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6月12日 案内状1

 裏口から数分もかからず、図書館正面に着いた。

 昼食時にしては利用者が多く感じるが、館内はとても静かだ。


 教会の集会係の少年が目に入った。

 小さな足で廊下を行ったり来たりしている。

 耳の上で切り揃えられた髪が揺れ、両手に何かを抱えてちらちらと受付を気にしている。

 きっと、案内状の手伝いを頼みたくて、声をかけるタイミングをうかがっているのだろう。


 集会係の様子を気にかけながら廊下を進んでいると、やはり、いつもと雰囲気が違うことに気づいた。

 見た事のある顔が何人もいる、しかも男ばかりだ……。

 時計の針は13時を過ぎたばかり、なぜこんな時間に?


 受付を見ると、さっきの小さな集会係がセレーネに何かを伝えている。

 セレーネは一瞬真剣な顔で聞き入っていたが、やがてにっこりと笑い、男の子の頭を優しく撫でた。

 きっと、案内状の多さを伝えられたのだろう。

 そのままセレーネは受付を出て、集会係と一緒にルルの元へ歩いていく。

 ルルも話を聞きながら目を丸くし、くすっと笑ってうんうんと頷いた。

 そして、なぜか三人が一斉に歴史書架の方を見た。


 その瞬間、背中に水を浴びたように寒気が走った。

 視線を追っていくと、そこには大量の書物を積み上げたアレシアが座っていた。


 思わず息を吸い込む。

 なぜだ?

 再度時計を確認するが、間違いなく13時を過ぎている。

 どうしてアレシアがこの時間に? 

 そうだ! リュシエンヌは?


 ぐるりと館内を見渡すが、個別のテーブルに彼女の姿はない。


 ルルと集会係が受付に戻っていくのが見えた。

 セレーネは一人、窓際に向かって真っすぐに歩いていく。

 

 窓際には、作り付けの長いテーブルがある。

 館内に背を向ける形で作られているので、外の光も入り、集中することが出来るため読書する人たちには人気の席だ。

 そこに、一人で読書をするリュシエンヌの後ろ姿があった。

 淡い栗色の髪が、外の光に透けて輝いている。

 

 きっと、アレシアがいることに驚いてあの席にいるのだろう。

 思ってもいない状況に焦っているはずだ。俺が来たことにも気づいていないかもしれない。

 セレーネの後を追い、急いで窓際に向かった。


「やあ」

「あらルドウィク」

「ルド……」


 いつもと同じ華やかな笑顔のセレーネと、少し浮かない表情(かお)のリュシエンヌが同時に振り返った。


「ちょうど良かったわルドウィク。いまリュシにもお願いしてたんだけど、時間ある?」

「全然大丈夫だよ、どうかした?」

「良かった! じゃあふたりとも一緒に来てちょうだい」


 弾むような足取りのセレーネに手を引かれ、気づけば受付の前に立っていた。

 アレシアの姿は見えないが、この位置は彼女から近い。

 嫌な緊張感が体を包む。

 受付では、ルルと教会の集会係の少年が、なにやら作業をしていた。


「やあルル」

「ごきげんようルドウィク」


 ルルに挨拶をしつつ、歴史書架が視界に入らないようリュシエンヌの横へ回り込む。

 作業をしていた集会係の少年は、俺の声に気づいて慌てて席を立った。


「エルネスト様こんにちは。集会係のダネルです」

「やあダネル。何か作業をしているんだろう? 私に構わず続けてくれ」

「はい! ありがとうございます」


 ダネルは切りそろえた髪を耳にかけ、ぺこりと頭を下げると、また何かを数え始めた。

 ルルは微笑みながらそれを見つめている。

 セレーネが受付の中へ入り、重ねられた用紙の一枚を手に取った。

 

「あのね、次のお茶会のことなんだけど、これ見てくれる?」


 手に持っていた用紙をこちらに差し出す。

 それは今月のお茶会の参加者リストで、多くの名前がずらりと並んでいた。


「これがどうかしたのかい?」

「この名簿リストが六枚あるの。今回のお茶会希望者が増えてなんと180人超えよ!」

「ひゃ、ひゃくはちじゅう?」

「まあ……」


 横からリュシエンヌの声が聞こえた。

 たしか前回は150人くらいと言っていた、それでも十分多いのにさらに増えている……。


「とりあえず、今回の会場であるバートン家に100人超えちゃうって手紙書くとこ。たぶんウィルなら問題ない! って言ってくれると思うんだけど……」


 前回張り切っていたというウィルが、何人増えたところで断るわけがない。

 きっと200人を超えても了承するだろう。


「もしかして、案内状が間に合わない?」

「そうなの! いつもは30人くらいで、多くても50人超えなんて無いでしょ? ダネル一人で十分対応出来てたみたいなんだけど……今回の量だと発送までに間に合わないって」

 

 セレーネの横で、ダネルが何度も頷いている。

 案内状は一枚一枚手書きだ、しかもミスをすると書き直しになる。

 こんな大量の案内状、到底一人では無理だ。


「ぼく、こんなことになってると思わなくて……」


 まさか、これほどアレシアに熱を上げている人が多いとは、俺達も思っていなかった。

 噂を聞いて、顔を見てみたいという者もなかにはいるだろう。

 さっきセレーネがこちらに見せた名簿にも、パーティでさえあまり見かけないような名前もあった。

 いったいどこまで噂が流れているのか……。


 ちらりと歴史書架を見ると、アレシアは真剣な顔で読書をしていた。

 彼女がまだここにいることには驚いたが、悪い方に考える必要はない。

 それだけ未来が変わっているということだ。

 あの椅子へのいたずらも、リュシエンヌには全く関係がなく、ただそれをきっかけにアレシアと仲良くなりたい誰かがやったのかもしれない……。


 目の前で、不安そうなダネルがこちらを見つめている。


「ダネル、大丈夫だよ。俺たちで書けば、あっという間に終わるさ」

「ありがとうございます、エルネスト様!」


 ぱあっと顔を明るくしたダネルを、セレーネとルルが優しい目で見ている。

 ルルは名簿の用紙を確認しながら、うんと頷いた。


「リストは6枚あるから、カールを呼んでくるわねえ」

「ありがとうございます、エドワーズ様」


 丁寧に頭を下げるダネルにルルは笑顔で応え、辺りをきょろきょろと見渡すと、棚の整理をしているカールの元へと駆けて行った。

 セレーネはその間に長机の上を片付け、ダネルは案内状用の便箋と筆記具を用意しはじめる。

 そんな二人の様子を、リュシは黙ったまま見つめていた。

 そうっと肩に手を置くと、俺の目を見て困ったような笑顔を見せた。

 少し屈んで、耳元に小さな声で話しかける。


「状況が少し変わっているようだが、これは良い兆しだと思っている。俺がいるから心配しないで」

「うん、ありがとう」


 眉を下げて微笑む姿に、抱きしめたくなってしまうがここは我慢だ。

 手を繋ぐくらいなら……と考えていると、ルルとカールが戻ってきた。


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