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66 到着

マガジンポケット(マガポケ)で、本作の第一話が本日更新されました!

迫力ある絵となっておりますので、よろしければご覧ください!


 


「おい見てみろ、どうやら着いたようだぜ」


「ほう、あれが王都バロンタークか」


「デッケ~な。オレらがいたクロリスよりも全然デケエじゃねーか」


「なんでもいいからベッドで寝たい……」


 山を下りて街道らしき道を歩いていると、聳え立つ城壁が見えてくる。

 俺は一度来たから分かる。あれは紛れもなく王都バロンタークだ。


(にしても、ここまで来るのに結構掛かったなぁ)


 都市クロリスから王都バロンタークまでを目的地とする冒険の旅に出てから早数か月。


 鍛錬を行いながら、様々な出会いや冒険を経て、俺達はようやく王都に辿り着いた。


 実際、王都に行くだけなら一か月ぐらいで着ける。こんなに長くなったのは、ゆっくり旅を楽しみたかったってのもあるし、今までしたことがない体験や冒険をしていたからってのもある。


「色々あったが、目にすると達成感があるな」


 城壁を見つめながら、感慨深そうに告げる少女の名はアテナ。

 光輝く金色の長髪。透き通った白い肌。すっとした輪郭に、長い睫毛と潤んだ唇。美しい空色の瞳は、引き込まれてしまいそうなほど魅力がある。


 端正なのは顔だけではなく、スタイルも抜群だ。胸は大きいのに腰は細くて、足もすらっと長い。女神像のような完璧な体型。

 冒険者の格好をしていなければ、貴族令嬢と間違われてもおかしくない美貌だ。


 しかし、今となっては貴族令嬢とは思われないだろう。

 旅に出る前よりも、アテナは逞しくなった。外見はそれほど変わっていないが、雰囲気が出てきた。凄みというか、風格ってもんが身体から滲み出てんだよな。


 そんな彼女は、俺達スターダストのリーダーである。

 世界一の冒険者を目指し、冒険者になって一年にも満たない期間でスターダストをシルバーランクまで押し上げ、【金華】という二つ名を付けられるほどの実力者。身体能力、魔術共に優れた万能型の剣士である。


 そして、天井知らずの才能は星の原石そのもの。

 この旅で己を鍛えたアテナは、以前にも増して強くなった。


 習得するのに難しい受け流しという防御法を完璧にマスターし、唯一の弱点だった攻撃力の少なさも、『情動』という怒りをパワーに変換する精神法により克服した。

『情動』に至ってはまだ完璧ではないが、それでも以前より遥かにパワーが上がっている。


 それでもまだ、アテナの才能は底が見えない。

 まだまだ若いし、これからもっと強くなれるだろうぜ。

 アテナがどれだけ高みに上り詰めるのか、凄く楽しみだ。


 そしてきっと、彼女なら到達できるだろう。

 誰かさんがとうの昔に諦めた、世界一の冒険者ってやつによ。


「もう歩きたくない……ちょっと休も?」


 今にも眠ってしまいそうなぐらい疲れ果てているのは、エルフのミリアリア。

 エルフの特徴は耳が長く、内包する魔力が他種族よりも多くて、魔力との親和性も高く精霊に愛されている種族だ。


 そしてほとんどのエルフが美形である。

 彼女もそれに漏れず、新緑の長髪は絹の如く滑らかで、土色の瞳は宝石の如く輝き、完璧に整った顔立ち。まさに精霊のような人外染みた美しさだ。


 しかし残念なことに、身体の方はちんちくりんだった。背は低いし、胸は壁。いわゆる幼児体型ってやつだな。

 まぁそれはしょうがない。人間よりも遥かに長く生きるエルフにおいて、ミリアリアはまだまだ子供。成長するのはこれからだ。


 俺の知っているエルフはナイスバディだったし、彼女も後百年二百年生きたらイイ女になっているだろう。……なってるといいね。


 ミリアリアは超優秀な魔術師だ。俺が知っている中でも、三本の指には入るだろう。

 桁違いの魔力をその身に宿し、強力な魔術も習得しているのに加え、回復魔術や多くの属性魔術など使える魔術も多彩。俺はまだ目にしたことないが、本人曰く精霊魔術も扱えるみたいだしな。


