はいま、新しい毎日を楽しんでる。たまに本当はもう死んでいて、この楽しい日が夢なのかって思う時もあるけど……」


 飲んでいた紅茶のカップをテーブルに置き、俺の手にそっと触れた。


「こうやってルドの温かさを感じると、現実なんだって実感するの。今日はいつもより緊張してるけど、あなたがいるから大丈夫よ」


 灰青色の瞳がまっすぐに俺を見つめている。

 長い睫毛がゆっくり瞬きをし、優しい声と手の温もりが伝わってくる。


「好きだ」

「えっ」

「リュシ、大好きだ!」

「もう!」


 顔を真っ赤にして、離れようとするリュシエンヌの手を、しっかりと掴みなおした。

 パーティなんてどうでもいい。胸が苦しくなるほど、ただ彼女を好きでたまらない。

 

 庭園に風が吹き、キングサリの香りがここまで漂ってくる。

 その香りに、ふと我に返る。

 

 とりあえず、今アレシアに挨拶に行くのははやめておこう。

 扇子がこの場にある以上は、何があるかわからない……。


「リュシ、少しここから離れないか?」

「でも、挨拶しなくちゃいけないんでしょ」

「そうだけど、今は扇子を持ってるし……とりあえず離れよう」

「わかった。じゃあ、何か食べましょ」


 二人でアーチに背を向け、手を繋いだままたくさんの食事が並べられたテーブルに向かった。

 銀のトレーに並べられているフィンガーフードの種類は圧倒的だった。

 普段は食べることのない食材や、この時期には珍しい色鮮やかなフルーツ。

 一見して華やかで食欲をかき立てられる。

 これはあきらかに、カトラン子爵家だけではなく、我が国の王妃が可愛い姪の為に手配したものだ。


「ねえルド。まるでお姫様の宝石箱を覗いてるみたいね。食べるのがもったいないくらい綺麗」

「ちょっとやりすぎかなとは思うけどね」


 リュシエンヌの耳元で囁くと、もう一度テーブルの上の食事を見渡した彼女は、フフッと笑って小さく肩をあげた。


 来場者たちのおしゃべりが明るく響き、皆がこのパーティを楽しみ、アレシアを歓迎しているのがよくわかる。

 女性達はもちろんのこと、いつも以上に男性達の装いに力が入っていた。


 会場内で演奏をしていた弦楽器奏者たちが、楽譜を入れ替え、何かの準備をし始めた。

 バイオリン奏者が増え、ピアノ奏者も飲み物を口に運び、喉を潤している。


 この雰囲気は、きっともうすぐダンスが始まるのだろう。

 そんなことを考えていると、一気に若い貴族たちが会場に入り始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