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Log.9 【ふたり】


 地球軍の勝利を祝い、敵軍に与した逆賊を裁くという名目で、その軍法会議は開かれた。対象者は俺とネモだ。

 俺の罪状は「南半球の秘匿島において秘密裏にテロ工作を行い、敵勢力を誘導した容疑」。

 軍所属のネモは「生体コンピューターという立場ながら軍の指揮下に入ことを拒否し、更には火器管制能力を利用し軍全体への脅迫を行った」という内容だ。

 護送車の窓からも、軍の失態を隠すためのプロパガンダが大々的に行われていたのが見えた。民衆の不安を上書きするためだろう。

 そのための犠牲が身分もわからないスラムのガキ一人と失敗作のコンピューター一体で済むのだから安上がりだ。

 まるで見世物のように、その様子は多くの傍聴人やメディア関係者を招いて公開されていた。

 判決の時間だ。

『生体コンピューター「ネモ」。連合軍の指揮下に入らず独断行動を取り、加えて軍全体を脅迫した罪ついて、「廃棄」処分とする』

『世界反逆者「ニール」。敵勢力との内通、及び工作活動を行い数多くの死傷者を出した罪について、「死刑」を言い渡す』

 会場全体に、拍手が沸き起こった。誰かが立ち上がったのを合図に、波が伝わるように皆が立ち上がって拍手を続けていた。

 銃を奪われ、両手も塞がった今の俺に、なす術はない。せっかく生き残ったのに、なんとも惨めだ。死刑を言い渡され、ネモも死んでしまう。

 ネモともっと話せばよかった。こいつはもう家族みたいなものだ。

 もう考えるのはやめてしまおうか。そんなことを思い浮かべながら、無駄に高い天井を虚ろに見上げた。その直後だ。

 くい、と。引っ張られた確かな感触。

 後ろ手に拘束された袖を、少女の指先がそっと掴んでいた。

 ため息をつく。息を吐ききったつもりだったが、耐えきれずに吹き出した。

「こんなところで死んでたまるかよ!」

 連行しようとしていた軍士官に頭突きを食らわせる。怯んだ。

 振り返り、ネモを見る。

 少女の見事な上段蹴りが、もう一人の士官の顎を見事に捉えていた。

「私もそう思う」

 合金で作られた強固な手錠の電子ロックが解除され、ごとりと転がった。

 心の底から笑いながら、少女の手を引いて飛び出した。

「逃がすな!撃ち殺せ!」

 激しい剣幕の割には、警備の軍人たちは発砲を躊躇った。民間人とメディアがいるからだ。

 その隙を見逃さず、「極悪人」の俺たちは軍人たちを次々と殴り倒す。

 ネモの案内で、監獄のような建物を迷いなく走り抜けた。

「あはははははっ!!最高だな!」

「私も、気分がいい」

「よっしゃ!このまま逃げるぞ!」

「分かった」

 何も考えず、二人で走る。ただ外へ。自由な世界へ。

「止まれ!」

 両手で拳銃を構えた軍人が、進路を塞ぐように立ちはだかった。

「しゃがんで」

「おうよ」

 頭上を銃弾の風切り音が通り過ぎる。

「右、左、パンチ、今」

「おらあ!」

 ネモの指示に従って弾を避け、拳を打ち込む。軍人の顔にクリーンヒットした拳を開く。軍人が手放した拳銃を手中に収め、指先でくるりと回して握り込む。

 そして最後の扉を、ネモと二人、力任せに蹴り倒した。


 外に出る。待ち構えていたのは軍人ではなく、多数の野次馬と報道陣だ。

「道を空けろ!」

 空に向かって拳銃を二発、三発。待ち構えていた野次馬やメディアが悲鳴とともに作り上げた花道を、ゆうゆうと駆け抜けた。

「行き先はあるの?」

「ない!」

 ネモの問いかけに、全くの本心で応えた。今度はこっちが聞く番だ。

「なあ」

「何?」

「ネモは、どこに行きたい?」

「わからない。でも」

 少女が続ける。



「ニールと、一緒がいい」

 手を引かれて走るコンピューター少女は、口元を綻ばせてそう言った。


  【おわり】


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