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73 飛べんのかよ!?

 



「「行くぞ(ぜ)!!」」


「コケーー!!」


 アテナとフレイが、コカトリスに向かって猛然と駆け出す。そんな二人に対し、迷宮主も真っ向から対峙した。


 先手を打ったのはコカトリス。竜の翼を羽ばたかせると、激しい突風が巻き起こる。突風によってアテナは足を止めてしまうも、フレイは強引に突破した。


「しゃらくせぇ! これでも喰らってろや!!」


「ゴゲッ!?」


 コカトリスに肉薄したフレイは、跳躍して拳を振り抜く。ズンッと重い衝撃を胴体に受けたコカトリスは、悶絶したように涎を吐いた。


「はっ!!」


 体勢を整えたアテナが間髪入れずに追撃する。疾風の如く素早く接近すると、右足に強烈な斬撃を見舞う。剣は弾かれることなく肉を斬り裂き、鮮血が舞い散る。


「はは、強ぇなおい……」


 素晴らしいスタートダッシュの戦いっぷりに脱帽してしまう。

 初手でミリアリアを封殺されたハンデがあり、二人だけで戦うことになって心配していたが、どうやら余計なお世話だったようだ。


 心配するどころか、二人だけで迷宮主を圧倒していた。

 常に状況を把握し、決して深追いせず最善の一手を出し続けている。それも、アテナとフレイは互いの位置や攻撃を意識していて、個人プレーに走らず連携を行っていた。


「フレイ、尻尾がそっちにいった!」


「わーってらぁ!」


 意識の外で竜の顔に睨まれそうになったら、互いに指示し合って見ないようにしている。このまま順調にいけば、倒すのも時間の問題だろう。


「コケー!!」


「ちっ!」


「くそ、尻尾が厄介だな」


 だが、そうは問屋が卸さない。

 迷宮主にも意地があるのか、猛然と襲い掛かってくる冒険者に必死に喰らいついていた。鳥の嘴からは火炎の吐息ブレスを放ったり、竜の尻尾が鞭のような不規則な動きで薙ぎ払ってきたり、噛みつこうとしてくる。


 特に厄介なのは、顔がついている尻尾の意識が独立していることだった。

 コカトリスがどちらか一人を攻撃していると同時に、尻尾もどちらかに攻撃を仕掛けている。二対一ではなく、実質一対一の構図になっていた。


 しかも、いつ尻尾が魔術を使ってくるのかわからない。不意を突かれて目が合ってしまえば、一瞬の内に形勢は逆転しまうだろう。

 まぁ尻尾も常時魔術を発動している訳ではないと思うが、その代わり常に注意を払っていなければならず、思考力の消耗は早まってしまうだろう。


「はぁああ!!」


「おらぁ!!」


「グ、グエッ!?」


 アテナの斬撃が肉を斬り裂き、そんなアテナを横から襲おうとする尻尾の顔をフレイがぶん殴った。


 難しい戦いを強いられてはいるが、それを物ともしない戦いっぷりを披露していた。

 アテナもフレイも多少のダメージは負っているが、傷の多さで言えばコカトリスの方が断然多い。

 もうコカトリスは虫の息で、いつ倒れてもおかしくはなかった。


「コケーーーーーッ!!」


「なっ!?」


「おい、お前飛べんのかよ!?」


 鼬の最後っ屁だろうか。満身創痍のコカトリスが大きく翼をはためかせて飛び上がる。軽いジャンプ程度ならあったが、今まで空に飛ぼうとしなかったので、てっきり飛べないものだと思っていたんだが……。


 突然飛んだコカトリスに、アテナもフレイも鳩が豆鉄砲を食ったように驚いている。

 やべぇんじゃねぇのか? 二人とも遠距離攻撃の手段をもってねぇし。こんな時にミリアリアが居たら対応できたんだが……。


「コケコッコーーーッ!!」


「ブレスか!?」


 飛び上がったコカトリスが、地上にいる二人に向けて火炎の息を吐く。すぐさま距離を取ったことで、二人はブレスを喰らわずに済んだ。


「ちっきしょ~、飛ぶなんてズリぃぞ! おいアテナ、どうにかなんねぇのかよ!?」


「フレイこそ飛べばいいじゃないか! その翼は飾りか!?」


「あ……そういやそうだったわ。オレも飛べるじゃねぇか!」


 愚痴を吐くフレイにアテナが反論すると、フレイは閃いたようにポンっと手を叩いた。

 おいおい……自分が竜人族で飛べることを忘れてんじゃねぇよ。


 っていうか、そもそもフレイは飛べるのか?

