「拝啓 勇者様。キミの最愛の聖女様は、必死に俺の足を舐めてます」
この短編ではタイトル回収されませんので、ご注意?下さい。
「勝手に喚んだのは我々ですが、貴方達は役に立ちません。しかし、穀潰しを食わせる余力は我が国にはありません」
白く光沢のあるローブは見るからに高級そうだ。
「アナタたちには選ぶ権利があります」
両手を広げると袖から覗く手も、白く美しい。
「城仕えの使用人として働くか、出て行くかです」
ローブに負けず艶やかな白い髪。
ほっそりとした顔立ちにキツく見える吊り目。
100人が見たら90人は美人だと答えるだろう。
残りの10人は美人過ぎて怖いと答えるに違いない。
要らないとどストレートに言われた20人ほどの少年少女たちはザワザワしている。
「安寧を取るか、自由を取るか、5分で決めてください」
顔立ちに負けず劣らずキツい声が、キツい声に負けず劣らずキツい調子で言い放たれる。
―――そして、きっかり5分後。
「え!? 僕だけ!?」
手を挙げたまま周りを見渡し、人より離れた目をシロクロさせる。
選択を迫られた28人の生徒のうち、たった1人、【沙色 恋汰】だけが、出て行くという選択をした。
「衛兵! その人は裏の山に捨てて下さい。残った人はあの青い服の人に付いて行って下さい」
「待って! 山に捨てるってなんだよ!?」
大きな鼻の穴を膨らませて不穏な発言に噛み付く。
「うるさいですね!? 忙しいんですよ、私は!!」
しかし、逆に怒られる。
「いや、でも……」
おでこに3本じわを作って萎む。
「いいですか!? 役に立つ能力も無ければ、戸籍すらないんですよ! そんな人間を我々が街にだして、うっかり問題起こしたらどうするんですか!? 責任問題になるんですよ!? 時間がないんですよ! なので山の中で適当になんかに喰われて下さい! それが嫌なら自力で街に辿り着いて下さい! 衛兵! 早くして! 時間が無いから!」
キーキーと捲し立てられると、反論する間もなく、厳つい鎧を着た衛兵が恋汰を掴む。
捕まえる。ではなく、ほんとに掴む。
――ゴン――
「ぐっ!?」
そして、鈍い音ともに、恋汰は気を失った。
◆◆◆◆◆◆
「アンタも色々あったのねぇ」
へえーっと雑な感じで相槌を打たれる。
「なんなんだよ! アイツは!!」
対してバンバンと机を叩くレンタ。
「だから聖女なんでしょ?」
短く揃えた明るい色のクルクルした髪を弄るお姉さん。
「聖女ってもっと人格者であるべきだろ!?」
髪を離してクリクリした目をこっちに向ける。
「人格は関係ないわ。仕事だもの。それも選べないタイプの」
ツルリとキレイな短い爪の指を突きつけられる。
「シアレ教連合軍も魔王軍に押されてるしね。名前忘れたけど、ナントカっていう将軍が負けたんでしょ? 色々忙しいんじゃない?」
褐色の肌が健康的な腕を組む。
「アナタたちだって、それ関係で喚ばれたんでしょうし」
言われてレンタは自分がなぜこんな訳の分からない土地にいるのか思い出す。
受験を控えた高校三年生。
授業を受けてたら、30人のクラスメイト全員が突然この世界に召喚された。
魔王と戦う戦力が必要だったらしい。
召喚された者には、特殊な能力があるらしい。
しかし、その能力がしょぼかった。
なので、捨てられた。
以上である。
改めて思い出しても、理不尽極まりない。
「どんな能力だったの?」
クリクリした目を好奇心で輝かせて聞いてくる。
「う……」
余り言いたくないが、命の恩人を無下にするのもはばかられる。
森に捨てられ、サメみたいな口をしたやたら好戦的なウサギの群れに追いかけ回されている所を、このお姉さんに助けられたのだ。
しかも、この森の中にある小屋に連れて来て貰って、保護までしてもらっている。
「……【Love&Peace】っていうんだ」
意を決して告げるレンタ。
目をぱちぱちされる。
「何それ?」
素直な感想だった。
「何が出来るの?」
そして続く当たり前の疑問。
「……分からないんだ」
「召喚者の特別な能力ってそういうものなの? 使ってみてのお楽しみーみたいに?」
