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それはあまりに突然に②



 クラリスの様子を気にしつつも政務を滞りなく終え、寮へ戻る頃には既に日付が変わってしまっていた。

 彼女に付けた護衛からは問題はなかったと報告を受けていたから会うのは今すぐでもなくてもいい、クラリスももう休んでいるのだからと思い、僕はそのまま男子寮へと戻った。

 そして朝になりいつも通りクラリスを迎えに女子寮の正門に向かうと、約束の時間になっても一向に彼女は姿を現さなかった。


「クラリスに何かあったのだろうか?」

「殿下、私が中の様子を見てまいります」


 そう言い残し傍に控えていた護衛は、女子寮の寮母の元へと向かった。

 昨日付けた護衛からは女子生徒との話が終わり、彼女はすぐに寮に戻ったと確かに報告があった。

 

 (その時も変わった様子はなかったと聞いていたのに……)


 そんな風に考え込んでいる間に女子寮の入り口から護衛が走って戻ってくるのが見えた。

 はやる気持ちを抑え、僕は冷静に護衛に尋ねた。


「クラリスは具合でも悪いのか?」

「……っい、いえ、ハミルトン公爵令嬢は既に学園に向かわれたとの事でした」

「まさか」

「私も不思議に思い何度も確認したのですが、寮にいるご令嬢の部屋付きの侍女にも確認を取り、既に寮から出た後だとの事でした」


 護衛の報告を聞き、僕は言葉を失っていた。

 この二年間、一度だってクラリスと別々に学園に向かった事などない。なのにどうして今日は黙って一人で学園に向かってしまったのか。


 (やはり昨日、何かあったに違いない)

 (クラリスが僕に黙って一人で行動する事なんて一度もなかったじゃないか)


 どうして急に行動を変えたのか理解出来ない僕は、急いで学園へと向かった。


 (もしかして、昨日僕がしつこく口を挟んだから気を悪くしてしまったのかもしれない……)

 (会ってきちんと謝罪しよう)


 クラリスが先に行ってしまった原因が分からない以上直接聞くしかないと思い、僕は学園に着き次第すぐに彼女の姿を探した。しかし教室を確認しても肝心のクラリスの姿はない。

 普段の彼女の行動とはあまりにかけ離れていて、先ほどから嫌な感覚が身体中をかけ巡っていく。

 食堂や聖堂、ありとあらゆる場所を探してもクラリスの姿を確認出来ない僕は、いい知れぬ不安を覚えた。

 そんな時いつもこの時間は静かな筈の中庭に、人だかりが出来ているのが目に入った。

 ゆっくりと近づき、人混みを覗き込むとその目の前の光景に僕は言葉を失った。愛する婚約者は僕以外の男の腕を取り、満面の笑みを浮かべていた。


 (クラリス……?)


 一瞬理解が遅れたが、その意味を正しく理解した途端僕はカッと頭に血が上り、気付いたらクラリスと横にいる男の元へ駆け出していた。


 「っ、クラリス!!」


 名前を呼びながら彼女の腕を掴むと、それまで横の令息の笑いかけていたクラリスがこちらを向く形になり、今日初めて視線が交わった。

 

 (どうして……どうしてそんな目で僕を見るんだ)

 

 振り向いたクラリスの、そのあまりに冷めた瞳に、全身の血の気が引いていくのが分かった。

 昨日まで確かに熱の籠った眼差しで見上げてくれていた瞳も、今は見知らぬ人間に触れられた時相手へ向けるような……酷く冷めた視線を向けられていた。

 クラリスのあまりの態度に一瞬反応が遅れた僕は、はっと我に返りすぐさま彼女の腕を掴みそのまま叫ぶように言葉を発した。

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