 何と言っても、ミリアリアの才能は凄まじいものがある。

 エルフにとったらまだ赤子もいいところなのに、魔力操作がピカ一で、上級魔術まで扱える。だが彼女の才能はそれだけに留まらない。


 その才能の片鱗を垣間見たのは、世界と『同調』するための瞑想をしている時だった。


 ミリアリアは自分の才能に胡坐をかき、強さを求めることはしなかった。元々面倒臭がりで怠惰な性格だからか、現状の強さで満足してしまっていたんだ。それが余りにも勿体無さすぎる。


 類まれな才能を放っておくのは勿体無いと思った俺は、ミリアリアに幾つかの鍛錬を提案する。

 彼女は不機嫌そうに嫌だと断ったが、俺が「魔神に勝てなかったじゃん」と煽ったら乗ってくれた。そこら辺はまだまだお子ちゃまらしくて可愛いよな。


 鍛錬の内容は、体力作りと瞑想だ。

 スタミナが増えれば思考力の低下を防げるし、魔術を行使した際に疲労してもすぐにバテなくなる。

 ミリアリアは体力が無くすぐにバテてしまうので、それを克服するためにランニングや、山での特殊鬼遊びを行った。その結果、旅に出る前よりもかなりスタミナを強化できた。


 瞑想は、主に思考力と魔力の回復法である。

 魔術師は状況を見極め、常に冷静でなければならない。だがアクシデントが起こった時などは、冷静でいるのが意外と難しい。

 そんな時に瞑想を行うことで、一旦心を落ち着かせられるんだ。


 さらに瞑想には若干ながら魔力を回復する効果がある。特に魔力との親和性が高いエルフなら効果が大きい。


 ただ誤算だったのは、ミリアリアが世界と『同調』してしまったことだ。同調とは即ち、繋がること。草木や風、大地など魔力で溢れた世界と深く繋がってしまったことで、とめどなく魔力が注がれてしまった。


 器よりも多く注がれてしまった場合、器は耐えきれず破壊されてしまう。上級魔術を使うことで無理矢理魔力を放出し事なきを得たが、危うくミリアリアの身体が爆散するところだった。


 まさか『同調』できるとは思っておらず、俺はミリアリアの才能を見誤ってしまっていたんだ。危険なので瞑想での回復法は一旦中止しようとしたのだが、意外にも彼女自身がやる気で、俺が見ている時だけ行うことになった。