「いや僕だけ変なんだよ。他の人は頭に詳しく説明が浮かぶみたいなんだけど…」
「へー。アナタにはなんて浮かんでるの?」
「『Love&Peace!! YEAH!! Say!! Love&Peace!! Fuuuh!!!』」
頭に浮かぶ説明文を淡々と読み上げる。
「……同情はするけど、………納得だわ」
遠い目をされる。
「ま、それは仕方ないじゃない」
パンと手を叩く。
ニコッと笑う。
ドキッとする。
「それよりも、そろそろ食事にしてもいい?」
「いいんですか!」
お腹がペコペコだったレンタが飛び上がる。
「モチロンよぉ」
ふふっと笑うお姉さんの目が怪しく光る。
しかし、喜んでいるレンタは気づいていない。
「じゃあ……いっただきまーーす!!」
「へ?」
元気よく叫ぶなり、机を飛び越えて、お姉さんが襲いかかる。
開いた口からは鋭い犬歯が覗いている。
レンタを押し倒し、のしかかるお姉さん。
「うわああああ!?痛っ!?」
倒れた拍子に頭を打つレンタ。
「あ、大丈夫?」
馬乗りになったまま心配するお姉さん。
「大丈夫そうね!」
そして、1人で納得する。
「じゃあ改めて、いっただきまーーーす!!」
両手をパンと合わせると、再び大きく口を開いて迫る。
「ぎゃあ、ふごっ!?」
お姉さんの薄い唇がレンタの口を塞ぎ、甘い香りのする舌がレンタの口の中を蹂躙する。
「ふぇ…」
「ふぁっ……」
「ふぃよぉっ……」
「ひゃふぁあ」
お姉さんの舌が踊る度、レンタから変な声が出る。
「はあ! 最高だわ! やっぱり生は別物ね!」
やっと離した顔はすっかり上気している。
「ハアハア…もういいわ! メインディッシュね」
荒い息と共に、レンタの服に手をかける。
「は! あ、待って待って! 待ってーー」
我に返ってお姉さんを止めるレンタ。
「いやよ」
断られた。
「お楽しみの時間よ〜」
いやっほーいとテンションが高い。
「いや、待ってって、待ってー、待ってええ!」
「ん? 何? 服着たままの方がいいの? 意外とマニアックね」
「いや、そうじゃなくて!」
「じゃあ何?」
跨ったまま怪訝な顔する。
「まさかアナタもシアレ教徒なの!?」
そして、青くなる。
「いや、違うよ?」
「あ、良かった」
露骨にホッとする。
「じゃあ問題ないわね」
イソイソと再開する。
「問題だらけ! 問題だらけだよ!」
「何? 初めてで不安なの? 大丈夫。私に任せとけばいいわ!」
「え?ホントに?……じゃなくて!! 何が起こってるの!?」
「………ん?」
難しい顔になるお姉さん。
「あ、しまった!」
パンと手を叩くお姉さん。
「久しぶりで舞い上がり過ぎて全部すっ飛ばしてたわね」
てへっと頭を叩く。
跨ったまま。
「名前はベティ。ホントはもっと長いけど、覚えられないからベティでいいわ。じゃあもういいわね」
再び服に手が伸びる。
「いや、説明になってないよ! 食事じゃないの!? まだ頭から噛み付かれる方が分かるよ」
「……え? あ、そうか! 私、サキュバスなの!」
「はい?」
「何!? もういいでしょ!?」
「いや、サキュバス? サキュバスって?」
「サキュバスよ! サキュバス! 知らないの? エロエロの悪魔。はい、おしまい。いや、むしろ始まり!」
言いながら自分の服をむしり取る。
形のいい胸とおへそ。
「ふおっ!!」
状況はよく分かってないけど、とりあえず嬉しいレンタ。
サキュバスという通り、背中からは黒い小さな羽が、おしりの向こうにはハート型の黒い鱗がついた細いしっぽが見える。
「初めては大切な人に取っときたいタイプ? 大丈夫よ! サキュバスとのセックスなんて蚊に食われたみたいなもんだから。ノーカンよ、ノーカン。 蚊に食われたら痒くなるけど、サキュバスに食われると気持ちよくなるの! お得ね!! てか、もう無理! 無理なのよ!! いっただきまーーーす!!」
とてつもない早口で捲し立てると、レンタの服も剥ぎ取ってしまう。
「あっ! ああああ! おぅ…」
世界は平和だった。
たくさん、褒めてね( ˙꒳˙ )