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97 エスト3 (中編)

 



 傭兵に襲われていたグレトラント侯爵とティアナさんを助けた僕達は、護衛として雇われ王都まで同行することになった。


 魔石の魔力を動力とした魔導車に乗って数日間かけ、港町に到着する。


 そこから空を飛ぶ魔導飛行船に乗り変える。本来王都までの順路は山脈を越えなければならないんだけど、魔導車では山道を進めないし危険だから、魔導飛行船に乗って空の航路で行くらしい。


 魔導飛行船に乗ったのも初めてで、本当にこんな大きな物が飛ぶの? と最初はおっかなかったけど――ソラとフウも凄く恐がっていた――、いざ乗ってみたら楽しくて、貴重な経験をさせてもらって侯爵様に凄く感謝した。


 空の旅を楽しんでいるとあっという間に王都に辿り着く。

 侯爵様とティアナさんとはそこで別れたんだけど、お礼をさせて欲しいと言われて後日屋敷に招待してもらった。


 貴族の作法が分からなくてアタフタしていると、侯爵様に笑われたっけ。そんな僕と違って、ソラとフウの作法はいつもより様になっていて侯爵様に感心されていた。兎に角、楽しいひと時を過ごさせてもらった。


 その他にも、ソラとフウと一緒に王都の街中を観光した。

 クラリスと比べて王都の街中は煌びやかで、僕達は目移りしながら色んな所を見て回る。スターライトを結成してからずっとダンジョン攻略をしてきたから、折角だし羽目を外してもいいよね。


 充分王都を満喫した僕達は、観光気分から気持ちを切り替えてダンジョン攻略を開始したんだけど……。


「流石に王都のダンジョンはレベルが高いね」


「そうね、実力は追いついているけど……」


「モンスターの数が多くて大変です」


 ダンジョン攻略から帰ってきた僕達は、飲食店で反省会を行っていた。

 王都の上級迷宮は思っていた以上にレベルが高く、攻略が難航している。

 その理由は、単純に手が回らないことだろう。モンスターの数が兎に角多くて、戦うのに苦労してしまうんだ。


 魔力の消費も激しい。勿論魔力回復薬(マジックポーション)は使っているけど、あれは多用しても身体に悪いんだ。やはり魔力を回復するには、しっかり休んで自然に回復するのが一番良い。


