75 かつての仲間
「というか、ワールドワンを作ったのはダルなんだよ」
……。
…………。
「「えええええええええええええええええええええっ!?!?」」
イザークがぶっこんだ後、少し間が空いてギルドが驚愕の叫び声に満たされた。
あ~あ~あ~あ~、余計なことまで言っちまったよこいつ。
折角隠してたってのによ。マジで最悪だわ。
「嘘だろ? 今じゃ誰もが知る王都一のワールドワンを作ったのが、あの野郎だってのかよ」
「冗談とかじゃねーのか?」
「ダルって誰だよ、そんな名前の冒険者なんて知らねーぞ」
衝撃の事実に冒険者達が疑わしい眼差しを送ってくる。
そんな中、ちらほらと俺のことを覚えている冒険者が次々と口を開いた。
「あっ! 思い出した! そういや二、三年前くらいだったかに、世界一の冒険者になるって大ぼら吹きなガキが居たな」
「ああ、居たなそんなガキ。確かあん時はまだワールドワンがシルバーランクの時だったな。いつの間にか消えてったから、挫折して田舎に帰っちまったのかと思ってたぜ」
「でもよ、そん時のパーティーが一人も居ねぇぞ。イザーク以外がパーティーを抜けて、イザークが引き継いだってことか?」
「面影があるっちゃあるな。へ~、あのガキも大人になったんだな。ていうか老けてね~か?」
そこ、老けてるとか言わないの。
こちとらまだまだピッチピチの二十歳だっつ~の。そりゃ、イケイケなイザークと比較したら少しおっさん臭いかもしれんが……。
久しぶりに同期と会うと、自分のみすぼらしさを自覚させられるようで嫌になっちゃうぜ。
特に成功している同期を見るとな。羨ましいとか嫉妬とかは全く湧かないけど。
「おいダル、マジなのかよ」
「他人の空似じゃないの?」
「まぁ……昔のことだ」
「本当……なのか」
フレイとミリアリアが疑わし気に尋ねてくるので、なんてことないように答えると、アテナがぽつりと呟いた。
あれ、アテナはあんまり驚いた感じしてね~のな。
未だに騒めきが収まらない中、イザークは全く気にせず話しかけてくる。
「“あれから”元気にしていたか?」
「まぁ、ぼちぼちな」
「そうか。今は何をしているんだ? ギルドにいるってことは、まだ冒険者をやっているのか?」
「一応な。今はこいつらとパーティーを組んでる」
側にいるアテナ達を指しながら言うと、イザークはちらりと三人に視線を向ける。だが興味がないというか、眼中にないと言わんばかりに「へぇ」とだけ呟き、視線を俺に戻した。
「随分と若い子達だね、楽しそうじゃないか」
「楽しくなんかね~よ、疲れることばっかだ。んで、お前はどうなんだよ。なんだか凄い偉いことになってるみたいだが」
「俺はあれからワールドワンを引き継いで、新たに立て直したんだ。必死に努力して、世界一を目指していたら王都一のパーティーと呼ばれるようになったよ。実力に見合っているか分からないけど、俺もプラチナランクに昇格したしね」
「そりゃ~凄いこって。おめでとさん」
これは皮肉ではなく、心からの賛辞だ。
俺はてっきり、“あの事”があってからワールドワンは解散したんだと思っていた。しかしイザークは一人でワールドワンを引き継ぎ、王都一なんて呼ばれるほど大きくしたんだ。
それは並大抵の努力じゃなかっただろう。俺が、“俺達”がやりたかったことを一人で成し遂げたんだ。素直に賞賛するよ。
本当に大した奴だよお前は。
「ダルに、かつての仲間にそう言って貰えて嬉しいよ。当分の間は王都にいるんだろ? どこかで飲もうか」
「おう、奢ってくれるならな」
「はは、勿論さ。それじゃあ、用事があるからこれで失礼するよ」
そう言って、イザークは踵を返してアスタルテとかいう女を連れて換金所に向かう。
「さっ、俺達も宿に戻ろうぜ」
「おい、後で詳しく聞かせろよ」
「アタシも聞きたい」
「え~、恥ずかしいよ~」
(あの人、どこかで見たことがある……確かあれは……)
フレイとミリアリアにしつこく聞かせろと言ってくる中、アテナは立ち止まったままイザークの方を怪訝そうに見つめていた。
「おいアテナ、行くぞ」
「あ、ああ」
アテナを呼ぶと、俺達の方に駆け寄ってくる。
と、その時だった。
「アテナ」
エストがアテナを呼び止め、こう言ってきた。
「僕はゴールドランクになったぞ。スターライトもだ」
ほ~う。エストの奴、この短期間でもうゴールドランクになったのか。ってか個人だけじゃなくてパーティーランクまでゴールドかよ。
凄ぇ大躍進じゃねぇか。めちゃくちゃ頑張ったんだな。
エストの言葉に対し、アテナはにこりと微笑んでこう告げた。
「……そうか、おめでとう。私はまだシルバーランクだ。だが、私もすぐに追いつくよ」
「……」
それだけ言って、アテナは身を翻して俺達に駆け寄ってくる。
ランクを追い抜かされたというのに、アテナの表情には一片の曇りもなかった。
「先越されちまったな」
「そうだな。私達も負けていられない、すぐに追いつくさ」
「ちっ、あいつらより下ってのはムカつくな」
「珍しく同意」
アテナとは違い、フレイとミリアリアはつまらなそうに愚痴を吐いた。
気にすんな。どうせお前等も、すぐにゴールドランクになるだろうぜ。
◇◆◇
「で、テメエの話を聞かせてもらおうか」
「私も気になるな」
「え~やだ~恥ずかしい~」
「気持ち悪いからやめて」
あの~ミリアリアちゃん。そういう本音はぐさっとくるからもうちょっとオブラートに包んでくれるかな。お兄さん傷ついちゃう。
宿に帰ってくるや否や、三人は俺の部屋に来て昔話を聞かせろと言ってくる。
あんまり過去のことを話すのは得意じゃねぇんだけどな~。
「勿体ぶらずに教えろよ。気になってダンジョンどころじゃねぇぜ」
「はぁ、わ~ったよ。話すよ。でも、その話をするにはもう一人に会ってからだな」
「もう一人……とは、もう一人の仲間のことか?」
「正解。どうせ話すなら、あいつに会ってからでもいいだろ。まぁ、まだあいつが王都に居ればの話だけどな」
あれからもう数年経ってるし、王都にいるかもわかんねぇ。ただまぁ、一応居場所の心当たりはあるから行ってみるのもいいかもな。
イザークの顔を見たら、あいつの顔も見たくなっちまった。
俺はぱしっと膝を叩くと、立ち上がった。
「んじゃま、ついて来な」