07 子供の喧嘩
フレイをスターダストに加えてから一か月が経った。
その間は迷宮でチームプレーを強めようと躍起になっていたが、全然進歩がない。
アテナはまだ付与魔術無しの状態に慣れていないし、フレイはすぐに個人プレーに走るし、ミリアリアはとうとう露骨にサボり始めるし。
俺も戦闘には参加しているが、ほぼサポートに回っていた。エストがやってくれていたことを引き継ぐような役割をしている。
この年になってそういう雑用周りをするのはかったるいんだが、パーティーが落ち着くまではやってやろうと思っている。
ぶっちゃけ、今のところは俺が戦いに参加しなくていい状況だしな。
何故なら中級の上層や中層程度のモンスターなら、フレイだけで事足りるからだ。
フレイの強さは俺の想像を超えていた。
テクニックは無く荒い部分も目立つが、それを必要としないほどのスピードとパワーを兼ね備えている。
まあ竜人族というだけで、俺たち人間族よりも遥かにスペックは高いからな。いや、フレイは竜人族の中でも実力が頭一つ抜けているだろう。強いのも頷ける。
流石、十五歳とまだガキの癖に【暴竜】なんて大層な二つ名をつけられるだけはあるってもんだ。
我儘なガキであることに変わりはないけどな。
「だァーー!! おいアテナ、今オレごと斬ろうとしたろ!?」
「してない!! 私が攻撃しようしたらお前が割り込んできたんだろう!? 人のせいにするな!!」
「ンだとテメエ!? オレが悪いってのかよ!?」
「ああ! そう言っているだろ」
「ま~たやってるよ。ダル、止めなくていいの?」
「勝手にやらせてろ……」
言い争いを始めるアテナとフレイ。
フレイが加入してから、二人はずっとあーでもないこーでもないとガキの喧嘩の如く言い争いをしている。
アテナも最初の頃は遠慮していたのだが、何度言っても言うことを聞かない馬鹿に堪忍袋の緒が切れたのか、ついにブチ切れてしまった。
それからというもの、二人はよくこうして子供のように言い争っている。
喧嘩している二人を呆れた風に眺めているミリアリアが、ため息を吐きながら俺に尋ねてくる。
「あの二人、相性最悪じゃない? このままだとパーティーが潰れるよ」
「そうか? 俺はあの二人、結構お似合いだと思ってんだけどな」
「ダルって馬鹿なの? あれを見てどうしてそう思えるか理解できない」
まあ普通の奴からすれば、いつも喧嘩している二人は水と油のように見えるだろうな。
ただ、俺にはそうは思えない。どちらかというとマイナスよりプラスの関係だと思うぜ。
アテナがあんなに感情を剥き出しにしているのは、俺が会ってから初めてのことだ。
あいつはいつも冷静なリーダーで、しっかりとした大人のように振る舞っていた。
そんな奴が眉間に皺を寄せ、汗と土埃に塗れたぐしゃぐしゃの髪を乱しながら子供のように言い争っている。
ただ必死に、がむしゃらにフレイに追いつこうとしていた。
リーダーとしての重圧から解き放たれて、前よりも生き生きしているように見えるんだ。
フレイの存在がアテナの潜在能力を引き出してくれる。
今はまだ上手くいっていないが、アテナはすぐに伸びるだろう。
それも、俺たちの想像を遥かに超えてな。
そしてアテナは、フレイにとっても大きな存在だ。
今のドラゴンヘッドのメンバーにフレイが所属していた様子のことを聞いたんだが、やはりというかあいつは今のようにオレがオレがの自己中だったそうだ。
しかも自分より下のやつは平気で見下すし、口悪く文句を言ってくる。
ただ実力だけは一流だったので、不満や文句を押し殺し、我慢してついていっていた。しかし傲慢で我儘なじゃじゃ馬娘にとうとう限界がきて、パーティーから追い出したそうだ。
ドラゴンヘッドの皆さんにはご愁傷様としか言えない。
というか偉い。あんな天狗になっているじゃじゃ馬娘に、今までよくついていったなと褒めたいぐらいだ。
フレイが我儘な性格なのが一番悪い。
ただ見方を少しだけ変えると、あいつは物足りなさを感じていたんだろう。
強すぎるが故に、周りがついてこれない。それを歯痒く感じ、もっといえば寂しさを抱いていたのかもしれない。
強すぎるが故の、孤独ってやつだ。
ドラゴンヘッドのメンバーが、あいつをヨイショしていたのも天狗を助長させてしまった原因だと思う。
実力は低くても、誰かがフレイに厳しく当たっていたら、もう少しマシな結果になっていたかもしれない。
その点、今のフレイにはアテナがいる。
実力は劣っていても、アテナは本気でフレイにぶつかっている。
本人は気付いてないだろうが、俺からするとアテナと言い争っているフレイは嬉しそうに見えていた。
自分を対等に扱ってくれる存在がやっと現れて、喜んでいるんだろう。
アテナとフレイ。
この二人はきっと良いライバルになる。
互いを意識し合うことで、すぐに強くなると俺は確信していた。
「ミリアリアよ、お前もサボってないで頑張らねーとあの二人に置いてかれちまうぜ」
呑気に欠伸をしているエルフにそう告げると、不満気な表情を浮かべて、
「余計なお世話。いっとくけどまだまだアタシの方が上。それよりダル、最近本当におっさんくさい。ムカつく」
うっ……お前人がちょっと気にしてたことズバッと言うなよ。
普通にへこむんだよ。
ていうか、俺だってこんなおっさんぽいことしたくねーんだっての。
「それに、サボってるのはダルも一緒」
「今はしょうがねーだろ。俺はパーティーのことを考えてだな」
「違う、“そっちじゃない”。一緒にパーティーを組んでから、アタシは“一度もダルの本気を見たことがない”」
「なんのことだかさっぱり分からねえな」
ちっ、やっぱバレてたか。
これだから勘のいいガキは嫌いなんだよ。
やっぱエストみたいに純粋無垢なガキの方がいいわ。
「おいダル、お前からも言ってやってくれ! そろそろ我慢の限界だ、このままでは手を出してしまうぞ!!」
「ああん!? 上等だよ、殴れるもんなら殴ってこいよ!! てかおっさん、テメエサボりすぎなんだよもっとやれんだろ!?」
あーあ、ついにこっちまでとばっちりがきちまったよ。
全く、うちのお嬢様方は手のかかるやつばっかりじゃねえか。
かったるいったらねぇよ。