 あいつが空を飛んでいるところなんて一度も見たことねぇぞ。まぁ、狭いダンジョンの中ばっかりで戦っていたから、飛ぶ必要性は無かったっちゃなかったんだけどな。


 フレイは背中に付いている紅い翼を羽ばたかせると、ひゅんっと風の如き速さで飛翔した。


「オラァ!!」


「ゴケッ!?」


 おお……マジで飛べたのか。

 フレイが飛ぶ姿を見て感動していると、フレイは両手を重ね合わせ、鈍器のように振り下ろしてコカトリスの頭頂部をぶっ叩いた。


「すぅ~~、竜魔術オラァ!!」


 脳が揺れてくらくらしているコカトリスに、間髪入れずに追撃を仕掛ける。

 大きく息を吸い、大気中に漂う魔力と空気を目一杯肺に取り込むと、一気に放出した。


「ゴケ~~~~~ッ!?」


「おお……ブレスまで出せるのかよ」


 フレイの口から放出された火炎の息吹が、コカトリスの肌を焼き焦がす。衝撃によって地に落とされたコカトリスに、すかさずアテナが迫りかかった。


「緋閃ッ!!」


「ギャァァアアアッ!?」


 真紅に煌めく剣を振り抜き、尻尾を一刀両断した。竜の顔は絶叫を上げると、ぐったりして息絶える。


「うっ」


「ミリアリア、大丈夫か」


「うん……少し楽になった」


 尻尾の魔術が解けたのか、苦しそうにしていたミリアリアの顔色が良くなっている。

 うん……狂っていた魔術の流れも正常になってるな。もう大丈夫だろう。

 ミリアリアは身体を起こし、険しい顔でぼやいた。


「アタシとしたことがあんな魔術に引っかかるなんて。許さない、ぶっ殺してやる」


「残念だけど、お前の出番はもうなさそうだぜ」


 治ったばかりの身体で、物騒なことを口走りながら戦線復帰しようとするミリアリアにそう告げる。

 彼女の出る幕はない。何故ならもう、フレイがトドメを刺すからだ。




竜の拳撃(ドラゴンズフィスト)ッ!!」


「ゴケーーーーーーーーッ――……」


 竜に向かって真っすぐに下降するフレイは、炎を纏った拳をコカトリスの身体に叩き込んだ。

 迷宮主は甲高い悲鳴を上げると、ぐったりと力尽きる。徐々に灰になっていき、灰の中から大きな魔石と鶏冠の一部が出てくる。


「しゃあ! いっちょあがりだぜ!」


「やったな、フレイ」


「ああ、お前もな」


 コツンと、勝利の勝鬨を上げたフレイとアテナが拳を重ねる。

 ははっ……マジであいつらだけで中級の迷宮主を倒しちまったぞ。ったく、どこまで強くなってんだよ。クロリスを出る前とは別人じゃねぇか。


 コカトリスからドロップしたアイテムを拾ってこちらに向かってくる二人に、「お疲れさん」と労う。


「まさかお前らだけで勝っちまうとはな。恐れ入ったよ」


「はっ、あの程度の迷宮主なんざオレの相手じゃねぇっての」


「っていうかフレイ、お前飛べたんだな。それに火を吹いたのも驚いたぞ。あれって竜種の吐息ブレスだよな、いつの間にできるようになってたんだ?」


「ああ~、元々飛べることは飛べてたんだよな。ただ忘れてただけでよ。そんでブレスは、鶏の真似したらなんとなく出来ちまった」


「あっ……さいですか」


 フレイの話に呆れてしまう。

 なんとなくできたって……末恐ろしいなおい。確かに竜族の血を引いた竜人族は、竜種最大の攻撃手段である吐息ブレスを扱うことができる。


 だが、扱うことができるからといって出来るとは限らない。そもそも普通の竜人族じゃブレスを放つことができないだろう。

 特に火属性のブレスってのは、吸い込んだ空気と魔力を肺の中で溜め込み、火属性に変換しなければならない。


