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63 贈り物

 


「だぁ~~疲れた~~流石にもう動けねぇぞ」


 体力に限界がきて床にへたり込む。これ以上戦うどころか、もう立つことすら出来ねぇだろう。


 今回はちょっと無理し過ぎたな。

 あの『艷公』とかいうイカれた女との戦いでかなりの血を流したし、魔力を全解放した代償によって身体はボロボロ。魔力だって碌に練ることもできねぇ。


 その状態でタオロンと戦って、奴の攻撃パターンを把握するまでに時間がかかっちまったし、さらにダメージを負っちまった。


 タオロンが舐めてかからず、最初から全力で仕留めにきていたら負けていたのは俺の方だったかもしれない。


 正直最後の攻防も賭けだった。薄氷を踏むような、紙一重もいいところ。一撃で決まってくれたからいいものの、もし受け止められていたら反撃する力は残っていなかった。


 はた目からは上手くやっていたように見えていたが、実際は一歩足を踏み外せば即終了だった。本当に、自分でもよくやったと感心するぜ。


「アニキーー!!」


「ぐぉ!? ちょ、メイメイ……今マジでやばいからそんなに強く抱き付かないでくれ!!」


 メイメイに飛び付かれ、衝撃によって悶絶する。

 嬉しいのは分かるけど、もう少し怪我人を労わってくれよ。


「アニキの戦いっぷりに感動したっす!! もう本当に凄いとしか言えないっすよ。まさかあの最後の場面で、アチキの柳落としと破天流の技を組み合わせたんすから!!」


「『情静』から『情動』への切り替えも驚いたよ。よく真逆の精神状態を瞬時に切り替えられるな」


「瞑想も……あの緊張感の中、立ったまま一瞬で深い集中状態に入ったのはビックリした」


「それだけじゃねぇ。この野郎、鍛錬もしてねぇ木影流の技と破天流の技を、その場で自分流にアレンジしてやがった。ムカつく野郎だぜ」


「はっ……なんだお前ら、ちゃんと見てたんじゃねえか。鍛錬の成果が出ているようで、教えた俺も誇らしいよ」


 こいつらの言っている事は当たっている。

 最終局面の時、俺はまず瞑想を行った。


 その理由としては、深い『情静』状態に入る必要があったからだ。体力も消耗し身体を満足に動かせない中、タオロンの激しい攻撃に対応するには、集中力を極限まで高めてタオロンの思考を読み切るしかなかった。


 視線や細かな動きで誘導することで、俺は最小限の動きだけで凌ぐことができた。


 逆に一向に攻撃が決まらないタオロンは焦ってしまい、隙の大きい大技を繰り出してくる。

 それを待ってましたと言わんばかりに柳落としで体勢を崩し、一撃で決めるために『情動』を発動して、最後は意趣返しとして螺旋豪脚で決めた。


 まぁ、あの技がかなり質の良い技で、動きがカッコいいから俺も使ってみたかったってのも少しはあるんだけどな。


 にしても、こいつらが俺の動作を見て理解してくれていたのは嬉しいもんだ。

 仲間の成長を喜んでいると、フレイが不満気に聞いてくる。


「まさかテメエ、俺たちに見せるためにわざとやったんじゃねぇだろうな」


「まさか……そんな余裕はねぇよ。マジで俺も追い込まれてたんだ。持ってる手札を全部使い切ってギリギリ勝ったようなもんだぜ」


「は~ん、なんか怪しいぜ」


「まぁいいじゃないかフレイ、これでようやく全て解決したんだから」


 アテナの言う通りだ。

 モンスターの襲撃も防ぎ、リュウとタオロンをぶっ潰して木影流の看板も守られた。

 終わりよければ全て良しってことよ。


「終わって……はぁ……はぁ……ませんよ」


「「――っ!?」」


 不意に聞こえた声に動揺する。振り返ると、ぶっ倒れていた筈のタオロンが苦しそうに起き上がっていた。

 おいおい勘弁してくれよ、あれを喰らってもう回復したってのか?


「この手は使いたくなかったですけど……もういい、全員ぶっ殺してやる!!」


 怨嗟の声を漏らすタオロンは、懐から薬のようなものを取り出し口に含む。


 刹那、奴の身体に異変が起きた。体躯が二倍近く大きくなり、ボコボコと泡立ちながら筋肉が膨張する。上半身が肥大化し、道着がパンっと弾け飛んだ。

 それだけじゃない……魔力も相当底上げされてるぞ。


(ちょっと待ってや、こっちはもう動けねぇんだぞ!!)


