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95 フレイ3 (後編)

 



「まぁ、話はざっとこんな感じさね」


「「……」」


 クレーヌからダルの過去を一通り聞いたオレ達は、口を開くことが出来ず黙っていた。


 大変だった……なんて一言じゃ片付けらんねぇ。

 あの野郎がこれまで歩んできた道のりは、オレ達の想像を絶するものだった。


 森の中に捨てられ、モンスターに育てられる。

 けど育ててくれたモンスター(家族)は、冒険者によって殺されちまった。冒険者はダルを救おうとしただけで悪意はねぇから、恨むこともできやしねぇ。


 孤児院に引き取られ、人の温もりを知った。

 けどそれは仮初の温もり。孤児院を運営していたシスターの裏の顔はド汚ねぇ売人。孤児を貴族に売りつけ、金を巻き上げていたクソ野郎だった。


 タチが悪ぃのは、買い手の貴族達もクソったれだらけだったこと。

 売られた孤児が人並みに幸だったら救いはあったが、貴族は孤児を凌辱して壊し、興味が無くなったらゴミのように殺しやがった。


 偶然そのことを知ったガキのダルは、怒りに身を任せてシスターを殺した。

 そりゃ殺すわな。面倒見てくれた姉貴分をオモチャにされて殺されちまったんだ。許せる訳がねぇ。


 シスターを殺した後、ダルは小さな町に辿り着いた。

 ガキの癖に冒険者として生きていくと決意したダルは、冒険者になろうとギルドの門を叩く。


 が、門前払いを喰らって冒険者達に笑われちまう。

 まぁそうだわな。オレだって乳臭ぇガキが冒険者になりてぇなんて抜かしやがったら何言ってんだって馬鹿にするわ。


 けどダルは諦めなかった。

 冒険者としてやっていける力を示そうと考え、一人ダンジョンに入る。しかし待っていたのは現実だった。ゴブリンの群れに殺されそうになっちまったんだが、一人の冒険者に助けられる。


 そいつがダルの師となる、ウルドって男だった。

 スターダストに加わる前のダルのように、一日中飲んだくれている“終わってる奴”のウルドに冒険者としての生き方を教わろうとする。


 何度断られても、何度も頼み込んだ。

 それでやっと師事させてもらう事になったんだが、ウルドは全然教えてくれねぇ。ダルはどうにかしようと一人足掻いた。


 人や本から様々なことを学び、力をつけてウルドを見返した。

 やっとまともに冒険者としての生き方を教えてもらえることになったが、そんなに甘くはねぇ。


 ウルドはダルに自分で考えさせ、『見て覚えろ』と言い続けていた。

 その方が己の血肉となるからってな。


 ダルがオレ達に『見て覚えろ』とクドクド口にしていたのは、ウルドの言葉だったんだな。


 それから時は経ち、ダルは十歳になった。

 身体も大きくなり、冒険者としての生き方も様になった頃、不幸が訪れちまう。


 初級のダンジョンにアースドラゴンが現れた。

 逃げることを許されず、戦うしかない状況に陥ったダルはアースドラゴンに立ち向かった。


 あり得ねぇよな。

 まだ十歳のガキだぜ? 生物としての格が違う竜種に臆さず立ち向かうとか、どんだけ肝が据わってるんだよ。


 オレがダルの立場だったら、立ち向かうなんてできなかっただろう。


 けど、たかが十歳のガキが竜種なんかに勝てる訳がねぇ。

 歯が立たず殺されそうになったところを、ウルドに助けられた。その代償として、ウルドの片腕を持ってかれちまった。


 泣きわめくダルに、ウルドはこう告げた。


『いいか坊主、“これがダンジョンだ”。ダンジョン(ここ)じゃいつ何が起こるかわからねぇ。意図せず理不尽が牙を向いてくるんだ。冒険者になるなら、それをよーく覚えておけ』