 さてどうしたもんかと悩んでいると、フウが提案してくる。


「ねぇエスト、パーティーメンバーを増やした方がいんじゃない?」


「メンバーを増やす……かぁ」


 これまでソラとフウと三人でやってこれたけど、流石に三人じゃ限界があるのかもしれない。

 戦力的にも体力的にも仲間の数が多いに越したことはない。というより、パーティーって大体四人か五人だしね。


「ソラはどう思う?」


「私もメンバーを増やした方が良いと思います。王都ここなら、実力ある冒険者が沢山いますし」


「わかった。じゃあ新しい仲間を加えることにしよう」


 という事で、スターライトは四人目の仲間を探すことにした。


 ギルドに行ってソロの冒険者の情報を集めつつ探したけど、中々目ぼしい人が見つからない。

 良さそうな人を見つけても、タイミングが悪いのか今しがたパーティーを組んでしまったと断られたりと上手くいかなかった。


 パーティーメンバーを探しつつ迷宮でレベルアップをする日々が続く中、魔石や素材を換金しようとギルドを訪れた時、思いがけない人物を目にした。


「用は済んだし、一度宿に帰ろうか」


「その後は迷宮に行こうぜ! 身体が滾ってしょうがね~ぜ」


「アテナ……」


 僕の幼馴染であり、僕をスターダストから追放したアテナがそこに居た。

 彼女の周りにはフレイとミリアリアとダルが居て、フレイとミリアリアが口喧嘩をしているようだけど、どこか和気あいあいとしている。


 クラリスで最後に会った時はボロボロで惨めな姿をしており、パーティーが上手く纏まらず堕ちた星などと冒険者達から揶揄されていたのに。


 今のアテナ達からはそんな暗い雰囲気が微塵も窺えない。

 いったい何があったんだ? というより、何でスターダストが王都に居るんだよ。


「エストさん?」


「どうしたのエスト、何かあった?」


「ううん、何でもないよ。行こうか」


 かつての仲間達を見て動揺する僕に、ソラとフウが心配してくる。

 彼女達に問題ないと告げ、僕はアテナ達に声をかけた。最後に会ったあとの時と同じように。


「終わったなら退いてくれる? 邪魔なんだけど」


「ああん? うるせぇこっちは今取り込みちゅ――って、テメエは!?」


「エスト……」


 僕の声に気付いたアテナが振り向くと、僕を見て驚愕する。

 そんな彼女に、僕はついこんな事を言ってしまった。


「相変わらずパーティーが上手くいってなさそうだね、アテナ」


 その言葉は多分、無意識なものだったんだろう。

 パーティーが上手くいっていないと、僕がそう思いたかったんだ。


「エストさん、この人達はお知り合いなんですか?」


「ああ、僕が前にいたパーティーの人達だよ」


 僕の様子がおかしいと思ったのか、ソラが恐る恐る尋ねてくる。

 そっか、ソラとフウはアテナ達と会うのは初めてだっけ。一応、二人にはスターダストの事を伝えてある。足手まといだった僕が追放されたこともね。


 それを聞いた二人は僕に同情しつつスターダストに怒りを抱いていたけど、その後すぐにスターダストに負けないよう頑張ろうって慰めてくれたんだよね。


「それって、エストが話していたスターダストってパーティーよね? じゃあ、この人達がエストを追放したという、薄情者の間抜け共なんだ」


「あっ? おい犬っころ、そりゃどーいう意味だ」


 突然フウが怒り出し、フレイと言い合いを初めてしまう。

 どんどんヒートアップしていく二人の喧嘩に僕はただ聞いているだけだった。フウが僕の為に怒ってくれるのが嬉しかったんだと思う。


 だけどいい加減止めないと、そろそろどっちかが手を出してしまいそうだ。

 フウの肩に手を置いて、胸中で(ありがとう、フウ)と感謝しながら宥める。


「フウもそこまでにしなよ。僕の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、彼女達の考え方も間違ってないからね」


 フウは渋々ながらわかってくれたけど、フレイはアテナが止めても全く拳を引こうとしなかった。噂には聞いていたけど、本当に暴れん坊なんだな。


「「「「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」」」」


(何だ?)


 突然冒険者達が湧き立つように歓声を上げる。

 何事かと振り向いて注目すれば、ギルドに入ってきた二人の冒険者に注目しているようだった。


「イザークだ! 【皇帝】のイザークだよ!」


「隣にいるのは【空魔】のアスタルテか!」


(イザーク? アスタルテ?)


 イザークという人は大人の雰囲気を醸し出した青年で、アスタルテという眼帯をつけた女性は肌が露出した服を身に着けていた。


 誰なんだろう……あの二人は王都にいる強者の冒険者が興奮するほどの人達なんだろうか。

 二人がどんな人物なのか気になっていると、近くに居た冒険者が聞いてもいないのに説明してきた。


「おいお前等、ワールドワンを知らねぇのか?」


「ワールドワンってのは、王都で一番のゴールドランクパーティーのことさ。リーダーのイザークは【皇帝】って二つ名で呼ばれ、世界に数人しか居ない白金プラチナランクなんだぜ」


「「プ、プラチナ!?」」


 冒険者ランクの最高峰であるプラチナ。

 未だ世界に数人しか到達しておらず、全ての冒険者の目標。世界一の冒険者を目指すなら、避けては通れない頂きだ。


 あのイザークという人がプラチナなのか。

 羨望の眼差しで彼を見つめていると、こちらに近付いてくる。換金をしたいのか、譲ってくれないかと頼んでくるイザークさんに僕は咄嗟に「は、はい」と場所を空けた。


 そのまま通るかと思いきや、彼はダルの隣で立ち止まって、


「ダル……? ダルじゃないか!?」


「さぁ、そんな名前は知らねぇな」


「ははは、とぼけるなよ。見た目は随分変わってしまったが、俺がお前の顔を忘れるはずがないだろう。いや~、久しぶりじゃないか。何年ぶりだろうね、暫く合わない内にすっかりおっさんっぽくなったじゃないか」


(ダルと知り合いなのか!?)


 気軽にダルの肩を叩くイザークさん。

 気兼ねのないやり取りから、二人が旧知の仲だと窺える。いったいどんな関係なんだと思っているのは僕だけでなく、この場にいる全ての者の動揺していた。


 そんな中、さっきの冒険者がイザークさんに問いかける。


「な、なぁイザークさんよ。アンタとこいつはいったいどんな関係なんだ?」


「どんな関係って、僕とダルは同じパーティーの仲間だったのさ」


「「はっ?」」


 この場にいる全員が呆然していると、イザークさんはさらに言葉を重ねた。


「というか、ワールドワンを作ったのはダルなんだよ」


「「えええええええええええええええええええええっ!?!?」」


 嘘だろ……ダルとイザークさんが仲間だって事にも驚いたのに、王都一番のパーティーであるワールドワンをダルが作っただって?


(そんな……)


 冒険者達がざわめく中、僕は酷く動揺していた。

 あの飲んだくれのダルがそんな凄い冒険者だったなんて……そんなの聞いてないぞ。

 駄目だ……頭が混乱してきた。


 呆然としていると、ダルとイザークさんの会話が終わったのかスターダストの面々が踵を返した。


「アテナ」


 去って行こうとするアテナを呼び止める。

 何で呼び止めたのか自分でも分からないけど、口が勝手に動き出していた。


「僕はゴールドランクになったぞ。スターライトもだ。僕はもう、君の腰巾着なんかじゃない」


「……そうか、おめでとう。私はまだシルバーランクだ。だが、私もすぐに追いつくよ」


 勝ち気な笑顔を浮かべながら告げたアテナは、待っているダル達のもとに向かった。


(何だよそれ……)


 よくわからないモヤモヤとした感情が心に渦巻いていた。

 何で僕はあんな事を言ってしまったんだろう。まさか今も尚アテナに認めてもらいかったとでもいうのか?


 最後に会った時から、アテナはさらに凛々しくなっていた。

 冒険者としての風格がさらに増している。たった数ヶ月の間に何があったんだ。


「何をしているんだ僕は……」


 現状で満足していちゃ駄目だ。

 立ち止まってなんかいられない。アテナが追い越せない速さで前を歩くんだ。



誤字脱字が多くて申し訳ございません…。

誤字脱字の修正報告、本当に助かってます!

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