「死ネエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」


「「――っ!!」」


 舌を出し、狂気を孕んだ顔を浮かべながら変り果てたタオロンが迫ってくる。

 動けない俺を守ろうとアテナ達が身構える中、小さな影が横を通り過ぎた。


「木影流・朧凪」


「ガッ!?」


 正面から飛来する豪拳に対し、パイ爺さんが両手で受け流す。

 流れに逆らえず、タオロンはぐるんと一回転して床に叩きつけられた。困惑している隙に爺さんはするりと肉薄すると、ダンッ!! と強く床を踏みつけ掌打を放った。


「木影流・真芯水流掌」


「ガハッ――ッッ!?!?」


 爺さんの掌打を胸部に喰らったタオロンは、唾液を吐き散らし背中から倒れる。そして今度こそ、確実に意識を失っていた。


 強化されたタオロンを電光石火の如く倒した爺さんに、俺達はポカンと放心していた。


「「ええ~~……」」


「ああ~腰が痛い。全く、年寄りを動かすんじゃないわ」


 とんとんと腰を叩く爺さん。

 ははっ……やっぱりこの爺さんには敵わねぇな。



 ◇◆◇



「失敗した失敗した失敗した失敗した!! こんな、こんな事があってたまるか!! あいつらの所為だ!! あの冒険者共さえいなければこんな事にはならなかったんだ!!」


 その日の夜。

 破天流の道場にて、床に伏せるタオロンは怒り狂っていた。

 意識を取り戻した時には、すでに彼は破天流の道場にいた。どうやら、回復したリュウが道場まで運んでくれたらしい。


 そんなリュウに、タオロンは役立たずだとか無能だとか、ありとあらゆる罵声を浴びせた。

 リュウは口を開くことなく、甘んじて罵声を受け止め、タオロンの気が済んだ後にどこかに消えた。


「まだだ、まだ挽回できる!! 明日にもまた、あいつらをぶっ殺しに行ってやる!!」


 怒りが収まらず、怒声を上げるタオロン。

 今はダルとパイにやられたダメージと、薬の副作用によって動くことは不可能だが、明日になれば回復するだろう。そして、今度こそ木影流を潰してやると息巻いていた。


 だが、彼は知らないだろう。

 タオロンにはもう、明日は来ないことを。


「うふふ、随分ご立腹なようだけど、何かあったのかしらぁ?」


「――っ!?」


 不意に、唐突に、忽然と女が現れる。

 気配を感じ取ったタオロンが振り向くと、そこには妖しい笑顔を浮かべた『艷公』が立っていた。

 ダルの読み通り、『艷公』は衝撃波から逃げのびていたのだ。


「え……『艷公』様!?」


「なんとか流を潰すの、失敗したみたいねぇ」


「しし……失敗しました。ですがまた明日にでもやつらを殺し、この町を破天流に染め上げ、迷宮教団の拠点ものにさせます!! なのでお願いです!

 どうか、どうか私にもう一度チャンスをください!!」


 恐怖に脅えながら、タオロンは必死に懇願する。

 そんな彼に、『艷公』は「そうねぇ……」と首を傾げながら、


「悪いのだけれど、貴方はもう用済みよ」


「がはっ!」


 胸に剣を突き立てた。

 口から血を吐き出し、震えるタオロンは『艷公』を見つめながら、


「な……何故……」


「今回の試みは、単なる実験だったのよねぇ。上手くいってもいいし、失敗してもよかったのよぉ。それに、貴方に上げた薬の効果も見れたしねぇ。

 だからぁこの町も貴方も破天流も、もういらないの。それとぉ、このことを知っている人間を生かしておく訳にもいかないのよねぇ。他の『七凶』に知られたくないしぃ」


「嫌だ……死にたくない……死に……」


 ついに息絶えたタオロンを見下ろしながら、『艷公』は舌で唇を舐める。


「うふふ……あの冒険者、ダルといったかしら。また会いたいわぁ、身体が燃えるような戦いをしたいわぁ。いつかまた会いましょう、ダル」



 ◇◆◇



「世話になったな、爺さん」


「お世話になりました。お二人もお元気で」


「じゃあね」


「こっちこそ、色々と手間をかけたの」


 次の日の朝。

 旅支度を済ませたダル達は、町から旅立とうとしていた。


 そんな彼等を、パイ老父とメイメイが見送りにきている。

 メイメイはフレイに近づくと、懐から赤い腕輪リストバンドを取り出し、恐る恐る差し出した。


「フレイ、これを受け取って欲しいっす」


「あん、なんだこれ?」


「腕輪っす。今日まで弟子の雑務を頑張ったご褒美っすよ。アチキはフレイの姉弟子っすからね」


「まさかお前、わざわざこれを買う為にあの時一人になったのか」


「そ、そうっすよ。文句あるっすか」


 フレイは「ねぇよ」と笑って、照れ臭そうにモジモジしているメイメイから腕輪を受け取ると、右手首に着ける。

 赤い腕輪は、紅い髪のフレイによく似合っていた。


「どうだ? イカしてるか?」


「はい、イカしてるっす!」


「またろうぜ、今度は負けねぇからな」


「アチキも負けないっすよ」


 コツンと拳と拳をぶつける。

 別れを済ましたダル達は、踵を返して去っていく。彼等の後ろ姿を眺めながら、パイは隣にいるメイメイに声をかけた。


「ダル達と共に行っていいんじゃよ、メイメイ。こんな古びた道場にいつまでってないで、広い世界を見てきなさい」


 メイメイはパイの方に振り返ると、満面の笑顔を浮かべてこう告げた。


「いいんすよ、アチキは木影流の武芸者っすから。それにアチキがいないと、お師匠様は長生きできないっすよね」


「ふん……これは一本取られたわい」


 弟子の成長に、師匠は嬉しそうに微笑んだのだった。


ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます!


これで第二章は終わりです!

楽しんで頂けたでしょうか?


次章はまだ手をつけておりませんが、ダルの過去や、ダルの話をメインに書こうと思っています。

お楽しみにしていただけたら幸いです。


また、書籍化やコミカライズの情報は順次お知らせしていきたいと思いますので、どうかよろしくお願い致します。


毎回のように多く誤字脱字をしてしまい、大変申し訳ございません!!

チェックはしているのですが、どうしても出てしまって…。

そして毎回誤字脱字のご報告と修正をしていただき、本当にありがとうございます!!



ブクマ、感想、評価ポイントやいいね、ありがとうございます!

とても励みになります!


「面白そう」「続きが気になる」と思っていただけたなら、ブックマーク登録及び下にある☆☆☆☆☆のクリック、もしくはタップをお願いします!


これからも【追放する側の物語】をどうぞよろしくお願い致します!!


モンチ02



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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄い読みやすいです! 身体に気をつけつつ、頑張って下さい! [一言] 書籍決定おめでとうございます! 買わせて頂きます!
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