 驚きなのは、ミリアリアが自分の意思で栓を塞げるようになったこと。垂れ流しではなく、世界との同調を自分の手で切ることができるようになったんだ。

 流石にこれには度肝を抜かれたよ。そんなことできる奴、世界に何人いるだろうか。


 ミリアリアがどこまで凄ぇ魔術師になるのか、マジで楽しみにしてるんだよな。


「目的地が目の前にあんのに休む訳ねーだろーが。早く行こうぜ」


 ミリアリアの提案を一蹴するのは、竜人族のフレイだ。

 勝気な瞳は竜の如く鋭く、背中からは紅い翼が生え、腰の辺りからは竜の尻尾が生えている。


 アテナやミリアリアには劣るが、容姿はそれなりに良い。

 中性的な顔は整っていて、紅蓮の髪は短く乱雑に切り揃えられている。

 身体はバッキバキに引き締まっていて、スタイルもかなり良い方だ。エルフと同じように竜人族は長命なので、これから成長すればもっとイイ女になるかもしれない。

 もしかしたらだけど……。


 フレイは元々スターダストではなく、ドラゴンヘッドというシルバーランクパーティーに所属していた。


 パーティーのエースアタッカーだったのだが、性格がじゃじゃ馬な我儘で、周りに合わせず好き勝手やっていた彼女は、ついにパーティーから追い出されてしまう。

 そんな時にアテナに声をかけられ、スターダストに加入したんだ。


 スターダストに加入してからも我儘っぷりを披露していたが、色々あって反省し、自分を改めるようになった。そこからは周りと協調するようになり、今は上手くいっている。


 まぁ、我儘でじゃじゃ馬な性格はちっとも変ってないけどね。それが負けず嫌いで良いところでもあり、可愛いところでもあるんだけどよ。


 フレイは【暴竜】という二つ名を付けられるほどの格闘家ファイターである。

 竜人族の身体能力スペックをフルに使い、パワーとスピードに物言わせてガンガン攻めるスタイルだ。

 竜の血を引いていることから魔力量もかなりあるが、残念ながら彼女は魔術や魔力操作が苦手だった。


 それを勿体無いと思った俺は、フレイに課題を課す。


 一つは魔力操作と身体強化魔術の技術向上だ。

 フレイは身体強化をする時、百の力しか出せない。すると魔力の消費も激しく効率が悪かった。だから一先ず、一日中身体強化をすることで魔力の流れを掴んでもらう事にした。


 最初の頃は全然できなかったが、今では二段階に分けて身体強化をできるようになっている。感覚派の彼女は、頭で考えず身体で覚えた方が早いんだ。


 アテナとミリアリアと比べるのは可哀想だが、二人と比べてフレイは魔術の才能がある訳ではなかった。だけど身体能力スペックだけなら一番だし、これからも続ければもっと強くなれる。


 もう一つはアテナと同じく受け流しの防御法だ。

 フレイは身体が頑丈なのをいいことに、敵の攻撃をその身で受けてしまう。頑丈だからといってダメージが蓄積されない訳ではない。ただ防御するだけでは駄目なんだ。


 だから受け流しを覚えてもらおうとしたんだが、やはりアテナより習得は遅かった。

 でも、武芸者の町で木影流道場のパイ師範とその弟子メイメイと出会い、フレイは飛躍的に成長した。


 木影流の弟子になり、メイメイと共に武術を学び、受け流しをモノにしたんだ。それだけに留まらず、フレイは『情静』も覚えてしまった。

 怒りの感情をパワーに変換する『情動』とは逆に、心を落ち着かせ極限の集中状態に入る『情静』。


 後の先、静の流派である木影流の弟子になったからこそ、『情静』をできるようになったんだと思う。まぁ、今のところ本人は『情静』のことすら知らないと思うけどな。


 剛のフレイが、受け流しと『情静』を習得したことで何段階もの成長を遂げた。さらに技を磨いていけば、フレイは攻防完璧なファイターになれるだろう。その時がすげー楽しみだよ。


 この数か月で、三人は飛躍的に伸びた。

 ダンジョンに行ってモンスターと戦えば、自分の成長具合に驚くだろうぜ、きっとな。


(思い起こせば、色々なことがあったな)


 旅に出てから様々なことがあった。

 変なモンスターと出くわしたり、野盗に襲われて返り討ちにしたり、武芸者の町でパイ爺さんやメイメイと出会ったり、迷宮教団とか怪しげな奴等と戦ったり。


 それに山を越えるのはかなり大変だった。

 ずっと雨続きで足止めを喰らったり、風邪を引いてしまったミリアリアが怪鳥モンスターに攫われたりと、波乱万丈な旅だったよ。


 まぁ、それが旅というか冒険の醍醐味で、楽しかったところもあるんだけどな。


 それを乗り越え、俺達はついに王都バロンタークの目の前まで来たんだ。


 因みにだが、クロリスで調達した馬は武芸者の町に置いてきた。申し訳ないが、馬では厳しい山を越えることはできないからだ。最後まで一緒が良かったが、そればっかりは仕方がない。

 クロリスへ帰る時に、馬屋に残っていたらまたお願いしよう。


「おいダル、なにぼけっとしてんだ。早く行くぞ」


「そーだそーだ~」


「なんだ、疲れたのか?」


 感慨気味に耽っていると、フレイに急かされてしまう。いつの間にかフレイに背負ってもらっているミリアリアも調子に乗っているし、アテナからは心配されてしまった。


「今行くよ」


 俺はダル。酒と綺麗なお姉さんが大好きなぴちぴち二十歳のナイスガイだ。

 三人からはおっさん臭いと言われることもしばしばあるが、俺が最年長で年上ムーブをするから仕方ないんだよねぇ。


 俺だってスターダストに綺麗でナイスバディなお姉たまがいれば、子供のように甘えちゃうぜ。残念ながらスターダストにはガキ共しか居ないので、甘えられないけどね。


 まぁそれでも、こいつらの成長を間近で見られて楽しいんだけどな。


 先に行く三人に追いつくと、俺達はバロンタークへ歩み出したのだった。



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