09 後悔
「ふぅ……」
「ため息なんて珍しいじゃねえか。なんだ、落ち込んでんのか?」
「少しな……憎まれることは覚悟していたが、実際に体験するとキツいものだよ」
パーティーハウスに帰ってきて、アテナは腰を下ろすと酷く落ち込んでいた。
そりゃそうだよな。
これまで一緒に育ってきた幼馴染に、親の仇でも見るかのような憎しみの眼差しを向けられたらよ。
例えそれが、自分が追放した結果の因果応報だとしてもだ。
それもアテナは別にエストが嫌いなわけじゃねえ。逆にあいつの命を守りたいから追放したんだからよ。
大人ぶっちゃいるが、アテナはまだ冒険者になったばかりの十五歳のガキなのは違いねえ。傷ついたりするのは当然だ。
アテナは俯きながら、ぽつりと弱音を零す。
「私がしたことは間違っていたんじゃないかと……思ってしまうんだ。エストを追放しなければ……エストが強くなるまで待っていれば……私が急いで上に進もうとしなければ……こんな結果にならなかったのではないか、と」
「たらればを言ったらキリがねぇよ。エストを追放しなくても、あいつが強くなっていたとは限らねぇ。パーティーがずっと停滞してたかもしれねぇ。最悪な場合、エストが死んでたかもしれねぇ」
「……」
「人生ってのは選択の日々だ。そんで選ぶからには、後悔も必ず付き纏うもんだろ。大事なのはよ、後悔したとしてもこっちを選んでよかったと堂々と胸を張ることなんじゃねえのか」
うわっ、なんか自分で言ってて臭ぇな。
柄にもなく真面目臭い説教を言ってこっ恥ずかしく思っていると、アテナはほんの少し口角を上げて、
「ふっ……ダル、おっさんぽいぞ」
「ああ……今のは自分でもおっさん臭ぇなと実感したわ。やだね~歳を取るってのはよ」
「いや、ありがとう。元気が出たよ、やはりダルは頼りになるな。後悔と選択か……そうだな、エストを追放したことに後悔していないといえば嘘になるが、私は何度あの時に戻ったとしても同じ選択をしていただろう。考えに考え抜いた結果、それが最善だと信じたからだ」
アテナの顔は明るさを取り戻していた。
やっぱこの女に暗い顔は似合わねぇ。まっすぐ上だけを見ていて欲しいと思う。だからでしゃばっちまうんだよな。
「おい、上がったぞ。アテナも早く入っちまえ」
「うう……なんでこいつはアタシが入ってるのに入ってくるの。狭かった」
「いいじゃねえかよ、オレは早く汗を流したかったんだよ」
「いやお前、服を着ろよ服を」
フレイとミリアリアが同時に風呂から上がる。
どうやらミリアリアが入っている時にフレイが強引に入ってきたらしい。かなりぐったりしている様子だ。ドンマイ。
ミリアリアは男よりも女が好きだ。
フレイは恋愛対象にならないのかと前に一度ミリアリアに聞いたのだが、フレイは見た目が女なだけで性格はガサツな男だから恋愛対象にはならないらしい。
やっぱりアテナが一番だと鼻息を荒くして言ってやがった。
話が逸れたが、風呂から上がってきたフレイは服を着ていなかった。
正確にはパンツしか履いていない。
上に何も羽織っていないから、形が良いおっぱいもちょっと赤い乳首も丸見えだ。
でもなんだろう……本人が堂々としているから全然エロく感じない。
フレイは気に入らなそうな顔で反論してくる。
「んだよ、着てるじゃねぇか」
「パンツだけな。上も着ろよ、丸見えだぞ。恥ずかしくねえのか」
「はっ! 恥ずかしいなんて思うわけねぇだろ! オレはオレより弱い野郎を男と思ったことがねえんだよ」
うわぁ……なんて男らしい痴女なんだ。
ドラゴンヘッドのメンバーも色々大変だったろうな……。ずっとこいつの裸を見せられていたんだろうし。
それとも俺みたいに悟りを開いてたのかもしれないが。
男らしさにヒいていると、フレイはなぜか胸を持ち上げてニヤニヤしながら阿呆なことを聞いてきた。
「それともなにか? テメエもしかしてオレの身体に発情してんのか? 股は開きたくねえけど、なんなら胸くらい揉ましてやろうか? お前は女の胸なんか揉んだことねえだろ。見るからに童貞臭ぇからな」
「バーカ、誰がお前みたいな乳臭ぇガキの身体なんかに発情するかよ。それに言っておくが、俺は童貞じゃねえからな」
「えっ、そうなのか?」
「「……」」
俺が言った瞬間、なぜかアテナが反応する。
俺とミリアリアとフレイはアテナが驚くと思わず、つい無言になってしまった。
変な空気になっていると、アテナは咳払いして、
「ご、ごほん! まあそれは置いとくとして、フレイはちゃんと服を着るんだ。パーティーハウスで一緒に暮らしているんだ、最低限の慎みをもってくれ。
一応ダルも男なんだ、間違いが起こらないとも限らないからな。まあ、恋愛が駄目だと言っているわけではないが……」
一応男って……一言多いぜリーダー。
俺だって傷つく時はあるんだぜ……。
「ちっ、わーったよ。着ればいいんだろ着ればよ。リーダー様の言うことには従ってやるよ」
「あと、アタシが入ってる時に入ってくるのもやめて」
「あん? お前はリーダーじゃねえから聞く必要はねえな」
「うざ」
「私も汗を流そうかな。悪いがダル、先に頂くぞ」
「どうぞどうぞ」
「おいおっさん、アテナの風呂覗くんじゃねえぞ」
「それには同意」
「覗くか! 人をエロオヤジみたいに言うんじゃねえ!」
全く、あいつらは俺を何だと思ってんだよ。
というか、よくよく考えたら今のパーティーって女が三人で男が俺一人なんだよな。
はたから見たら女を囲ってるハーレム野郎に思えるかもしれねえが、とんでもねえ。
セクハラされてるのは俺の方だっての。
はぁ……女だらけの中に男が一人って辛いわ。
エストがいたら、今のもきっとエストがからかわれて顔を真っ赤にさせて、それを俺がイジったりして楽しんでいたのにな。
今になって純粋無垢なエストが恋しくなるとは思わなかったぜ。
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