 最後にそう教えて、ウルドはダルを逃がす為に囮となった。

 アースドラゴンから逃げ伸びたダルはギルドに向かい、救援を頼んだ。


 アースドラゴンは討伐されたが、ウルドは既に死んじまっていた。


 現場に残っていた剣を渡されウルドの剣を託されたダルは、己に誓う。


『俺は世界一の冒険者になる』


 ウルドが抱いていた世界一の冒険者になるって夢を受け継ぎ、ダルは十歳という若さで冒険者になった。


 それを聞いた時は驚いちまったぜ。

 アテナの壮大な夢でもあるそれを、あの腐ってたダルも抱いていたんだからな。


 さらに時が経ち、ダルは己を高めるために旅に出た。

 旅の途中でアイシアって女と今はプラチナ冒険者になっているイザーク、目の前にいるエルフのクレーヌと出会い仲間になって、オレ達も活動していたクラリスに辿り着く。


 そこでワールドワンっつうパーティーを作り、冒険者としての活動を再開させたんだ。


 飛ぶ鳥を落とす勢いでダンジョンを攻略するワールドワンは、瞬く間にランクを上げてその名を轟かせた。


 さらなる高みを求め、クラリスを出て王都バロンタークへ向かった。

 だが、ワールドワンの栄光は王都で潰えちまう。


 上級ダンジョンの最奥で突如現れた魔神によってパーティーは壊滅。

 このまま全滅しちまうかと思われたが、ダルの恋人でもあるアイシアが自らの命を犠牲にしてダルに力を与えた。


 その力のお蔭で魔神を倒せたんだが、愛した女性を失ったダルは自分を責め、世界一になるという夢を諦めたんだそうだ。


 これまでが、オレ達が会う前のダルの過去。

 まさかダルにこんな過去があるとは思ってもみなかったぜ。

 村でやんちゃやってたオレとは大違いだ。


「ワタシも長く生きてきたけど、あいつ程濃密で険しい道を歩んできた奴はそうそう居ないだろうね」


「(ダルのあの力は、アイシアさんから頂いた力だったんだな……)それでクレーヌさん、ダルはその後どうしたんですか?」


「まず死にそうになったさね」


「「――っ!?」」


「人間が持つ器の大きさは決まっている。己を高めることで多少は大きくできるが、限度ってもんがあるさね。アイシアの魔力を丸々与えられたダルは、器以上の魔力に身体が耐えきれず死を彷徨ったんだ」


「ならどうしたってんだよ」


 どうやって生かしたか聞くと、クレーヌはオレ達に手首を見せながら説明してくる。


「ワタシが造った魔道具の腕輪で、アイシア分の魔力を強引に抑え込んでいるんだよ」


「じゃあ、ダルがいつも着けているあの腕輪って……」


 ミリアリアの問いに、クレーヌは静かに頷いた。

 なるほどな……なんで腕輪なんか着けてんだって思ってたが、そういう事情があったって事か。


「なんとか一命を取り留めたダルは、行き先も言わず一人でどっか行っちまったよ。その後の事は、アンタ達の方が知っているんじゃないかい?」


「そう……ですね」


 そうか……ダルはそれでクラリスに戻ってきたんだな。

 そんで腐ってたところを、アテナからパーティーに誘われて入ったんだ。


「久しぶりにダルの顔を見た時、正直嬉しかったさね。別れる時のあいつの顔は死人同然だったからね。きっと、アンタ達に救われたんだろう。元仲間として礼を言わせておくれよ。ありがとうね」


「いえ……そんな、私達の方こそダルには助けられてばかりです」


「ちょいとね、アンタ達に頼みがあるんだよ」


「頼み……ですか?」


 突然そう言ってくるクレーヌに戸惑っていると、クレーヌは真剣な顔を浮かべて、


「ダルを救ってやって欲しいんだ」


「なにそれ、意味わかんないんだけど」


「アイツがアンタ達に何を言ったのかは分からない。けどね、アイツもアンタ達と離れることを迷っていたんさね。迷うってことは、アンタ達と一緒に居た時間が楽しかったってことなんだろう」


「「……」」


「だからさ、これからもダルを仲間として受け入れてやってくれないかい。ワタシにはもう出来ないけど、アンタ達ならきっとダルと共に歩めるさね。この通りだよ」


 そう言って、深々と頭を下げてくるクレーヌ。

 へっ、アンタに頼まれなくても、こっちは最初からそのつもりだっての。


「顔を上げてください、クレーヌさん。ダルの事は私達に任せてください、ダルとクレーヌさん達が成し得なかった夢を、今度は私達が引き継ぎます」


「まっ、アタシ的にはどっちもいいけど、ダルが居ないと面倒な事をしなくちゃいけないしね」


「連れてくるにしても、まずは詫びとして一発殴らせてもらうけどな」


 オレ達の想いを伝えると、クレーヌは顔を上げて嬉しそうに微笑んだ。


「アンタ達……ありがとう。ダルの事は任せたよ」


「よっしゃ、そうと決まったらさっさとあの野郎を探しに行こうぜ!」


 用事は済んだし、ダルの野郎をとっ捕まえに行こうぜと立ち上がったその時、突然地面が大きく揺れた。


「何だ!?」


「地震か……?」


「いや……これは違うさね」


 地震かと思ったが、揺れは断続的なものだった。

 何が起こっているのかと慌てて店の外に飛び出したオレ達は、信じられない光景を目の当たりにする。


「ギャアギャア!」


「ゴアアアアッ!」


「きゃあ!」


「助けてくれー!!」


「そんな……どうしてモンスターが街中にいるんだ!?」


 王都の街中にモンスターが現れ、暴れ回ってやがった。

 しかも一匹や二匹どころじゃねぇ……めちゃくちゃいやがる。


「おい、何がどうなってんだよ……」



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