6月6日 パーヴァリ家 (リュシエンヌ)
6月6日 パーヴァリ家 リュシエンヌ
ルドから、小さな包みと一緒に手紙が届いた。
昨日も、驚くほどの大きな薔薇の花束と、アレシアに貴重書架を開架するという手紙……内容の9割は恥ずかしくなるくらい愛の言葉だった……が、届いたので二日連続。
これは、たぶん昨日の貴重書架の連絡かな?
一緒に届いた包みからは、爽やかで少し甘い良い香りが漂ってくる。
これは間違いなくヨハンさんから!
包みを開けたい気持ちを我慢しながら、ルドウィクのイニシャルが入った封筒を開いた。
愛するリュシエンヌへ
昨日の手紙で連絡したように、アレシアを貴重書架へ案内した
開館から12時までの間で、特にこれといった会話も問題もなかったよ
ただ、今月18日に茶話会があるという話は前以てしておいた
もちろん案内状の件は考えている、これは君に会った時に話をするつもりだ
やはりアレシアは、平日の午前中必ず図書館にいるようだ
リュシは午後から図書館を利用するようにして、絶対に彼女と接触をしないように
もちろん俺もそのつもりだよ
また貴重書架への案内を頼まれたら、その時はすぐ君にも知らせるから安心してほしい
一日貸し切りの場合は、他に誰かを連れていくつもりだ
10日、アレシアのドレスが汚された日は、開館前に図書館に出向くよ
彼女の座る椅子を確かめて、もし汚れていたら他の椅子に取り換えるつもりだ
あっという間にできる簡単なことだよ
それに、リュシが10日に図書館に行かなければ、君に関係がある事件ではなくなる
君が守られることが俺にとっては一番大事なことだ
で、その後が俺にとっての最重要事項、君とのデートだ‼
ヨハンから聞いたのだが、我が家の檸檬が今年は豊作らしい
日曜にレモンカードを作ると言っていたよ
リュシの好きなタルトやクッキーを作るとヨハンが張り切っていたから
10日の午後は美味しいものを食べながら二人で話をしよう
早くリュシにあいたい、待ち遠しくてたまらない
君を世界で一番大切に思っているルドウィクより
ふぅー。昨日の手紙に比べたら全然大丈夫だったけど、やっぱり読んでるだけで顔が熱くなってしまった。
恥ずかしいのに、頬が痛いくらいくらいにやにやしちゃう。
ルドは、こんなに私を信じて力を尽くしてくれる。
あの雷の日、試すように話をした自分が少しだけ恥ずかしくなる。
でも、あれがあったから信じてくれたのよね……。
手紙を封筒に入れなおし、一緒に届けられた包みをあける。
美しい文字で『リュシエンヌお嬢様へ』と書かれたメモが入っていた。
ヨハンさんの文字は流麗でしなやか。ルドの文字がとても美しいのは、ヨハンさんに習ったからだと聞いた。二人とも芸術的な美しさで、本当に羨ましい。
包みの中には、カミツレに林檎、オレンジの皮やレモングラスが美しく詰め込まれていた。
ドライポプリかと思ってよく見ると、ねじれた茶葉も入っている。
「わ! ヨハンさんのブレンドティーだ! 」
この香りは最高すぎるっ。飲みたいけどもったいないな……あ、そうだ!
ベッドサイドテーブルからガラストレーを取り出し、ハーブティーの中身を少しのせた。
トレーをテーブルの上に置いて、そのまま転がるようにベッドに寝転んだ。
「んんー最高」
大きく息を吸い込んで、ベッドの上でくるりと丸くなる。
アレシアとルド、二人きりの時間があった……でも、手紙に書いてあるとおり何もなかったことを信じる……信じられる。
昨日の午後、図書館に行った時「ルドが来ていたわよ」と、セレーネから聞かされたけど、その続きの話はアレシアのことだった……。
セレーネはアレシアと仲良くなってる。私も前回のこの頃から、どんどん仲良くなっていったんだっけ……。
読書の趣味も似ていて、話しやすくて頭が良くて、信じられないくらい美しくて……良いお友達になれたと思っていたのに……。
ふいに、もう忘れようとしていたはずの、二人が寄り添う姿とルドの激しい罵倒が蘇りそうになった。
慌ててベッドから起き上がり、頭を振る。
あれは、もう終わった事。
今は新しい毎日が始まっている。しかもそれを主導してくれてるのはルド……。
婚約破棄証明書まで書いてくれたんだもの、私がいつまでも囚われてちゃ駄目だわ。
ベッドサイドテーブルに置いたハーブティーの香りが、部屋中に広がっている。
10日はルドの言うように図書館には行かないでおこう。
だって、午後からはエルネスト家でデートがある。ヨハンさんのお菓子も待ってる!
きっと、これから楽しいことばかり、大丈夫。同じ人生にはならない。
私もその為に自分を変えていかなきゃ。
今日の更新はここまでです。
明日は朝夜2回更新、最初は朝の8時です。
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