「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品シリーズ
ポーカーフェイスな女神
「ああ……どうしよう……」
震えながら呆然と立ち尽くす女の子。
「どうしたの?」
声をかけたのは女子高生風の少女。無表情で冷たい印象はあるものの、声は優しくやわらかい。
「あのねお姉ちゃん、おみくじ引いたんだけど、大凶だったの」
小さな手に乗せられた細長い紙には、たしかに朱文字で大凶と書かれていた。
「気にすること無いよ。これ以上悪いことはない、今が底っていうことだから」
「お父さんがね……お正月に帰って来れますようにってお願いしたの……だから……」
泣き出してしまう女の子。
「もしかして……お父さんは軍人さん?」
こくりと頷く女の子。
「わかった。私は夕那、お姉さんに任せて」
そう言っておみくじを引く夕那。
「くっ……大凶!? どうなっているのこの神社は」
「凶!!」
「末吉!!」
「吉!!」
「中吉!! ふふふ、この流れ……来たわね」
「大凶!! なんでやねん!!」
おみくじを叩きつける夕那。
「お、お姉ちゃん……ありがとう。もう良いよ?」
「駄目、諦めたらそこで終わりだよ。未来は自分の力と意志で掴み取るものなんだから」
「はい、これ。交換してあげる」
おみくじの山を燃やしながら、ようやく出た大吉を手渡す夕那。
「あ、ありがとう夕那お姉ちゃん」
ようやく笑顔が戻った女の子に夕那のポーカーフェイスも崩れる。
「うん。きっとお父さんお正月に帰ってくるよ。あ、そうだ名前聞いても良い?」
「七星未来。じゃあね夕那お姉ちゃん」
手を振りながら駆けてゆく未来。
「さて……年末大掃除といきますか」
『夕那、わかったぞ。よりにもよって新潟連隊所属……戦況を考えたら正月は無理じゃないか?』
「普通ならね。でも私たちなら……行くよエリマッキー」
『マジか……温泉楽しみにしていたのに』
エリマッキーは、最新鋭AI搭載のマフラー型人工生命体識別名『MF109』、夕那の首に巻きつくと、翼のように広がり超音速で新潟へと飛び立つ。
「え? 正月、家に帰れるんですか?」
思わぬ知らせに新潟連隊は歓喜に沸く。
「なんでも『灰色神』が降臨したらしい」
「え……? 『灰色神』ってあの? なんでまたここに?」
『灰色神』は防衛省が誇る最強の秘密兵器、女子高生型戦闘アンドロイド識別番号『YU-NA1107』通称『夕那』、灰色髪の守護神であり破壊の女神。
「さあな? お前も小さい娘が待っているんだろ? さっさと帰る準備するぞ」
「はい!」
「ねえ、せっかくだし温泉入っていこうか」
『信じていたぞ、夕那』