 それを行うには、高熱度の火炎に耐えられる強靭な肺がなければならない。それか、身体強化魔術によって肺自体を強化するかのどちらかだ。

 なので、竜人族の中でもブレスを扱える者は決して多くない。


 それをフレイはなんとなくでやってのけちまった。俺の予想では、フレイの肺が元々頑丈だったと思われる。多少は上達したといっても、魔力操作に関してはまだまだ素人だ。肺のみを強化することは無理だろう。

 やっぱりこいつの身体能力スペックは凄まじいよな。


「まっ、オレが天才だったってだけの話だな! どこかの誰かさんが動けなくっても余裕だったしよ。な~ミリアリア」


「ぐぬぬ……」


 フレイは下卑た笑みを浮かべて、ミリアリアの頭をぐしゃぐしゃっと撫でる。

 うっぜ~~。こいつ、誰がどう見ても浮かれてやがるぞ。ニヤけ面が腹立つわ~。


 まっ、頑張ったのは本当だし、今回だけは見逃してやろう。俺はだけどな。

 ミリアリアはフレイの手をぺしっとはたくと、不機嫌そうに口を開いた。


「ウザい、触んないで。それにムカつくから調子に乗らないでくれる。たまたまアタシが初見の攻撃を喰らっただけで、それがフレイでも同じだったから。っていうか、アタシが残っていた方がもっと早く倒せた」


「いや~それはねぇぜ。オレだったらあんなヘマしなかったしな」


 明らかに調子に乗っているフレイに苛立つミリアリアも反論して口喧嘩に発展してしまう前に、アテナがパンッと手を叩いて止めた。


「はいはい、その辺にしておけ。それよりミリアリア、もう身体の方は大丈夫なのか?」


「うん、まだちょっと怠いけど、歩けるぐらいには回復してる」


「はっ、だらしがね~な。もっと体力つけろや」


「あっ?」


 折角アテナが締めたのに、ま~たフレイが余計な一言を言うから今度こそミリアリアが切れる。今にも上級魔術をぶっ放しそうな勢いなので、流石に俺も止めに入った。


「喧嘩は帰ってからにしろよ。折角迷宮主を倒して踏破したんだ、今は気持ち良く帰ろうぜ」


「ダルの言う通りだ。今は勝利を分かち合おう」


「へいへい」


「は~い」


 フレイは軽い返事をして、ミリアリアはバツが悪そうに歩き出す。

 実力の方は成長したけど、心のほうはまだまだお子ちゃまだな。


 はぁとため息を零すアテナに、俺は声をかける。


「リーダーも大変だな」


「まぁな。でも、ダルのお蔭で助かったよ。ありがとう」


「いやいや、俺はマジでなんもしてねぇよ。さっ、俺達も行こうぜ。あいつらに置いてかれちまう前によ」


「そうだな」


 俺とアテナは先に行ってしまった二人を追いかける。

 アテナもフレイも頑張ったし、ミリアリアもまだ本調子じゃないしな。帰りの戦闘はいっちょ俺が頑張るか。


 かったりぃけどな。


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― 新着の感想 ―
[一言] わあ、あのゴミはまだエストに謝らないのか、若い女性たちを強姦したがる汚いキャラクター。それでエストを追い出したゴミキャラクター。
2022/12/03 15:52 退会済み
管理
[良い点] ごみ [気になる点] ごみ [一言] 友達が紹介してくれて読んだんですが、本当にくだらない小説ですね。 こんなの推薦してくれた友達もこの友達昔からネトラレ好きなの知っていたのにこん…
2022/12/03 15:23 退会済み
管理
[良い点] サブタイでコカトリス飛ぶんだろうなーと思ってたけど、おまえが飛ぶんかい!
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